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第5話:どんな出版事業をしたいか具体的に考えてみる

既存の一般的なやり方を踏襲するのであれば、第一ステージから、業界のレジェンド級の師匠たちに出会えたこともあり、容易く立ち上げられるように思えた。
この時点では、既に固まっている方針に基づき、とにかく事業を進めるという役割で呼ばれたと誤認していたので、実際に、私がこのプロジェクトに参加してから半年程度で、一冊目を発売するスケジュールも組んだ。

しかし、どこに行っても、「どうしたいか」が問われ、選択肢が多いことがわかると、本当にそれでいいのだろうか、という疑問が生まれた。

倉貫さんにも同じ感覚があったのだろう。
下記のとおり共有された。(原文ママ)

従来の出版事業における以下の3つの点について改善した形にしたい。

1つ目は、ばら撒かない。部数よりも返本がないことを重視する。
従来は、多くの部数を刷ってバラまくことで見かけの売上を大きくするが、返本率が非常に高く、廃棄されてしまう。
そうではなく、部数は少なくして、直接売買にすることで返本率を大きく下げて、無駄のない状態を目指したい。
(これは、SG(※1)のn2jk(※2)で目指している無駄のないシステム開発と同じ。従来は使われない機能もいっぱい作って人月で大きい売上にしているけど、n2jkでは月額定額で無駄に作らない)

2つ目。ギャンブルしない。ヒット作だけでリクープ目指さない。
従来は、何冊も出して1冊でもヒット作が出れば、それで、他の売れなかった本の補填をする考え方。
それよりも、1つの本ごとにトントンでも利益を出せるようにして、サステナブルにしていきたい。逆に大売れはしなくてもよい。(すると嬉しいが)
(これは、SGのn2jkでも案件ごとに黒字を目指すのと同じ。従来のSIerは、複数PJあると、黒字PJで赤字PJの補填できれば良いという考え方をしがち)

3つ目。納品しない。著者と出版を分離せず、一緒になって読者に届ける。
従来は、著者は本を書くまでが仕事で納品後には携われない。1冊の本の寿命は短く、たくさん出す考え方。
そうでなく、著者には販売まで関わってもらい、その上で、ロングセラーになるように続けていきたい。
(これは、SGのn2jkで、納品しないでずっとパートナーとして共存共栄していこうとする形と同じ)

まとめ。
・ばら撒かず、返本を減らす
・1冊ごとに、利益を出す
・著者と一体で読者に届ける

※1)ソニックガーデンの略。
※2)ソニックガーデンが提供するサービス「納品のない受託開発」の略。

「今回のインディーズ出版を立ち上げる上で考えていることの言語化メモ。」より

以降、業界についての理解が深まるたびに立ち止まり、「出版社として、私たちはどうありたいか」を考え、選択する手法を二転三転させることとなる。
私が事業を立ち上げる時はスピード勝負なことが多く、かつ1人で始めることがほとんどで、当初の方針は早々に決めてしまい、やってみてから固めていたので、時期を遅らせても、自分たちがやりたい方針を見つけていく経験は、固定観念を捨てる絶好の機会となった。
長年培ったブルドーザー的事業推進癖は、自分でコントロールできるものではなく、気を抜くとすぐに先へ進めてしまいたくなるので、私にとって、このプロジェクトは、強力な矯正機能を果たし、自身の思考・行動パータンを増やす機会にもなった。

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