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リコリス・リコイル~君の心臓〈セカイ〉を撃ち抜くエモい令和の弾丸。2022年7月~9月 #2:ダイハード
アニメは演出と構成が9割であると個人的には思っている。凡庸な話でも構わないし、どこかで見たことのある設定、キャラでもいい。見せ方がすべてであり、料理人の腕一つにかかっている。
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一見非現実的に見える千束の超接近戦の説得力を持たせる数々のガンアクション演出。神は細部に宿る。
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二人が近づくシーンはいつもエモーショナルだ。真島のシーンは対照的に何を仕出かすかわからない危険な男の臭いがプンプンする。
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同時にブラックコーヒーが飲めない、洋画好きとコミカルな一面も演出でみせる。
小道具の使い方も上手い。自身の命を救った「救世主さん」との絆、アラン機関のペンダントを千束は肌身離さず持っているが吉松の意図が次第に明らかになるにつれ、たきなからもらった犬のストラップを大事にする。
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ほぼほぼすべての演出に工夫が凝らされているため、いちいち取り上げるともうキリがない。こうした演出の積み重ねが生きている。構成、全編にわたって飽きさせない工夫がなされている。
第1話の導入部からリコリスと言われる少女暗殺部隊が治安を守っていることが過不足なく説明され、破壊された旧電波塔と延空木タワーが舞台となるであろうことを示唆する。
「ああ、今回は日常回ね」「〇〇(キャラクター一人を掘り下げる)回ね」という紋切り型の受容を許さない。
4話の基本的に箸休め的なお出かけエピソードに、千束の動機である恩人探しやアラン機関が語られ、敵である真島とリコリスの銃撃戦駅爆破が描かれる。
また5話、全編緊迫感のある松下氏護衛のストーリーで、サイレントジンとの対決で振り回し謎を提示し、突然真島がリコリスを車で轢いた上銃殺するというショッキングなシーンを持ってきた上、たきなが鼓動の無い千束の胸に耳を寄せるというエモーショナルなシーンで締める。
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8話ではいわゆるギャグ回としか言いようがない回なのに中盤に真島との緊迫感ある会話、さらに千束がピンチに陥るところで次回に続くとなる。クライマックス、シリアスな12話でも千束がUSBがわからない、などクスリと笑えるシーンを挿入することを決して忘れない。
同時にスピード感を保つため、細かい説明的なシーンは省く。
8話の真島が千束の部屋にいきなり現れるが過程は描かれない。リコリス殲滅のリリベル部隊発進、お決まりのヘリが舞い上がるシーンなどはない。
一見ごちゃまぜ、食べ合わせの悪そうな、戸惑うほどの省略、ハイスピード展開ではあるが、このノンストップぶり、本来なら2、3話かけてじっくりと、となるところをフルスロットルでぶっ飛ばすのがリコリコ流である。
正直、私は早すぎるとおもった。だが慣れると実にスピーディーで見やすい。これこそ絶対に飽きさせない手法なのだ。正に「早送りして映画を見る」現在の若者たち向けの実にたった一つの冴えたやり方なのである。
伏線の張り方も見事である。さらりと重要な情報を出し次に繋げる。千束の「命大事に」「やりたいこと最優先」「人間一生で食べられる回数は決まってるんだよ。全ての食事は美味しく楽しく幸せであれ~」「他人の時間を奪うのが嫌」が5話で物語のキーとなる千束の人工心臓の存在が、聞かれなかったから答えなかったという感じで明かされる。
また、6話ではリリベルという全く別の少年部隊の存在が自然な会話の中で示唆され、暗殺部隊の組織図がロボ太の資料の中で提示、それが12話、しくじったリコリス隊殲滅のために送り込まれてくるリリベルとして結ばれている。
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よいアニメは効果的なリフレイン、対比を使う。たきなの3話の「理不尽です」は自分の処遇に対するものだが9話の「理不尽です」は千束の過酷な運命についてである。他人に興味を持ち共感する。
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もうDAの猟犬ではないたきなの姿が夜の公園でエモーショナルに描かれる。4話で千束が誘うお出かけは9話でたきなが誘うお出かけになる。3話で馴れ合いを拒否するたきなに「居場所はあるよ、お店のみんなとの時間をためしてみない」と誘う千束。第13話で生き延びてしまい少し途方に暮れる千束に「諦めてたことからはじめてみてはどうですか」とたきなが逆に千束を誘う。
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そして一話限られた命を自覚し一人目覚める早朝の街の予感に心躍らせる千束は、13話、逃亡先の宮古島でたきなと二人夕陽を眺めてこの時間が好きと述べる。生き急いできた彼女が延長戦の時間を心ならずも手に入れ、変化した心境を象徴する。(個人的にカズオ・イシグロの日の名残りの名シーンを思わせる。千束は信念に殉ずることはできなかった。でも第一幕の人生を誇りをもって全力で生きた。第二幕はたきなと一緒に過ごしたい、という老境のような心地ではなかったか)
こうした構成の妙、伏線の張り方、対比は挙げればきりがない。
またハリウッドアクション映画のオマージュはかなり見受けられる。
真島の外見はバットマンの「ジョーカー」であり千束のガンアクションは「ジョン・ウィック」シリーズから、など枚挙にいとまがなく、オープニングの蹴り合うシーンは名作「スタンドバイミー」からきている。
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千束が洋画好き、また真島と「ガイハード」明らかにダイハードを模した洋画の話題で意気投合するシーンからも明らかである。
面白いハリウッド的な物語を作りたければダイハードを分解して構成を勉強しろという話を聞いたことがある。ハリウッドアクション映画をついに日本アニメは自家薬籠中のものとしたといえるのではないか。
ここでは、ハリウッド的作品作りがグローバルスタンダードで正解と言えるかどうかは置いておく。
ただジャパニメーションだとかおだてられてはいるが、日本は伝統的な少年ジャンプ的な作品にこだわり過ぎているのではないか。何しろ話がとても長い、次から次へとキャラクターを追加する、強さのインフレが起きる、とってつけたような因縁が語られ、テーマの大演説をキャラクターがはじめてしまう……リコリコがこういった在り方に一石を投じているのは確かであろう。
スピーディーでエモーショナルで構成や展開にメリハリがついていて何より見易いこと。
ネット配信で一気に見ることのできるアニメでないとこれからは生き残れない可能性が高い。
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