レビュー | 富士フイルムのX-T5はウェディングフォト撮影の現場で使えるか
「富士フイルムのX-T5で結婚式って撮れるの?」
機材をコンパクトにしたいけど、ちょっとまだ富士フイルム(以下、たまにフジと表記)にするには踏ん切りがつかない。そんなウェディングフォトグラファーの皆さんの疑問をクリアにするため、実際に結婚式の現場で使用した私がレビューを書かせていただきます。
実際、フジのXシリーズのカメラを仕事用カメラとして検討している方も増えてきていると思います。
しかし、結局ソニーの方がどこか信頼性が高そうで、いざ仕事用となると踏ん切りをつけられず、ここで止まっている人がめちゃくちゃいそうです。
おそらく懸念点は、大きく以下の三つの視点ではないでしょうか?
仕様的視点:実際どれくらい小さい?重さは?
撮影的視点:フォーカス合う?追従は?
画質的視点:APS-Cのセンサーで高感度の画質は大丈夫?
これらは、今までフジのX-Pro3とX-T2を使用してきた私の、X-T5購入前の率直な疑問点でした。
この辺りについても触れながら、X-T5は結婚式撮影に使えるかのレビューを進めていきたいと思います。
1. 仕様面での検証
さて、まずは仕様面の話から始めたいと思いますが、X-T5の細かい数字に関しての仕様は富士フイルムのこちらのサイトにてご確認ください。
このパートでは、結婚式撮影をする上で気になる「サイズ」と「重さ」について順番にお伝えしていきます。
サイズ
富士フイルムのXシリーズでウェディングフォト撮影を考えている人にとって、これは一番気になるところではないかと思います。
実際どれくらいコンパクトで、ミニマムな機材で撮影に挑めるのか?
キャノンやニコンを使っている人はもちろん、ソニーユーザーにとってもコンパクトになるものなのか。
まずはその問いに対する答えとなる写真からどうぞ。
参考:レンズバッグはこちら
一言でいうと、めちゃくちゃコンパクトになります。
このシンクタンクのレンズバッグには普段、ソニーの以下の3本の単焦点レンズを入れていて、それでちょうどよいくらいのサイズ感です。
FE 35mm F1.4 GM
Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA
FE 85mm F1.8
しかしフジの場合は、レンズ3本に加えてカメラボディ2台も入ります。
ストロボのいらないロケなら、もうこれでバックアップカメラもメインカメラも持って行けてしまうのです。
カメラバッグをキャリー型から容量の少ないリュック型に変えたい方などにとってはもってこいのシステムです。
Xシリーズの他機種との比較
では、そのフジの中においてX-T5のサイズがどんなものなのかを、私が持っているX-Pro3とX-T2との比較でご紹介します。
この中で一番大きく感じるのは、ダントツX-Pro3です。これは、カメラボディの幅によるものです。
「フジ=小さい」という期待とともにカメラを握ると「あれ意外と大きい」と感じるのがX-Pro3。
X-T5はというと、大きさよりも「ガシッ」と握れるグリップによるホールディングの良さ、しっくり来るという感覚がまず一番にやってきます。
「ちょうどよい小ささ」
こんな言葉がぴったりなサイズ感です。
写真の比較ではややX-T2の方が小さいですが、バッテリーも変わっているし、手ぶれ補正も付いているし、比較するには違いすぎる性能差でもあるので、逆にX-T5をこのサイズに収めているのは本当にすごいなと思います。
重さ
「それだけコンパクトなら軽くて撮影も楽でしょ」
と思いますよね。
ここで、私が普段使用しているソニー機材からどれだけ軽くなるかを調べてみました。
私はもともと機動力重視なので、レンズをすべてF1.4で揃えるようなことはしておらず、描写が良ければF1.8を使うようにしています。
ソニー
α7 III ILCE-7M3 650g x 2台
FE 35mm F1.4 GM 524g
Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA 281g
FE 85mm F1.8 371g
合計 2,476g
富士フイルム
X-T5 557g x 2台
XF23mmF1.4 R LM WR 375g
XF33mmF1.4 R LM WR 360g
XF56mmF1.2 R WR 410g
合計 2,259g
その差、217gとなり、「意外と変わらない」という結果になりました。
ソニーの35mm F1.8は周辺の描写が甘いため私はF1.4を使っていますが、これをF1.8にすると
ソニー
α7 III ILCE-7M3 650g x 2台
FE 35mm F1.8 280g
Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA 281g
FE 85mm F1.8 371g
合計 2,232g
となり、ソニーの方がトータルでは軽くなるのです。
フジはAPS-Cなのでフルサイズより高感度が弱く、背景もボケにくい。そのためF1.4やF1.2などの明るい単焦点を持っておきたいと思うのは全てのプロフォトグラファーが思うところでしょう。
それを叶えようとすると、ソニーでF1.8レンズを使う機動性重視のフォトグラファーにとっては、コンパクトにはなるがさほど軽くなるわけではないということを知っておきたい。
2. 撮影面での検証
私にとってフジのカメラで一番思い出深いのは、2016年のこと。X-T2が発売されてすぐの頃でした。
まだX-T2で結婚式撮影をしている人は、日本に片手で数えるほどしかいなかったんじゃないかと思います(勝手な想像)。
とあるプロデュース会社の仕事で、都内のレストランウェディングを撮影していた時でした。
パーティーの途中から、会場照明が消え、灯りは卓上のキャンドルだけに。
これぞ低照度という環境に、僕のX-T2は「ウィ〜〜〜〜ン」と永遠に無限遠とこちらを行き来して、AFが全く役に立ちませんでした。
生まれて初めて、マニュアルフォーカスのみで披露宴を撮影するという経験をしたのでした。
それ以来「フジで暗いところは厳しい」という僕の先入観はかなり根深いものになり、技術が進歩している最近でもずっとX-Pro3などで夜のパーティーや完全室内のパーティーを撮影することは避けてきました。
低照度
そんなわけで、X-T5での結婚式撮影です。
今回の写真はパーティーではありませんが、撮影時の設定でいうと
f1.8
1/100秒 ~ 1/160秒
ISO3200
というような現場。
スポットライトはなく、あるのは天井のダウンライトのみです。ここでX-T5がどんなAF性能を見せるのか。
驚くことに、AFで迷うということがありませんでした。普段仕事でソニーのα7Ⅲを使用している時と何ら変わりなく、フォーカスポイント上にある被写体にAFを合わせ続けることができました。
X-T5では、照度の低い式場でも撮影に耐えうる合焦性能を持っていると言えます。
追従、瞳フォーカス
それでは、追従性能はどうでしょうか。
結婚式ではもはや欠かせないAF性能の一つ。
こちらについて、挙式の退場時にAF-Cで追従したデータをご紹介します。
この通り、かなり環境の悪いところでも、しっかり被写体にフォーカスし続けていました。
この時はサブで入ったので目線をもらってポートレートを撮影するということがなく、瞳フォーカスをじっくり使うことはありませんでしたが、スタジオで試している限り、瞳フォーカスもかなり良いです。
カメラを向いている時はもちろん、一度横を向くなどして瞳を検出できなくなったとしても、追従し続け、被写体がこちらを向けば再び瞳を捉え続けます。
瞳フォーカスについては、改めて動画を撮るなどしてこちらで後日ご紹介したいと思います。
3. 画質面での検証
次は、画質。特に高感度ノイズについてお伝えしたいと思います。
高感度ISO使用時のノイズ
最近の結婚式撮影ではマストと言っていい高感度での撮影。ISO5000くらいまでは躊躇なく使うというウェディングフォトグラファーも多いのではないでしょうか。
X-T5の高感度性能について、写真と一緒に見ていきましょう。まずはISO2500とISO3200の写真。
※以下のX-T5の写真はすべて「高感度ノイズ低減+2」で撮影しています
色ノイズが少しみられますが、LRで適切に処理すれば消せるほどのもの。「APS-C = 高感度が苦手」という印象を覆す結果になっていると感じました。
さらには、頑張ってISO5000あたりも、適正露出で撮れていれば実用的で、ウェディングフォトのスナップで納品するレベルには達していると言えます(下記画像を参照)。
上記の写真はLRなどのソフトウェアでの補正をしていないので、等倍画像の右上ではややディティールが甘いかなと感じますが、撮りっぱなしのデータとしては十分な画質だと思います。
カメラボディ側の「高感度ノイズ低減」の数値の違いによるノイズ差の検証はできていませんが、適正露出で撮影をして、カメラ側とソフトウェア側で一定のノイズ低減を行えば、X-T5でも十分納品レベルの画質を作れるということがわかりました。
白飛び、シャドウ
最後の検証項目は、白飛びとシャドウのつぶれ。
過去にX-T2を使用していた時、同時期に併用していたNikon D750では全然白飛びせずに撮れるシーンでも、X-T2ではガッツリ飛んでしまうというシーンがけっこうありました。センサー性能の違いが、それだけの結果の差を生んでいたのでしょう。
X-T5はどうでしょうか。
白飛びを気にしてややアンダー寄りで撮ったので、LRでシャドウとハイライトを補正したのが下記データ。撮りっぱなしのデータでは飛んでいたり黒つぶれしていた部分も、LRでちょっと補正してあげるだけで解消できました。
ダイナミックレンジの具体的な数字はわからないのですが、情報量にかなり余裕があるように感じられました。
下記の2つの画像は、暗部を持ち上げに対する耐性がどれくらいあるかのわかりやすい before / after です。
このように、暗部も持ち上がるし、白飛びも戻ってくるレベルで、フルサイズに近づいているような印象を受けました。
この点についても、実用上まったく問題ないと言えます。
4. 結論
これらの検証から分かるように、X-T5は結婚式撮影で十分に使用できるカメラだと言えます。
私がかつて持っていたXシリーズに対する不安の多くはすでに解消され、仕事で使えるカメラになっていました。
これからカメラを一式揃えてウェディング撮影に臨む方、すでに撮影していて他のメーカーからの乗り換えを検討している方は、躊躇なくX-T5を選択肢に入れてよいと思います。
「X-T5だから撮れない」というカットはほぼないと言ってよいでしょう。
5. X-T5のお気に入りポイントとおすすめファンクション設定
最後に番外編として、私がX-T5でウェディング撮影をしていて、特にお気に入りのポイントをご紹介します。
カメラ選びにおいては、スペックよりもフィーリング。撮っていて楽しい。持ち出したくなる。X-T5を使わずにいられない理由を書いておきます。
シャッター音の静かさ
結婚式の撮影をしていると、とにかく音が気になる場面が多いと思います。緊張している新婦様のお支度シーンや、挙式中。それから手紙を読んでいる時などもシャッター音が気になります。
これは、撮っている時も気になりますが、自分が誰かのセカンドに入ったり、結婚式に参列してみたりするとさらに感じます。シャッター音、めちゃくちゃうるさいなと。
もちろん、モデル撮影時のように「撮っているよ!」ということを被写体に伝えたい時は聞こえた方が良いのですが、一般の方を撮る時は基本的には静かな方が良いですよね。
これは、親御様からのお手紙をご新郎が一人、挙式スペースで読んでいるというシチュエーションでした。
ウェディングフォトグラファーであれば、できれば自分の存在を消したいシーン。グッと被写体に近づいて強くエモーショナルな写真を撮りたいけど、近すぎたり音を立ててこちらを意識されすぎると、せっかく感情移入しているご新郎にも悪いし、写真もリアルを写せなくなってしまう。
今回はX-T5の静かなシャッター音が奏功して、ご新郎にこちらをあまり意識されることなく、感情移入していただき涙を流すシーンを収めることができました。
記憶色重視のカラー
そして、フジといえば何といっても、色。本当に美しいです。
記憶色を重視していると言われるフジフィルムでは「こんな色の仕上がりになったら嬉しい」という色で撮れることが多いです。
撮影後のLightroomでの色補正の時間が圧倒的に短いのが最高(プリセットをかけてしまったら関係ないけど)。
ミラーレスだから、フジの色の写真がそのままファインダーに表示され、「おおっ!」とテンションが上がります。
逆に言うと、例えば空を撮っていて「美しい〜」なんて思ってファインダーから目を離すと「あれ?そうでもない?」と現実にちょっとがっかりすることも(笑)良いのか悪いのか。
おすすめのファンクション(Fn)設定カスタマイズ
新しいカメラを買った時の楽しみの一つとも言える、操作ボタンのカスタマイズ。
ただ、私は正直あまりカメラのカスタマイズは好きではなくて、本当に必要最低限しか使っていません。
カメラって直感的であるべきで、頭で「あれここだっけな」なんて考えて使うものではないと思うからです(特に結婚式撮影においては)。
もしかしたらそんな「カスタマイズ面倒くさい人間」が私以外にもいるのではないかと思い、とりあえずこの通りやっておけばわりと便利だよというFn設定のカスタマイズを共有させていただきます。
久保のX-T5ファンクション(Fn)設定カスタマイズ
Fn1 フラッシュ機能設定
Fn2 なし
Fn3 再生モード
Fn4 AFモード
Fn5 ホワイトバランス
Fn6 顔検出 ON / OFF
T-Fn1 電子水準器切替(背面液晶を上にスワイプ)
実際、Fn1とT-Fn1はほとんど使っていません。
Fn2にいたっては、知らぬ間の接触が怖いので割り当てていません。割り当てたいと思うものもなかった…
主に使うのは、以下の四つ。
・撮影後にデータを見るときにFn3の再生モード。
・ゾーンやシングルポイントなどのフォーカスポイントを変えるのがFn4のAFモード。
・Fn5のホワイトバランスは、基本オートなので私はそこまで使いません。
・Fn6の顔検出は、人が少ないところではON、人が多くてAFを持っていかれそうなところではOFFにするため。
最後に
以上、ウェディングフォトグラファーにとって富士フイルムのX-T5が仕事用カメラの選択肢に入るのかという観点で、現場での使用感や実データをもとにレビューさせていただきました。
ウェディングという分野に限れば、はっきり言ってこれで撮れないものはほとんどありません。めちゃくちゃいいカメラです。
特に、機材をコンパクトにして、フットワーク軽く撮りたいという人におすすめです。
2023年、X-T5でどしどし撮りまくってください!
今回のレビューで使用している写真の撮影会場は、株式会社CRAZYさんが運営する人気会場 IWAI OMOTESANDO です。建築は Puddleさん、ランドスケープはTSUBAKIさん。最後に、美しいIWAIをX-T5で撮影した撮りっぱ写真データを数枚あげて、この投稿の結びとします。
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