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黒錆の黒の意味

鉄は強靱な金属で、農具をはじめとして人類の生活に革新をもたらしました。しかし錆びやすいという欠点がありました。自然界で鉄にできる錆は赤錆で、鉄の内部へ侵食して腐食させてしまいます。

人類は、自然界にはなかった黒錆を発明することで、腐食しない鉄を生み出しました。黒錆は、600度の高温で鉄の表面を酸化させて作り出します。鉄の表面の強靱な被膜となり、赤錆の浸食を防ぎます。奈良・平安時代の建築に使われた千年前の黒錆加工の和釘が、修理の際に今でも再利用されるほどです。

画像は、倉敷美観地区の古道具屋「ウームブロカント倉敷」にあった釣り鐘形の分銅です。おそらく江戸時代に倉敷の商家で使われていたものでしょう。少なくとも200年間、人の手垢や汗に直接さらされてきたのでしょうが、黒錆加工の表面が保たれて、腐食は部分的にしかありません。黒金(くろがね)というのは鉄の古称で、極めて堅固なもののたとえです。ですから古来より、黒錆の黒は、永遠に保たれることを象徴していたことでしょう。

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江戸時代の鉄製の分銅

Lespoir(レスポワール)は、ゴーフルで有名な神戸の老舗洋菓子店「風月堂」が、1976年に立ち上げた挟み焼きクッキーの新ブランドです。容器の缶も、クッキーのパッケージも、黒で統一されているのが、たいへん印象的です。

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レスポワールと分銅

Lespoirは、フランス語で「希望」を意味するのだそうです。黒は、風月堂のクリエーターが、「永遠の希望」を願って選択した色ではないか?・・と妄想しながら、バターの焦がし風味とバニラの香りがたっぷりな、甘くて、硬めのパリッとした食感、のクッキーを味わいました。


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