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地域に密着した仕事。酒屋の岩田さんの働き方

酒好きが酒屋に取材してきた!

 こんにちは!技術と街歩きが好きな工業系大学生の「てくてく」です。
突然ですが、みなさんは「日本酒」と聞いてどんな印象が思い浮かぶでしょうか?僕の周りの大学生達に訊いてみると、「甘酒にアルコールが含まれている感じ?って昔は思っていた」「瓶だから自分では買いづらいな…」などといった意見が出てきました。
 僕は酒好きに分類される人間で、日本酒もワインもその他いろいろも飲みます。そんな僕は、若い人たちが日本酒に関心が無かったり、苦手意識を持っていたりする状況が心苦しいのです。というわけで、酒好きが酒屋に取材に行き、日本酒の面白さや業界の仕組みとともにそこで働く方の仕事への向き合い方や地域との繋がり方についてお届けします!

酒のかどやと専務の岩田孝太さんの紹介

今回取材した「酒のかどや」は村上駅から歩いて10分ほどの住宅街の入り口にあります。

お店の外壁から溢れる日本酒への情熱

かどやでは、厳選された新潟県内の日本酒はもちろん、他の店では中々見られない県外の日本酒も取り扱っています。そして、ワインやウィスキーなどの洋酒や梅酒などの果実酒も豊富。遠方のお客さんのために、インターネット販売にも対応しています。また、他の酒屋には珍しいバーカウンターや、貸し切りも出来るラウンジなど、お酒をとことん楽しめる設備が揃っています。

1階にあるバーカウンター
2階にあるラウンジ

岩田孝太さんは現社長のご子息で、関東の大学を出て千葉県の酒屋で修行をした後、実家のかどやに戻り、現在は専務取締役を務めています。

今回取材した岩田孝太さん(写真右)

「仕事の虫」 仕事に没頭する岩田さん

 岩田さんは大学を卒業したのち、千葉県の酒屋に就職。そこで3年働き、酒の基礎知識や酒販のノウハウを学びました。卒業後すぐに実家に戻らず、他のお店に就職したのは、実家を継ぐことを見据えた修行だったとのことで、同じように修行でそのお店に入った仲間も複数居たそうです。そのため、岩田さんたち修行組は一般社員よりも遥かに多くの業務をこなす必要があったとのことでした。勤務時間は人一倍働きながらも、休日は関東エリアの酒屋を巡ったり、酒のイベントに行くなど、自己研鑽に励んだそうです。
 このストイックさは修行期間を終えて実家に戻った後も続き、仕事終わりや休日にも酒の情報収集を積極的に行っているとのこと。
 業務時間外でも常に酒の事を考える岩田さんは自分のことを「仕事の虫」だと笑いながらも誇らしげに話していました。

「そこにあることに意味がある」 地域とともにあるお店

 かどやはもともと日用品や食品を扱う商店として開業しました。現在は酒販店へと業態を変化させましたが、現在も元日を除く無休営業や、宅配便の発送取次などを行い、地域の人たちの日常のニーズに応え続けています。そのため、日々多くの地域住民が店を訪れ、買い物や宅配便ついでの会話を楽しんでいるとのこと。また、贈答用の酒を購入するお客さんのなかには、酒と米や村上特産の鮭などの食品を組み合わせたいという要望があり、そのニーズに応じて食品を仕入れることもあるそうです。
この様に細やかなサービスを行うことについて、岩田さんは「いつも開いている、そこにあることに意味がある」と話し、地域との繋がりを大切にしている姿勢が伝わってきました。

 かどやの駐車場は大型バスも止められるほど大きいのが特徴で、その広さを活かして店舗がある大欠地区のお祭りは駐車場で行われるそうです。また、駐車場の外周には桜の木が植えられていて、毎年ライトアップを行っています。

「家では晩酌をしない。飲みたくなったら卸してる飲食店で。」商売人らしい地域との繋がり方

 岩田さんは酒への探求心が非常に高いので、家でも飲んで情報収集をしていると思いきや、家で晩酌をしないと決めているそうです。もし、飲みたくなったら必ず卸先の飲食店に行くそうです。また、岩田さんは商工会の青年部メンバーであり、そこでも「商工会の虫」というくらい精力的に活動しているそうです。商工会で出来た繋がりを仕事にも活かして、イベント時にはビールサーバーの設置を行い、飲み会になったら取引先を紹介するなどしているそうです。地域との繋がりを深めることを仕事に関係する事柄から行うのが地域の商売人らしいなと感じました。

「『酒好きが新潟に来たらこの酒屋行くべき』と言われるような店になる」岩田さんの野望

 かどやはバーカウンターやラウンジなど、既に酒販店の最先端にあるような印象を受けますが、岩田さんにはまだまだ野望がありました。
 まず、かどやとしての野望は地域で影響力がある店になり、この地域を訪れるなら立ち寄るべき酒屋となること。岩田さんは修行時代から多くの酒屋を巡っていて、その地域に訪れる際には出来る限り立ち寄る店があるそうです。そういった県外から訪れる酒好きが行くべきとおすすめされるようなお店になることを岩田さんは目指していました。
 次に、酒販店全体としての野望を伺うと、「県外酒取り扱いの拡大」と話していました。新潟の酒屋は地酒をとても大切にしていて、僕もそれが大きな魅力だと盲信していました。 しかし、岩田さんは新潟の酒屋が地酒しか扱わないことによって県外の酒蔵との繋がりのハードルが上がっていると指摘していました。実際、かどやも岩田さんが佐賀県の蔵元との取引を始めるまで、県外酒は扱ってなかったそうです。酒屋人生のスタートが関東で、県外酒が当たり前だった岩田さんは、県外の酒蔵への取り扱いを増やすことで、新潟県民が県外酒を飲む機会を増やそうとしていました。そして、かどやをきっかけに新潟県の酒販店で県外酒の取り扱いが増えて欲しいと話していました。

ネット通販が当たり前の時代に感じた「専門店の強み」

 今回の取材では、この記事には載せ切れないほどお酒の話でも盛り上がりました(一部は本編の後ろにおまけとして載せたのでそちらもどうぞ)。何を訊いてもすぐに答えが返ってくる知識量、そしてその知識を支える熱意が常に伝わってきました。何を買うにもインターネットで情報を調べ、そのまま買ってしまうような現代ですが、こうやって直接的に熱量を感じられる専門店の強みを改めて感じました。また、僕はアルバイトで専門店で働いていたり、趣味で音楽イベントを開催したり(ちなみにそのイベントでは音楽と酒のペアリングもしました)と、人に何かを薦めることが多い生活を送っているのですが、他人からの「おすすめ」の価値を改めて感じました。
ぜひ、みなさんもネット通販だけでなく、たまには専門店に足を運んで見てください。

おわりに

 岩田さんのお話を聞いて、酒屋のように地域に密着した業態では、商売と地域が絶え間なく連続するものであることを改めて感じました。岩田さんに地域や暮らしの話を訊くと仕事の話が必ず含まれていて、当たり前のようにこれらが結び付いているのだと分かりました。そこから、商売を以てして地域と関わる関係性は、地域の中での役割分担の一つのように感じられ、プレイヤー(地域に関わる人)の積極性だけに依存しない、とても持続的なものだと感じました。
僕たち学生は就活というと会社員としてオフィスで勤務することを考えがちですが、地域のお店で働いて地域に自然と関わっていく働き方も視野に入れるのが大切かもしれませんね。ぜひみなさんも、街の商店やそこで働く人に目を向けてみてください!
そして、本編の最後にこれだけ言わせてください。新潟の酒文化は素晴らしい!でも、お酒は二十歳になってから、節度とルールを守って楽しむもの!

ありがとうございました!てくてくでした。

取材終わりに訪れたメンバーみんなと写真を撮っていただきました

おまけ1 お酒にまつわるいろんな話

・特約店の仕組み
酒屋や酒蔵のHPで見かける、「特約店」という表記について、みなさんはご存知でしょうか?特約店制度というのは、その商品を蔵が決めた価格で販売するという仕組みです。一見、定価でしか買えない、良くないシステムのように思えますが、販売価格を統制することで、正規のルートではない販売を消費者が見抜けるというシステムなのです。そのお店がその蔵の特約店である場合、価格は必ず決まっているので、安売りはしません。一方で、特約店ではない店は安売りをすることが出来るのですが、それは正規ルートのお酒ではないのです。この特約店制度によって、私たち消費者は安心してそのお酒を買うことが出来るのです。

・加水と追水
日本酒に興味の薄い方にはさっぱりな単語だと思います(笑)。日本酒のアルコール度数はだいたい15度程度ですよね。しかし、日本酒の本来の度数は20度程度なのです。そのままだと少し飲みにくいので、多くの場合、水を加えて飲みやすい度数まで下げます。これを加水と呼びます。そこで気になるのが、「原酒」と書かれた銘柄です。この原酒というのは、絞ったそのままのお酒のことを指します。しかし、原酒も多くの銘柄で20度以下なのです。これを見ると、「原酒」が本当は原酒ではないと疑いたくなるかもしれません。でも、安心してください。これもまた原酒なのです。どういうことかというと、絞る前の醪(もろみ)の段階で水を加えるのです。これを追水と呼びます。発酵している醪に水を加えてアルコール度数を調整することで発酵の状態をコントロールすることが出来、味わいを整えることが出来ます。

おまけ2 村上取材で買ったもの

@酒のかどや
・佐賀県 富久千代酒造 「鍋島 特別純米酒」
・三重県 早川酒造 「夏のブーリュ」
@きっかわ
・「姫鮭ひとくち焼漬」

かどやで買ったお酒は、岩田さんおすすめの酒蔵二蔵のお酒です。

まず、佐賀県の富久千代酒造の「鍋島 特別純米酒」から。こちらは純米酒の柔らかで芳醇な香りと、しっかりとしながらも飽きの来ない甘さがとても良かったです。
次に、三重県の早川酒造の「夏のブーリュ」です。こちらはガス感のある薄にごりの酒です。このお酒は編集室メンバーのTKG職人の誕生日祝いに購入し、彼と共に飲みました。取材が8月末だったこともあり、飲んだのが9月に入ってからでしたが、今年は9月もまだまだ暑かったので、爽快な飲み口がとても気持ち良かったです。

姫鮭ひとくち焼漬

また、かどやを訪れる前には村上市内中心部にある「千年鮭 きっかわ」に訪れ、その後買うであろう酒を想像しながら、肴を探しました。さすが塩引鮭の名店、どの商品も大学生には勇気がいるお値段…と思いきや、切り落としの部位を使ったひとくち焼漬はお手頃な価格でした。こちらは前述のTKG職人と共に食べたのですが、深い味わいがどんなお酒にも合うし、白ご飯には最強のお供になるので、一瞬で食べ尽くしてしまいました。
ちなみに、きっかわの訪問についてやその他村上エリアで訪れた場所に関しては、別記事で詳しく紹介する予定なので、そちらもお楽しみに!

書いた人:てくてく
新潟市で生まれ、金沢市で育ち、大学で長岡市にやってきた。
好きなものは音楽、写真、お茶、お酒、クルマ、スノーボードなどなど。
新潟でエンジニアとして生きる道を模索中。

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