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横山直樹さんの苦悩する器と石原路子さんの苦悩するテディベアが成す観念的バランスの美

備前焼の里では、昨シーズン見送られていた窯出しも次々と再開され出しました。倉敷美観地区の備前焼セレクトショップ、一陽窯主人・木村道大さんは真っ先に現場に駆けつけて、自ら窯の中に入り、目利きをします。店内には、木村さん選りすぐりの新作が並び始めました。そんな店内で、二体の苦悩する器と出会いました。

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器は、様々な色とテクスチャーの土が混じりあって渦を巻いています。それは、内なる情念に圧倒される、炎の画家ゴッホの筆触のようです。器は苦悩しながらも、崩れゆくのではなくて、そのままあり続けようとしています。この二体の器は、人が作った人工物であるが、花を生けるために生まれたのじゃなくて、酒を注ぐために生まれたんじゃなくて、何かのためではなくて、それ自体の「存在」だけがありました。

芸術作品には、斜(はす)に構えて表現され、見る側の身体感覚として喉の粘膜に心地よい清涼感を生じさせてくれるものが少なくありません。しかし、この二体は作家の身体が土塊に真正面からぶつかった、意識の制御を超えた反応物であり、喉の奥から胸の深部にある食道まで貫き通す、圧迫感に似た内臓感覚を惹起するものです。

作者は、横山直樹さんです。備前長船の刀工・秋水子祐直菊一文字(しゅうすいしすけなおきくいちもんじ)の家系出身で、陶芸家・横山秋水を父に持つ方です*。木村さんと横山さんとは若い頃からの知り合い同士なので、製作過程を訊いてもらいました。それによれば、備前焼は、備前産の土を4〜5種類ブレンドして作りますが、作品は、その中でも希少な、鉄分が極端に多い土を使ったということです。全体的に色目が濃く焼き上がりますが、壊れるリスクが高い焼成が難しい土なのだそうです。そんな難物が、作家の手と対話しながら、手ひねりで造形されたものです。

二体の器を、以前紹介した、石原路子さんによる苦悩する二体のテディベアと並べてみました。器とテディベアの両者は、苦悩の重さがちょうど釣り合って、私たちが黄金比や白金比に美を感じるように、抽象観念の世界で左右対称のバランスがとれて、とても美しい風景にになりました。

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*横山直樹; 特集・備前の新世紀:炎芸術.No.125, 阿部出版, 2016春. P24-27

(2021年5月12日)


追伸

二体の花器に、倉敷市西中新田の花屋、アトリエ・トネリコで出会った花々を生けてみました。筆者には、生け花の素養が無いので、器と花が求めるままにアレンジしてみました。

一輪挿しには、福岡県糸島農協のオールドローズを生けてみました。オールドローズは、ハーブの作用があるウコンの花です。生けた瞬間、花本来の生命力がほとばしり始めました。

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花瓶には、店主の岬 美由紀さんのお庭で育てている、蔓植物を生けてみました。それらは、他の花々の脇役として育てられていた植物です。たとえ主役がいなくても、蔓植物は、出しゃばること無く控え目に佇んで、ありのままの命を生きていました。

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二体の花器は、花を引き立たせる目的を託されて、生まれてきたのではありませんが、それでも苦悩した器には滋養があり、草花のありのままの生命力を引き出すようです。

同じように、苦悩した人には、他者を生かす力があるのではないか・・。そんな根拠のない類推をしました。

(2021年7月25日)

*蔓植物は、2本あるのが、モッコウバラで、1本のものが、トケイソウです。

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