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人とわかりあえないことを諦めない 『宇田川元一 他者と働く』

人と人の間には、お互いにわかりあえない溝がある。人は独りでは生きていけないけれど、他の誰かとわかりあうためには、それなりの努力が求められる。それは簡単なことではない。

そんな前提のもとに、どうすれば良い関係性を築くことができるのか、どうやって難しい状況を解決していくのか、そこに「対話」を通じて向き合っていくことを本書では伝えています。

技術問題よりも厄介な適応課題に向き合う

私が、10年近く会社をマネジメントして思うことは、組織やビジネスにおいて都合の良い方法など無かったということ。世にあふれる手法や組織論に従えばうまくいくほど簡単な話はないのです。それでうまくいくなら、誰もかれも成功しているはずですが、そうはなっていません。

「御社だからできるのであって、うちだと難しい」「言ってることはわかるが、とはいえ出来るとは思えない」と、私が講演したあとに頂くのですが、「その通りです」としか言えません。というのも、状況もなにもかも違うのだから、自分たちの状況や目的にあわせて自分たちで考えて取り組んでもらうしかありません。方法論や理論だけでは解決することができないのがマネジメントなのです。

もう一つ、マネジメントに向き合って感じることは、あらゆる問題が人の話に帰結するということです。テクノロジーやファイナンスの問題ではなく、結局は人間の問題で、それを解決ないし解消することだけがマネジメントの成果に繋がります。人と向き合うことでしか前には進みません。

本書では、そうした人間の関係性の中で生じる複雑で困難な問題のことを「適応課題」(adaptive challenge)と定義しています。一方で、既存の方法や知識でかいけつできる問題を「技術問題」(technical problem)と呼んでいます。この分類には膝を打ちました。適応課題を技術問題と捉えている人とは話が合わないわけです。では、どうしていけば良いのでしょうか。

一人ひとりのナラティブをすりあわせる対話

関係性によって生じる適応課題に取り組むためには、対話を繰り返していくしかないというのが本書で伝えていることです。本書の「対話」とは、「新しい関係性を構築すること」とされています。だから対話は、ただ話すことではなく、まして説得や交渉ではないのです。

なぜ関係性によって問題が生じるのか。それは、人それぞれに事情があるからです。本書では、立場・役割・専門性などによってうまれる「解釈の枠組み」のことを「ナラティブ」と定義していて、ナラティブの違いこそが人と人の間にある溝だというのです。

自分自身にナラティブがあるように、相手にもナラティブがあるということがわかれば、相手の目線にたって話をすることができるし、それによって新しい関係性を築くこともできるようになります。

そのための対話は一度でうまくいくとは限りません。むしろ何度も対話を重ねることでしか互いのことをわかりあうことなどできないのです。何度も伝え合うことの考え方は拙著「ザッソウ 結果を出すチームの習慣」でも伝えていることです。

自分自身のナラティブの主人公でいること

どうすれば人は育つのか。部下や社員の育成で悩む人たちは少なくありません。なんとか育成しようとしてもうまくいかないのは、あくまで外圧的な力で育てようとするからではないでしょうか。では、どうしたものか本書では、このように書かれています。

人が育つというのは、その人が携わる仕事において主人公になること

その当人が当事者になって主体的に仕事に取り組まない限り、成長することはないということです。確かに自分自身をふりかえってみても、自分にとって大きな仕事を任されたとき、それに一生懸命に取り組んだときが一番成長したように思います。

自分自身のナラティブの主人公になるということ。物語の主人公は冒険をして成長をする、そして何か偉業を達成するものです。自分は主人公であると思えるようにすることが大事なのでしょう。私たちソニックガーデンでは、YWTというフォーマットを使って、そこに取り組んでいます。それについてはまた別の機会に。

経営学の先生が、諦めないで対話し続けることを唱えてくれることは、適応課題に日々向き合っている経営者にとって、大きな勇気になることでしょう。詳しくは、ぜひ本書を読んでみてください。

この書評が良かったら、ぜひ上のリンクから買ってくださいね。

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