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第7話:印刷・製本について学ぶ

売り方の方針が決まったので、ついに印刷・製本の準備を始めることになった。
 
本来は、装丁が固まってからでいいのだと思うが、右も左もわからないため、まずは、師匠のセッティングのもと、大人の社会見学的に勉強させていただいた。
 
まずは、印刷会社。
最初に教えてもらったのが、本って、四六判やA5判などの形、上製や並製などの製本の仕方、とたくさんの種類があること。
言われてみれば、単行本、新書、文庫、ハードカバー、ソフトカバーといろいろあるな、と思っていると、紙は桁違いに種類があった。
この時は、ソリストという商品を見せてもらったのだが、同じ白でも4種類あって、「これは少しクリームがかった…」といった説明を受けた。
4種類と言わず、白には膨大な種類があることに驚いたのだが、調べてみると、ギャラリーを持つ製紙メーカーさんがあるくらい、業界の常識だった。
 
「じゃあ、行きましょうか。」
と、営業の方に社用車に案内され約40分。
 
印刷会社は、1階に数台の機械があったものの、工場があるようなエリアではなく不思議に思っていたのだが、納得の移動だった。
 
車を降りると、そこは4階建ての製本工場だった。
さらに、責任者の方に名刺をいただいたら、印刷会社とは別の会社だった。

製本工場の入口

その時、「違う会社なんですね」と聞いたのか、「あれ?」という顔をしていたのを察してくれたのか、記憶が定かではないのだが、この後、私は衝撃の事実を知ることとなる。
 
「本って、表紙、カバー、帯、紐のしおり(スピン)ごとに、専門の会社が作っていて、そそれぞれの会社から送られてくるんですよ。」
 
ここで、ようやく、師匠から事前に言われていた「見学には半日くらいかかる」という言葉に合点がいった。それぞれの会社に行っていたら、半日どころではないだろう。
 
さっそく、工場内をご案内いただく。
エレベーターに乗った時のワクワク感は、ロールプレイングゲームをしている時と似ている。

本文用紙を折る機械
折られた用紙を並べる機械
ページや向きが違ったりすると自動停止するらしい
背中をボンドで塗り、
乾燥させて固める機械
紐のしおりを付ける機械
背と本文の接着面に貼り付ける花布(はなぎれ)を付ける機械
表紙、帯、カバーなどを付け、
折り込み物を入れ、梱包する準備をする機械
PDCAの訳し方が独特
届いたカバーを裁断する機械。裁断前に空気を抜く
製本サンプルとなる束見本は、いまだに手作業で作られており、古い機械好きにはたまらない

その他、たくさんの機械があって、私は終始興奮していたのだが、いったんこのくらいにしておこう。
 
次は、製本工場に送られるカバーなどが印刷されている工場へ。
インクは、オフィスのプリンタのインクを替えたことがある方はご存知であろう、あのマゼンタなどと種類は同じなのだが、機械がとにかく大きい。
そして、印刷されたものは、色味などを判別できる機械を通してチェックできる。

こうして印刷されたカバーを、PP加工(用紙の表面をフィルムでコーティングする加工)したい場合は、PP加工の専門会社に依頼する。
そこで、その工場に移動したのだが、そこもすごかった。

おわかりいただけただろうか。
特定できないよう写真に修正を入れてしまったので伝わりづらいかもしれないが、加工された後の用紙がカールせず、ピシっとしている。
製本に関わる方々にお話を伺っても、通常、加工された後の用紙は両サイドがカールしてしまうらしい。
 
やはり、この技術は、秘伝とのことで撮影はNGだった。
住宅街にあり、一見、見過ごしてしまいそうな規模なのだが、ここまで質の高い加工は他にはなく、作業のしやすさも仕上がりの良さも全然違うらしいので、営業活動をせずとも依頼があるというのも頷ける。
私が知らないだけで既に存在するのかもしれないが、こういう技術の世界大会をしたら日本は上位に入るのではないだろうか。
 
こうして大人の社会見学は終わったのだが、とにかく情報量が多すぎて感嘆するばかりで、撮影するのを忘れ、今回、使用した写真は、後日、時間をいただいて撮影した。
二度目だしサクッと終わるだろう、と思っていたのだが、また新しいことを教えていただき、初回と同じくらいの時間をいただいてしまうくらい沼だった。
 
そして、お気付きだろうか。
今回案内していただいて思ったのだが、印刷会社の営業とは、製本というプロジェクトのマネージャー、つまり、プロジェクトマネージャーだった。
大御所と言うには若い世代の方なのだが、珍しく、師匠が「印刷業界では上位の人」と、師匠にとっての最上級の表現をするだけあって、業界愛が深く、関係各社に敬意をもって接する名プロマネだと思う。
歴史が長く、アナログと言われる業界であっても、こうした不確実で再現性のないものが、人の仕事として残っていくのだろう。
 
ソニックガーデンは、コロナ禍よりはるか前の2011年からリモートワークを開始、2016年にはオフィスへの出社を撤廃、ほとんどの社員が全国各地でリモート勤務する会社であり、紙を扱う文化はない。なんだったら、お客さまの無駄な紙文化を撲滅するのが仕事である。
そんな会社が紙を扱う事業を始め、その技術を感動しながら勉強する、というのも、なんとも面白く感じられた。

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