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文学朗読劇『こゝろ』についてのノート②

初演から再演への変更点

 前回は、Ort『こゝろ』の上演歴を紹介しましたが、初演版から再演版へは大きな変更がありました。それは5人芝居から4人芝居になったことです。初演で事件の一部始終を目撃してきた女中が語り部として登場してたのを全カットしました。女中が感じていた疑念や不審を全く説明しないようにしたんですね。結果、再演では登場人物たちが隠していることや蠢いているものが「あるのに見えない」ことになり、観客の想像に委ねることになりました。

原作からの変更点

 この「あるのに見えない」となった設定が、演劇化にあたって原作から大きく変更した部分でした。原作では「母と娘」であった女性二人を「姉と妹」とし、二人の関係性を決定づける暗い過去を設定しました。その過去は拭えない呪いとして彼女たちの暮らしにこびりついていますが、普段の日常や他者との団欒の中では隠されています。
 なぜこのような変更を加えるのかというと、今、上演しなければならないという切実さを作品に与えるためです。切実さは演出家の見つめる現在=世界観、現代性に起因します。
 私は普遍的と認知されている名作や有名な出来事、人物伝を演劇化することが多いのですが、そのプロセスとして「解体」と「再構築」を必ず行います。バラバラに分解して何を残すかを吟味し、残したものを再び組み立てていく工程の中で、「現代世界で起こりうること」「現代世界でより強まっていること」を取り込んでいきます。
 『こゝろ』では、私は原作での母娘の関係に違和感を覚えていました。違和感を謎と言い換えてもいいです。特に娘・お静には描かれていない欠落があると思えてなりませんでした。その違和感と欠落によって、再構築していく過程で姉妹の関係と過去が設定されていきました。

「構成」から「翻案」に変更

 ところで、こうした改変は原作ファンからすると唐突に感じたり、必要性に疑問をもたれたりすることが、ままあります。「原作通りの世界を期待していたのに違った」「原作にない要素があるなんて思ってなかった」と裏切られた気持ちにさせてしまうようです。
 原作通りではないというのを予告する意味で、自分のクレジットを初演でも再演でも「構成・演出」としていたんですが、そんなのわからなくて当然なんですよね。「構成」ではなく正しくは「翻案」です。
 ですので今回は「翻案・演出」とクレジットしています。ちなみに、台本は再演版と今回は同じものです。

再演から今回への変更点

 再演版から今回への大きな変更は、上演スタイルが「朗読劇」になることです。これはとても大きな変更です。俳優は台本を持ちますし、激しく動き回ったりはしません。前回以上に「あるのに見えない」となり、観客の想像に委ねる部分がさらに大きくなるような気がしています。ぜひ、俳優の声や視線、空気感の演技によって登場人部たちの「あるのに見えない」心の変化たちを、都会の真ん中の古い一軒家の2階で感じていただけたらと思います。

写真は上演会場で撮影したものです。窓の向こうにマンションが見えています。

ぜひとも、この空間を味わいに来てください。ご来場をお待ちしております。

公演情報(Facebookイベントページ)
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予約フォーム(各回定員15名)
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