【価値観を形づくる宿】 1. 幼児の目から見た「二期倶楽部」
極めて個人的な、宿泊施設にまつわる記憶の話です。
最近「運命思考」というワードを知りました。人もものの記憶もすべて繋がりや因果があると考えるらしいです。長いこと宿泊業界の周辺でフラフラしている自分の、今を形作っているはずの記憶を残しておきたいなと思い、これを書いています。
わたしの場合悲しいことに、長いあいだ自分の記憶に残ると確信できる宿泊施設はそう数多くありません。なかでも、価値観を形作ったとまで表現できるものは片手で数えられるほどです。
なぜ泊まったのか、何をしにいったのかは全く思い出せなくとも、あるワンシーンだけ瞼の裏に焼き付いているような宿泊体験。きっと忘れないと思いますが、今後変わっていく可能性もあるので、この機会にその片手程度の宿泊施設の記憶を残しておきます。
幼少期:かの二期倶楽部と草の匂い
小学校に入る前だったと思います。わたしの記憶の限りでは、最も古い宿泊体験です。那須の大自然のなか、二期倶楽部は美術館のように静かな佇まいで居を構えていました。
二期倶楽部は不思議な宿泊施設で、〇〇ホテルというジャンルでは分類できません。洋風建築の高級旅館・和製リゾートホテルの先駆け・オーベルジュなどといった言葉で語られることもあります。
そのためか、もしくは宿泊したのが幼少期だったからなのか、二期倶楽部の記憶はとても断片的です。
広い窓と夕方の日差し。突然現れるビリヤード台。レストランで働くスタッフの制服姿。都会っ子には刺激的だった、森の匂い。
ストーリーは全く覚えていないのですが、その一瞬の風景や空気だけが記憶に残っています。
閉館してしばらく経ちますし、なにせ幼少期のことなので、手軽に共有できる写真がないのが残念です。残されたままの記事を手がかりに、わたし自身も記憶を辿っています。
今でも実家の母には、二期倶楽部での思い出として「わたしが草が臭いと言ったこと」「レストランスタッフの制服を見て、大きくなったらホテルのウェイトレス(昔はそう言いましたね)になると言ったこと」を語られます。
閉館してもなお多くの人に愛される二期倶楽部に泊まったことがあるというのは、わたしにとって非常にラッキーな経験でした。
二期倶楽部は2017年に閉館し、星野リゾートによる買収によって跡地は「リゾナーレ那須」になっています。二期倶楽部の意匠は、創業者の縁者が代表をされている株式会社NIKISSIMO運営「アートビオトープ那須」へ受け継がれました。
現在のリゾナーレ那須、アートビオトープとも、まだ行ったことはありません。本当にぼんやりとしか覚えていない幼少期の宿泊体験を上書きすることを怖がっているのです。
ここ、二期倶楽部での記憶は、
宿泊施設は土地の空気とともにあるということ。
うっかり、話は続きます
片手で数えられると言ったものの、二期倶楽部で思ったより字数が伸びてしまいました。こんなにうっすらとした記憶だから、5行くらいで終わるかと思っていたのに。
価値観を形成した、記憶に残る宿泊施設があといくつか。
うっかり続いてしまいそうです。