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地方の口コミはSNSを超える?って言うとちょっと大袈裟だけど、そんな現象。

今日の「時々、コラム。」は「シマシマしまね」で販売している商品の中から、最近起きている奇妙な(?)現象について。

現在、「シマシマしまね」は冬季営業中。
月曜と金曜のみ、オープン時間は10時~12時、と決して「行きやすいお店」ではないにもかかわらず、お客さまが時間を合わせて来てくださり、ありがたいことです。

ショップコーナーには「島根のいいもの」がいろいろ並んでいますが、中でも人気なのが津和野町「香味園 上領茶舗」さんの「ざら茶」です。

「シマシマしまね」ができたのが2017年なのですが、オープン当時から定番の人気商品だったのが「ざら茶」。「カワラケツメイ」というマメ科の植物をまるごと煎じて作られた、津和野町の名産品です。

施設が雲南市から出雲市斐川町へ移転し、施設の形態が変わってからも、「ざら茶」はずっと人気商品なのですが、特に去年の年末あたりから、なぜか、目に見えてたくさん売れるようになりました。

来られる方来られる方、皆さん「ざら茶はありますか」と言われる…DMでも「ざら茶ありますか」という問い合わせが増える…など、なぜこんなにも「ざら茶だけ」がたくさん出るんだろう?と疑問に思っていたのですが、先日来られた常連のお客さまとの会話から、その答えの一端が分かったのです。

聞けば、その方がお友達をご自宅に招いたときに「ざら茶」を出してくださっているそうで、そのおいしさを実感したお友達たちが、次々に「シマシマしまね」にいらしていた、というわけ。

思えば、その常連のお客さまだけでなく、いろいろな方が「ざら茶」をご自宅や職場で広めてくださっているのです。実際に召し上がってそのおいしさを知り、「ここにあるって聞いたので」とはるばる訪ねてくださっているのでした。

こうして小さなショップの中で不動の一番人気を続けている「ざら茶」。
この人気の理由を分析してみることにしました。

1.出雲地方の独特な「お茶文化」

島根県東部の出雲地方(特に出雲市や奥出雲町、雲南市など)では、日頃からお茶の時間をとても大切にしています。
「お茶の時間」と言ってもいわゆる皆さんが想像する「ティータイム」とは趣が異なります。いわゆる「お茶事(おちゃごと)」文化。

お茶事では、必須アイテムとして
・お茶
・お菓子(気取ったお菓子ではなくて、例えば小袋に入った甘納豆とかおかき、カステラなどが出てくるのですが、たまにショートケーキがあったり、たこ焼きがあったり…とにかく雑多にいろいろ出てくるのが特徴です)
・果物(りんごの切ったのとか、みかんとか)
・漬物(誰それが漬けたぬか漬け、市販の漬物など、大きな鉢にどーんと漬物が盛り付けてあります)
・煮物(かぼちゃの煮つけなど、季節の煮物が大皿に盛りつけてあります)

煮しめが並ぶお茶事時間

などが、テーブルに所狭しと並べられます。
「漬物」あたりから「…え?」と思われる方も多いのではないでしょうか。私も最初このお茶に呼ばれたときには「おやつなのか…食事…なのか?」と目を疑いました。

こうしたお茶うけはホストが用意するものもあれば、招かれたお客が持参するものもあるため、お菓子も漬物もひとつとは限りません。
冬場はこたつの上に乗りきらない煮物や果物が畳の上にじかに置かれて、「あんた、これもあーけん食べーだわ」「あんたは本当に食べらんねえ」「足りとーますかいね」といった「もっと食べろ、やれ食べろ」の会話が途中で差し挟まれるわけです。

これは湯呑みが大きいバージョンのお茶事。出雲のお茶はこの湯飲みの3分の1程度のサイズで出されることが多い。

中でも「お茶」は、小さなサイズの湯呑みに入ってサービスされるのですが、これが、飲んだら注がれる、飲んだらまた注がれる、といった調子で、「もう大丈夫です」と言わない限り(いや、言ったとしても)ほぼ永久にお茶が注がれ続けます。
私は初めてこのお茶事の洗礼を受けた時に「…わんこ蕎麦か!」と心の中でツッコミを入れたほどでした。

ちなみに、コーヒーはお茶とは別に当然のように出てきますし、何ならコーヒーも、何も言わずともお代わりが普通に注がれます。コーヒーはもう結構です、というと、じゃあお茶を‥とお茶を注がれてしまう。
「空になっている」状態がゲストに対して失礼にあたる、という文化なのです。

想像するに、こうした「エンドレスお茶」文化の中で、クセのある風味や飲み飽きてしまうような味わいのお茶は不向きであり、「何杯でも飲める」「飲み飽きない」お茶がベストなのではないでしょうか。
その点、「ざら茶」はノンカフェインで味わいも申し分なし。出雲のお茶事にはぴったりのお茶、なのだと思われます。

2.お茶がおいしい

理由1の最後でも触れましたが、やはり「ざら茶」そのもののおいしさ、が決め手になっているのだと思います。夏や冷やして、冬は沸かしたてで、どんなシーンでもしっくり来ます。

お弁当のお供にも

「シマシマしまね」にいらしたお客さまは皆さん、「本当においしかった」「香りが良い」「毎日飲みたい」「ちょっと甘い風味と香ばしさが最高」と、べた褒めされます。
雲南市で活動していた頃はキッチンが併設されていたため、オープン時には朝にこの「ざら茶」をたっぷり作っておいて、来られたお客さまにお出ししていましたが、その時もやはり「おいしいね!」と驚いてそのままお買い上げいただく、ということがよくありました。

洋菓子にも合います

いくらサービスしてもおいしくないものや合わないものは購入には至らないもの。きっと幅広い年代の方に愛される味わいなんでしょうね。
そういえばうちの娘たちも「ざら茶おいしい!」とずいぶん前から気に入ってたな、と思い出しました。


3.口コミの力

地方では特に有効だと思うのですが、「バズるよりも口コミのほうが最終的に効果が高い」という法則があります。
もちろん、流行りものも好きなので(特に出雲では)新しいお店に行列が出来たり、オープンしたらとりあえず行って買ってみる、という感じで、メディアやSNSで紹介されたものに飛びつく人も多いのですが、それはあくまでも即時的なもので、長く続くわけではありません。

ですが、「こないだお茶に呼ばれたときにすすめられたから」「〇〇さんがおいしいって言っとられたから」という、「身近な人がいいって言っていた」というのが、何より効力が高く、しかも持続性があります。

信頼してる人の「推し」は何よりも強い、というコラムを過去に書いたこともありました。

仲良しグループでお茶会をした時に、お友達が淹れてくれたお茶がおいしくて、「これどこの?」「これはねえ、津和野のお茶で…」と、会話の中で自然に「ざら茶」の存在が記憶に刻まれ、うちを訪ねてくださっているのです。

テレビやインスタで知って…という方ももちろんいらっしゃいますが、やはり「自分の大切な人」がおいしい、と思っているものを、自分も飲んでみたい、共有したい、という気持ちのほうが(直接的なコミュニケーションの中で感じる心情なだけに)印象強い。
特に地方では、地域内のお付き合いがまだ残っていて、お茶をしながらのコミュニケーションはその最たるもの。加えて、「いいものを人に教えたい」「喜んでもらいたい」という欲求もある。

それが、出雲の独特な「お茶文化」と融合して、シマシマしまねで「ざら茶」が売れている、という結果につながっているようです。

さらに、島根では…というか、今の事務所に移転してから特に感じるのですが、60代以上の方々のフットワークがめちゃめちゃ軽い!

「おいしかったけん、ちょっと来てみたわ」という方の多いこと。人生の先輩たちの「思ったら即行動」の精神、見習わなくては…。

こうした多様な理由により、「ざら茶」が「シマシマしまね」で一大ブーム(というのは大げさですが)を巻き起こしているのでした。

同じような現象で「龍岩さんのあられ」もおいしいという評判が広まり、ざら茶と並び、不動の1位です。(あられの入荷は不定期となっています。)

思い起こせばそもそも、なぜ「ざら茶」を「シマシマしまね」で販売することになったかと言うと、島根県西部のご出身だったお客さまからの「口コミ」があったからなのです。

オープン前に「何かおいしい食材ご存じないですか?」とおうかがいした際、「津和野にすごくおいしいお茶があるんですよ」というのを教えていただきました。
実際に買って飲んでみたら本当においしかった、だから津和野まで行って仕入れてきた、というのが始まりなわけで、「口コミこそが最強」というのは仕入れ開始当時から分かっていたことだった!と妙に腑に落ちたのでした。

前述した「龍岩さんのあられ」も、もともとは邑南町出身の方の「おいしいあられがあるよ」という口コミから仕入れに至った商品。
”人伝えの信頼”の積み重ねが評判を呼ぶのですね。

「ざら茶」への気づきをいただいた常連のお客さま、先日もまとめ買いしてくださったのですが、「調べてみたら、大袋もあるんだね」とのこと。

そう、「上領茶舗」さんのHPでは、うちが販売している70gの小さな袋だけじゃなく、1kg入りの大袋や、ティーバッグ入りの便利なものなど、多様な「ざら茶」がネット販売されています。

でもその常連客の方が「まあでも、ここ(シマシマしまね)に遊びに来たいから、小さいのをちょこちょこ買うことにするわ」とおっしゃってくださったのが、何より嬉しくて。

買い物だけじゃなくて、会話や人との出会い、「山の図書室」での本との出会い、新しい商品との出会いなど、いろんなことを楽しみにされて、わくわくした気持ちで訪ねてくださっているのだなあ、というのが分かって、とても幸せな気持ちになりました。

「シマシマしまね」はショップという形態を持ってはいますが、何も買わなくても立ち寄って話をしてくださったり、「山の図書室」で本を借りてくださった歳にちょっとお話したり、という、物販以外のところでの「ほんわかした充足感」もとても心地よい場所、だと自分たちでは思っています。

どうぞ、たくさんお話して帰ってくださいね。もちろん何も話さなくても全然大丈夫!自分たちがコミニケーションが得意でないので、シャイでも大丈夫な場所を作りたいと思っています。

お客さまにも居心地の良さを感じていただけるよう、これからも地域への思い、暮らしへのまなざしを「共有できる場」として、開いていけたらいいな、という思いを新たにしました。






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