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第8話:初版部数・価格を決める

この本は、初版印刷部数を増刷前提の1,000部、本体1,200円(税別)にしたのだが、決定までの経緯を書いていきたい。

 まず、出版業界の方は、部数について、「あれ?」と思われたかもしれない。1部あたりの印刷費用は部数が多いほど下がることもあり、ほとんどの方から、「2,000部」が一般的だと聞いていた。実際に収支計算をしてみて、たしかに2,000部が損益分岐点であるとわかった時は、「うぉっ」と声が出た。
 
倉貫さんの既刊の販売数や、「初めての出版事業だから一般的な出版社の苦労も経験しておくチャンス」とか「1店舗あたり20冊置いてもらうと考えると100店舗に置いてもらえばいい」いったアドバイスがあったことから、私は、「とりあえず2,000部作っちゃえばいい」と思っていた。ちなみに、当時の見積ベースで、1部あたりの印刷費用は1,000部と2,000部で115円違った。
 
だがしかし、「第5話:どんな出版事業をしたいか具体的に考えてみる」で考え、掲げたコンセプトに、今一度、立ち返ってみた。

『変化に合わせて、無駄を見直し、つくること・届けることに全力で向き合う出版事業を始めます。』

これに基づき、無駄なく届けるためには、初版1,000部で販売データに基づき増刷、シリーズものなので、次作も1作目の販売数やニュースレターの会員登録数から初版部数を設定するのが自然、と考えた。
 
価格については最後まで悩んだ。
メインキャラクターが社会人3年目なので、それくらいの方に読んでいただきたい、という思いがあった。それであれば、ちょっと贅沢した日のランチ1回分の1,200円くらいが良いのではないか。
 
今回の本は、四六判・並製。いわゆる、ソフトカバーの単行本だ。
しかも、装丁は鈴木成一デザイン室、イラストは扉絵5点を含め大桃洋祐さんにお願いすることができたので、とにかく美しい。個展を開きたいほどに美しい。とても1,200円で売るビジュアルではない。

最近、映画館や美術館も2,000円だから2,000円でいいのではないか。いやいや、出版業界では「2,000円の壁」があるようだ。書籍の平均価格は1,268円(「よくわかる出版流通のしくみ 2023-24年版」)だぞ。売れている本の平均価格は1,600円らしい。間をとって1,500円はどうだろう。いや、映画のサービスデーやレイトショーでも1,400円だぞ…
 
というような議論がなされ、なんとか、1,200円と1,500円の二択まで絞りこんだ。
 
そして再び、前述のコンセプトに立ち返ることとなったのだが、これに基づき、「必要としている人に」届けるためには、社会人3年目くらいの方に読んでいただくことを最優先し、1,200円(税別)が自然、と考えた。
 
次回作のラフなゲラもできているのだが、こちらは初めてマネージャーになった方を対象にしているので、価格を上げる。対象読者によって値段を変えるのが私たちらしい。
 
どれくらいの決断だったか、を感じていただけるよう、以下に1,000部の制作費を開示する。
印刷会社に印刷してもらうために必要なデータを作成するDTP、誤字脱字・編集者が指定した表記を調整する校正・校閲、装丁、装画、印刷などで、140万円くらいだ。
わかりやすく言うと、1冊あたりの制作費用は1,400円、初版1,000部の段階では、制作費用だけで1冊売れるごとに200円の赤字なのである。
制作費用以外にも、著者印税、ISBN登録料37,000円、出版権情報等の登録料(JPRO)1,000円など、お金がかかる。
 
書店への手数料をお支払いする余裕がなくなったのだが、お取り扱いいただけるのであれば、きっちりお支払をし、喜んでいただけるお付き合いになるよう、不慣れなことでご迷惑をおかけすることなく丁寧に対応したい。
そこで、広く書店への営業をするのではなく、私たちの活動に興味を持っていただけるような奇特なお店に限定し、初版の1,000部までは取次を使わず、基本的にはBASEでの販売にすることにした。Amazonでの販売もしない。
前話でも触れたとおり、業界のプロフェッショナルの方々に相談できるからこそ、実現した方法だと思っている。
 
主業が他にあるから選択できる方法なので、専業で、全てを懸けて出版社をされている方々にとっては、失礼なことをしているのかもしれない。
それでも、私たちは魂を込めてやっているし、だからこそ、私たちならではの方法を模索したい。
 
熱く語ってきたが、最後に一つだけ。
お気付きだろうか。
この方法だと、取次がやってくれる発送業務だとかJPROなど各種登録だとか在庫管理だとか、全部私がやることになり、稼働工数はとんでもないことになっている。
業界の方々が、「直取引はやめておけ」と言ってくれた理由を、今まさに痛感している。
 
梱包材をいくつか買って試してみたり、運送会社さんと話をして発送料金の交渉をしたり、毎日異常に忙しい私の人件費を捻出するためにも、どうか皆さん、買ってください。笑


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