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#001 | 山奥のホテル
小学校の修学旅行の事。
行き先は荘川村だった。
山奥の盆地にある小さな村で、草木に囲まれ空気の澄んだ場所だった。
広がる田園を抜けて、バスは宿泊するホテルを目指してトンネルに入った。
はしゃぎ疲れて転寝をしていた私は、トンネルの出口から漏れる光のせいで起き出して、目を細めた。
バスがトンネルを抜けた。
みんなで泊まる場所はどんなところだろう、と期待していたが、そこに広がった風景を見て落胆した。
左側の座席の窓から、荒れ果てたテニスコートが目に入った。子供用の小さな公園もあったが、遊具はすっかり錆びあがっている。その横に白い鉄柱があり、上にホテルの看板が見えた。
S荘川――
正面に見えてきたホテルの建物も少し変だった。
本館と呼ばれるホテル本体が一棟。
その隣に民家のような家があり、二階が渡り廊下で繋がっている。
奇妙なホテルを目前にすっかり気分が悪くなっていた。
修学旅行中は部屋単位のグループで行動した。
リーダーが割り当てられ、私はその役目になった。
みんなで騒いでいるうちに気分もよくなり、最初の印象などすっかり吹き飛んでいた。
初日の夜。
リーダーだけが集まって翌日の行動予定を先生と確認する会議が行われた。
場所は多目的ホール。
あの奇妙な廊下を家側に渡った二階にある。
三十分ほどで会議も終わり、それぞれ部屋へ帰った。
部屋で明日の予定を伝えようとして筆記用具を忘れてきた事に気がついた。
さっきの会議の時に置いてきてしまったのだ。仕方なく多目的ホールまで筆記用具を取りに行くことにした。
忘れ物はすぐに見つかった。さっさと帰ろうと渡り廊下まで戻る。
この奇妙な渡り廊下は本館側の廊下と繋がって、薄暗く一直線に延びていた。申し訳程度にある本館側の常夜灯と渡り廊下の窓から差し込む月明かりだけ。
廊下には誰一人いない。みんな部屋にいるようだ。
暗闇の恐怖に身体を縮こめながら廊下に足を踏み出した時、
向こう側に人が立つ人が見えた。
薄暗かったのではっきりとは見えなかったが、ホテルの人のようだ。
ブラウンのスカートが見えたので女性だとわかった。
人がいることで安心感を得た私は、ゆっくり歩き出した。
私が二、三歩進むとその女性もこっちに向かってきた。
だが、ものすごい速さでどんどん近づいてくる。
おかしい。早すぎる――
足音一つ立てず、女性の姿がどんどん大きくなってきた。
本館側に渡ったあたりでスーッとすれ違った。
横目で見た。
顔には目鼻すらついていなかった。
驚いて振り返った時にはもう消えていた。
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