半夏生と花の進化

京都祇園にある建仁寺の塔頭(たっちゅう)寺院である両足院(りょうそくいん)では、初夏の特別拝観時に、非公開の回遊式庭園を観覧できます。庭園では、池の周囲に青々と育った半夏生(はんげしょう)が、6月中旬頃から先端近くの葉が白くなり、花が咲いたような華やかな姿に変わります。

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両足院の回遊式庭園

実は、2013年に一度訪れたのですが、このときはまだ時季が早く、葉が白くなった半夏生を見られなかったのでした。2013年はNHKで、福島県と京都を舞台にして、同志社の創設者・新島 襄の妻となった新島八重が主人公の大河ドラマ、「八重の桜」が放映されており、それにちなんで、八重さんが奉納した直筆の書が、大書院の床の間に掲げられているのを拝観して、納得して帰途に着いたのでした。

それから6年が経過しました。今年こそリベンジしようと心に決め、両足院のフェイス・ブックで庭の画像を確認して、6月22日の早朝に倉敷を発って、京都に向かいました。四条通を八坂神社の方へ進み、観光客で溢れ返る祇園花見小路を南に下ると、臨済宗総本山・建仁寺の門が見えてきます。門をくぐり、境内に入るとすぐに両足院があります。大書院に通されて、公開されている庭を眺めると、抹茶色の池の周囲に半夏生が密生していました。先端部分の葉は見事に白く変化し、周囲との美しいコントラストを見せています。

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葉が白く変化した半夏生

庭に下りて近くで見ると、半夏生の先端は、稲穂のような形の花「花穂(かすい)」になっており、花としては非常に小さく地味です。しかし、花穂の近くの葉が白くなることで、それがまるで大きな白い花びらのように花穂の位置を知らせるのがわかります。これは、受粉のために虫たちを呼び寄せるのに、非常に有効な戦略です。

変化した葉の白さは、普段目にする紙や布の白さとは違って、歌舞伎役者の白塗りのような、重みと厚さを感じる乳白色です。この特別な「乳白色」で思い浮かんだのが、ドクダミの花です。

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ドクダミの花 

初夏によく、路地裏に咲いているドクダミの花は、中央に花穂を持っていて、花穂の基部から白い花びらが数枚出ています。この花びらの分厚い質感は、ドクダミの肉厚な葉に似ているではありませんか。半夏生の葉の段階から、ドクダミの葉はさらに進化し、ついには花びらになったのではないか? つながりの発見にこころがおどります。

花穂のような小さな花を引き立たせるために、葉が花びらが進化したと考えると、このような構造になっている、身近な花が思い浮かびました。それは、ガクアジサイです。

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ガクアジサイの花

ガクアジサイの花は、中心部にある、粒状の部分が本当の花で、その周辺にある小花のように見えるものは「装飾花」です。つまり、小さく目立たない本来の花を目立たせるための戦略が、半夏生と同じなのです。

普通のアジサイ(ホンアジサイ)ではどうなってるかというと、装飾花の中央に小さな花があります。

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ホンアジサイの花

それがたくさん集まってこんもりと丸みを帯びますが、一つ一つの花はドクダミの花と同じ構造なのです。

中には、ガクアジサイとホンアジサイの花の両方の特徴を備えた移行型の個体もありました。

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移行型のアジサイ

ここから導かれた仮説は、花の進化には、半夏生→ガクアジサイ→ホンアジサイ・ドクダミ→大輪の花々、という段階があるのではないかというものです。植物の葉にはそういった潜在力があるようです。とりわけ初夏には、葉が色づく植物をよく見かけます。

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初夏に葉が色づいた植物

庭を望む茶室である水月亭で、抹茶を点ててもらい、月と星を主題にした夏らしいお饅頭をいただいて、自然と背筋が伸びるのに心地よさを感じながら、ゆっくりと庭を眺めて、幸福感に満たされて、両足院を後にしました。

(2019年6月22日)


追伸:画像は緑色のアジサイの花です。鉢植えとして公共施設のロビーに置かれてあったのを、撮影しました。

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どうやって緑になったのか、調べたところによれば、微生物に感染させて、「葉化病」という花びらが葉っぱのようになる病気を起こさせているのだそうです。

微生物の作用で、葉が花びらになるためのタンパクが分解されて、花びらが葉にもどってしまうのです。よく見ると紫の花びらの痕跡があるので、もとは紫のアジサイだったようです。花びらが葉に変化することで、花が枯れることなく長期間保たれるので、あえて、観賞用に作製されるようになったようです。これは、先日考察した半夏生と真逆のプロセスです。1週間余りの間に起こった、不思議なつながりの出会いでした。

(2019年6月30日)





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