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ポテチも食べます ~カテゴライズの話。

2005年に「ていねいな暮らし」というコンセプトで活動を始めた当初、くらしアトリエは任意団体で、女性ばかりのグループで、事務所もなかったため、それを「仕事」だと思っていただくのにはとても苦労しました。そんな、いわゆる9時−5時で会社にスーツを着て会社に通うのが「仕事」である、という、少し前の価値観の時代の話です。

出会う方(特に男性)に良く聞かれたのが、

「くらしアトリエさんって、おやつは全部手作りですか?」

「ポテチなんか食べませんよね?」

「ハンバーガー食べないでしょ?」

「やっぱりごはんは玄米ですかね?」

という類の質問でした。

「おやつを手作りするのも好きですが、市販のおやつもよく買いますよ」

「ポテチも食べたいなーと思ったら買ってきて食べます」

「ファストフード店行きます、何ならそこで打ち合わせしたりします」

「玄米も時々炊いたりマクロビのカフェに行ったりするのは好きですが、白いごはんも炒飯も同じように好きです」

と、その都度答えてきたのですが、そのたびに「まあ、そう思われても仕方ないなあ…」という思いもありました。

なぜなら、「ていねいな暮らし」がとても概念的で言語化しづらく、当時話題になりつつあった「ロハスライフ」「サスティナブルな暮らし」などのいわゆる「スローライフ」にカテゴライズされることがとても多かったからです。※本当はそうではないのです!

当時は実店舗もない活動だったので、直接お会いしてお話をする機会もほとんどなく、ウェブで皆さんにお伝えする際には分かりやすく「手作りおやつ」「子どもとの時間」「木のおもちゃ」といったキーワードを使っていたので、仕方のないことだったのかもしれないけれど、こういう「他者からの定義づけ」は無理からぬことだ、と今では理解できます。

なぜなら、人間は自分の中にはない概念を目の前にすると、それを自分の知っている概念のいずれかに置き換えがちな生き物だからです。「ははーん、この人たちはおやつを手作りするのが楽しいって言ってるから、自然育児派の人だな」とか、「子どもと自然の中で遊ぶのが楽しいということは、自給自足的生活でしょう!」とか、その人の持つ既成のカテゴリに入れられてしまう。

相手の価値観にないものはそもそも分類されず「変な人」として扱われるし、逆に相手が幅広い価値観を持っていれば、こちらの言わんとすることがすっと串が通るように通じることもある、というのが私たちの経験から得た持論です。

ポテチを食べないのか、と質問されてちょっとイラっとするのは、「私たちそのカテゴリじゃないんですー」という違和感と、「一方的に自分の価値観の中で決めつけないで―」という不満があるから、なのです。

同じように、カテゴライズされてちょっと「?」となるのが「ママさん」というカテゴリです。確かに私は母ですが、「ママ」という肩書で活動することはほとんどありません。でも、やっぱり社会活動の中には「ママさん」カテゴリが存在していて、私たちはそこに入ると思い込んでいる人も多いのです。

ママ…っていうか母の中にも数えきれないほどの分類があり、ひとりひとりみんな違う。ひとりひとり思い描く「ママ像」だって全部違うでしょう。「地域と暮らしをつなげる活動」をする中で母親の目線は欠かせないかもしれないけれど、同じように父親の目線も、地域の人たちという目線も必要です。

母とか父とか女とか男とかじゃなくて、「人として」どうあるべきか、っていうことを言っているのに、「社会活動をする母=ママさん活動」というめちゃめちゃざっくりしたカテゴリ分けをする人には、ものすごい抵抗感があるんですよね…。そこに分類しないで!という違和感はずっと持ち続けています。

でもでも、ひるがえって自分のことを考えると、めちゃくちゃ人をカテゴライズしているのです、私。初めてお会いする方と話をさせてもらった後は、いつも「この人は○○系」と自分の価値観の中で分類しています。活動するうえではすごく便利だけど、もしかしたら相手も私と同じように「そこじゃないのに!勝手に決めつけないで」と思っているかもしれない、と思うと反省です…。活動をカテゴリ分けすることは必要なことだけど、決めつけは良くないですね。


あなたと私は違う、と線を引くことは簡単ですが、線を多く引けば引くほど、生きにくいように思います。そうではなく、自分の中のカテゴリーを増やす努力をしたほうがいいのかもしれない。カテゴリーを多く持つ人ほど、受け入れる力に長けていて人生が楽しいんじゃないかな、と、周りにいらっしゃる素敵な方たちを見ると思えてきます。

それぞれが持つカテゴリー(それは決して一つではない)を意識しながら、重なるところで共感し、異なるところでは刺激を受けることで、本当の多様性が成り立つものなのかもしれません。

そして一番大切なのは、私たちが法人として、分かりやすく皆さんに伝える言語を持つことなんだと思います。どこにもない、オリジナルなカテゴリを提示すること。「ああ、それってくらしアトリエっていうことね」くらいの価値観を作り上げることができたら…というのが、立ち上げ当初からの目標のひとつでもあります。もちろん目標にはまだまだ程遠い道のりではあるのですが、他の何者でもない「くらしアトリエ」であり続けるために、考え、悩み続けていきたいな、と思っています。


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