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ZARDデビュー30周年記念・配信ライブにおける、ギタリスト・森丘直樹の演奏は、混じり気がなく、透明で澄み切っていました

2021年2月10日は、ZARDがデビューして30周年の記念日でした。感染禍のなか、故・坂井泉水をサポートしていたミュージシャンが集まり、東京国際フォーラムにおいて、無観客の配信ライブが開催されました 1)。

それは、2007年5月27日に亡くなった坂井泉水への慰霊のコンサートでもありました。それまでの追悼ライブは、観客と共にZARDの楽曲を楽しむことを媒介にして、坂井泉水を慰霊するものでした。しかし、今回、無観客で行われたライブは、坂井泉水の霊へ直接、バンド演奏を届けるものでした。

メンバーの一人、ギタリストの森丘直樹の演奏は、まったく混じり気がなく、透明で澄み切っていました。とりわけ、9曲目に演奏された楽曲「もう少し あと少し・・・」の、「そう少し あの女性(ひと)より 出逢う時が 遅すぎただけなの・・」に続くギターソロは、その気高く哀しい振動音が、一筋の光となって天空を抜けて、坂井泉水の魂を照らすものでした。

ギターソロを演奏する森丘直樹 1)

それは、画家、熊谷守一の油彩画「陽の死んだ日」に描かれた、ロウソクの炎のようです。

熊谷守一・作「陽の死んだ日」(1928年)大原美術館蔵 2)

作品は、次男の陽が四歳で逝ったときに、陽がこの世に残す何もないことを思って、父親の守一が枕元で描いたものです。チューブから出した絵の具のそのままの色で、粗いタッチで描かれた作品からは、透明で混じりけのない、澄み切った守一の心情が、波打つようにして照り返してきます。

公開されているプロフィールによれば、森丘直樹は、12歳のころよりギターを始め、食事を取りながらでもギターを弾くほど没頭し、その後、中学生からYouTube へ動画投稿を始め、その驚きのギターテクニックで注目を浴びるようになったとのことです。3)

彼の演奏は、喩えるなら、匠の技と言え、工芸的な美しさを極めたものです。それは、100を越える行程の中で、埃ひとつ付着させない輪島塗の漆器のようです。輪島塗の漆器は日常使いに耐えるように頑丈に造られますが、霊前に捧げるのにも相応しい精緻さを兼ね備えます。

ZARD 坂井泉水に関するまとめは、こちら
熊谷守一「陽の死んだ日」については、こちら

文献
1)ZARD Streaming LIVE“What a beautiful memory~30th Anniversary~" [Blu-ray]ビーグラムレコーズ 2021年12月15日発売
2)大原美術館Ⅱ日本の絵画と彫刻ー20世紀の名品ー. 財団法人 大原美術館, 2015. P24
3)斉田 才・著 ミュージックフリークマガジン編集部・編:ZARD/坂井泉水~forever you~. ミュージックフリークマガジン, 2020. P247-265







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