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 久しぶりに、いつかの彼女から連絡がきた。幸せになると言って結婚した彼女は、電話越しでもわかるくらいにとても気まずそうに話始めた。
 「ひさしぶり……元気にしてる?」
 「あぁ……久しぶりだな。どうした……」
 「なんかね……貴方の声を聞きたくて。つい……電話番号が残ってたから架けちゃった。」
 シャワーから上がったばかりの俺は携帯電話を首と肩で挟みタオルで髪を拭いていた。彼女から声を聞きたかったと言われて昔の幸せだったあの日を思い出していた。
 「いいのか?俺に電話なんかしていて。旦那さんに疑われるんじゃねーの?」
 「いいの……色々あってね。話せる人もいなくて……」
 「そうか。俺で良かったら話聞くよ。」
 「うん……でも……やっぱりやめとく。本当に辛くなったら言うね。声聞けて嬉しかった……ありがとう。」
 そう言って電話が切れた。久しぶりに聞いた彼女の声が過労で倒れた時を思い出させた。とても、尽くしてしまう彼女だから心配になる。無理をしていないか……我慢をしていないか……俺に電話してくるなんて、限界なのではないか……なんて考えてしまう。断ち切ったはずの彼女への恋心がチラチラと顔を出していた。それは仕方のないことだ……一番荒れていた時期に支えてくれた彼女だったから。彼女が結婚してからは、何人か女ができたが、どうしても長くは続かない。どんな素敵な女性も彼女以上には愛せなかった。だからこそ、彼女の疲れた声の原因がとても気になる。今の俺なら笑顔にできるかもしれないと頭によぎってしまった。あの電話から暫く連絡がなく安心していた。俺の思い違いだと頭の整理を付けた頃……レコーディングが、終わると携帯に通知が来ていた。慌てて掛け直すと、直ぐ掛ける。って一言だけ言われて切れてしまった。
 「ごめんね。旦那が側にいたから……」
 「いや……大丈夫。どうした?」
 「私……旦那と別れようかと思ってるの。もう、疲れちゃった。旦那……ほかに女がいるの」
 「……そうか……」
 「うん……ごめん。こんなこと言われても困るよね。」
 「いや……大丈夫だよ。話してくれて、ありがとう。そうだ、俺……来週仕事で日本に帰るから会うか?」
 「うん……いいの?」
 「あぁ……構わないよ。日本に着いたら連絡する……」
 そう伝えると、うん……と涙声になっていた。電話を切ると彼女の旦那に対する怒りが沸々と沸き上がった。俺なら……こんな思いはさせないと強く想ってしまう。彼女に会えることを嬉しく想う反面どんな顔して会えばいいのかと考えてしまう。そんな事を考えてると時間が経つのが早く、あっという間に約束の日が来た。日本に着くと用意されたホテルにチェックインした。部屋に入り身なりを整えると携帯電話を手に取りメールをする。
 
 俺 :いま日本に着いてチェックインが済んだよ。何時に待ち合わせる?
 彼女:じゃあ、昔によく言ったロックカフェで15時にどう?
 俺 :了解。時間とか大丈夫なのか?
 彼女:大丈夫。同窓会と言ってあるから。夜遅くまで平気。
 

 メールでやり取りが終わると複雑な気持ちで待ち合わせ場所に向かった。この場所は、俺と彼女にとって特別な場所だ。色々なロックミュージックが流れていて、若い時よく俺は流れている曲よりいい曲を作ってやる!なんて息巻いたものだ。そんな俺を見て、いつもできるよ!って励ましてくれたのが彼女だった。ロックカフェに着くと少し痩せ細った彼女がいた。俺と付き合ってる時よりも少し大人びていたが笑顔は変わらずだった。
 「久しぶり。少し痩せたか?」
 「まぁね……」
 「お前の事だから無理してんだろ?よくねーぞ。そういうの。」
 「うるさいなぁ~もう大人なんだから無理なんてしませんよー。」
 「まったく変わらねーのな。子どもみてーなところとか……それより、旦那と別れるって……どうした。」
 「うん……浮気されてたの。私なんて飯炊き女だって。あいつの給料で足りずリモートワークして、あいつより稼いできたのに……」
 「それ、お前の勘違いじゃないのか?」
 「結婚記念日に出張だって言われてね。インスタのストーリーがお勧めに出てきて浮気相手のアカウントなんだけど」
 そっと、スマホを差し出され見ると明らかに若い女と彼女の旦那がキスをしていて貰ったプレゼントを自慢している。その浮気相手の胸に輝くのはピンクダイヤのネックレスだった。ピンクダイヤと言えば永遠の愛の石としても有名だ。しかも、若い浮気相手は妻である彼女を挑発していた。それに便乗した旦那も彼女を傷つけるには十分すぎる言葉を吐いていた。
 「最悪だな。旦那……お前はどうしたい?別れるのか……」
 「うん……もういいの。男運ないんだよね。私……とりあえず別居するつもり。あいつの何倍も稼いでるから困るのアイツだし。アイツから慰謝料は取れないだろうから、それはいいとして浮気相手には請求するつもり。」
 「そっか。引っ越し先は決まってるのか?」
 「うん。実はね……今日出てきたの。すべての荷物を運び出して。あいつ馬鹿だから、私が同窓会で遅くなるって言ったら、俺も遅くなるからだって。きっとあの女のところに行くのね……」
 そんな話を聞きながら過ごしていると辺りは暗くなっていた。そろそろ解散しようということで別れた。俺は日本には1ヶ月ほど滞在するつもりだったから彼女の新居の近くにマンスリーマンションを借りた。いつでも話し相手になれるようにと……。
 彼女の旦那は、血相を変えて彼女に土下座しに来たらしいが彼女が警察を呼んで終わり。俺はというと、頻繁に彼女の家に足を運んでは飯をご馳走になった。彼女の家でソファーに座り昔と変わらない程の距離感になっていた。それでも、昔とは、ちがった。
 そろそろ、アメリカに帰国しなくてはならない頃、彼女にせがまれて冬の海に来ていた。小さなベンチに座り寂しさを紛らわす様に海を見ていた。日も落ちて来たので海辺をゆっくり歩き駐車場を目指した。彼女は少し離れてついてくる。お互いに伝えたい想いがあるのに伝えられないとでも言うように。
 近くの教会の鐘が鳴り響いて俺の胸の中で何かがはじける音がした。少し立ち止まって小さい声で呟いた。
 「恋は、もういらねーな。」
 その言葉を合図に彼女は無邪気に俺の腕に腕を絡めた。
 「壊れるような恋じゃなくて、愛をください。私だけの……」
 こんな綺麗な彼女をみたことがなかった。本能的に抱きしめて伝えた。
 「俺とアメリカにくるか?幸せになろう」
 そう伝えると、無邪気な笑顔で大きくうなずいてくれた。今は、俺の良きパートナーであり理解者だ。今でもあの時の椅子に座る彼女を見るだけで幸せだと思う。そして、あと3ヶ月もすれば家族が増えるのだから……。
 
 

 
 
 

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