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インドカレー屋

インドの歌がインドカレー屋に流れる。それは童謡にも賛美歌にも聞こえる。

大学の昼休みのことである。

大学の近所のインドカレー屋に足を運んだ。

インドカレー屋の辛口は激辛くらいに考えたほうがいい。数ヶ月前に行った時もそんなことを考えて中辛を注文したような記憶。

油の甘さを味わいたくなった僕はポークカレーを注文した。味は勿論中辛。

インドカレー屋はインドカレー屋にしかない神聖さがある。

宗教色の強い内装の中には人が人たらしめられる何かがある。気がする。

ところどころ不自然な日本語のあるメニューには決して牛の文字はない。

ニコニコしながら注文をとるおじさんの後ろには、コック帽を被ったおじさんが料理と戦っている。表情は真剣そのもので、表情だけを切り取れば怒っているようにも見える。

カラフルな看板を構える店内は大学生で賑わっていた。けれど、彼らが毎日のように駅でクーポン券を配っていることを僕は知っている。

通行人は異邦のシェフなど気にも留めない。

それが悪いのではない。美しいのだ。

人が人生を賭けて戦う姿が美しいのだ。

彼らは何を捨ててここにいるのだろう。

何を掴むためにここにいるのだろう。

自然にそんなことが思われる。

「ごちそうさまでした」といって店を出た。

外はもう夏が来るのだと言わんばかりに蒸し暑い。

店の喧騒はドアを閉じると、水を打ったようにきこえなくなる。

変わって耳に入るのは大学生と親子の会話のいつもの日常の音だ。

日常が再開する。

鼻にスパイスの匂いが残った。

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