「宝石」本編
◆台詞については文字数の都合上主要なもののみ
キャラ名「(セリフ)」
で記載。後は話の流れに即して必要な会話を挿入していく。
◆真相の開示まで「少年」たちの種族を隠すため、童話的シルエットの絵柄で展開する◆
0.冒頭
歓声「わああぁぁ」
少年が掌の上の『宝石』を見て感嘆している。
『宝石』の内部には、美しい少女の体が浮かんでいる。
これまでの経緯説明のため、時間を巻き戻す。
1.父の帰還
青い海を抱く地球の遥か高みの宇宙空間に、無骨な宇宙船が浮かんでいる。
重厚な宇宙服の頭部が、宇宙船の窓から眼下の星を見下ろしている。
宇宙船は眼下の星へ降りていく。
<探索目的の降下だが、ここで地球人とミスリード>
場面転換。(ここで時間も経過している)
<少年の住む戸建て。西洋の広い住宅風。外観や内部の調度品などから、裕福さがうかがえる。「未来」世界を提示するため、あまり古ぼけた様相にはしない>
「ガランガラン」と音を鳴らして、木製の玄関の扉が開かれる。
少年はそちらに振り向く。持っていた車の玩具を放り投げて部屋を飛び出す。
少年「パパ、お帰り」
玄関に立っていた父親の胸に飛びつく。
父親の外観は「筋骨隆々」と言うほどでもないが、程よく恰幅が良い。風体から少年が心から慕うであろう善性が伺える。
母親も登場。
母「お帰り、あなた」
胸に顔を埋めて頬ずりする少年を抱きかかえ、父親は屋敷の中へ。
2.宝石との出会い
キッチンで団らんする家族。料理に腕を振るう母。美味しそうに食べる父。
料理は天然物。半年ぶりの帰宅であるなど情報が語られる。
ふと思い出した父親がバックから箱を取り出す。
父「そうだ、良い子にしていた坊やには、御褒美にお土産をあげる事にしよう」
少年「ひょっとして新しい宇宙船?」
「部屋で開けてご覧」と言われ、少年は自分の部屋へ。
両手で抱えた箱を「うんしょ」と卓上に。包み紙を乱暴に開ける。
出てきたのは高級感溢れる厚地のケース。(新しいプラモデルじゃないのか)一瞬落胆する。
蓋を開けると現れたのは青色透明の『宝石』。1つ1つが少年の掌に収まる程度の大きさ。仕切りに区切られて窪みに収まっている。
話が冒頭に戻る。
少年が1つ取り上げて覗き込むと、『宝石』の内部には人間の少女の外観をした生物。目を閉じて静止状態。
『宝石』の中の少女はそれまでの童話調とは違い、イラスト調で可愛らしく描写して、少年が心を奪われる様を表現する
少年「うわー、何て可愛い女の子達なんだろう」
夢中な少年の元に父親がやって来る。
父「どうだい、パパのお土産は気に入ってもらえたかな」
「その『宝石』の中にいるのは最近見つかった星の生き物でね。研究の為にいくらか採取したのだが、つまりその、捕り過ぎてしまった結果余ってしまってね。探索員たちで分ける事になったんだ。見てごらん。実に可愛いだろう」
少年「うん、すごいよ。ありがとう」
語り「子供たちの間ではケース中にびっしりと並べられた標本であったり、あるいは流行りのカードや模型であったりといった様々なコレクションを得意げに見せびらかしあうものです。けれどこの自分の父親のお土産に勝る代物は無いでしょう。
どんなにお小遣いを貯めようとも、どれだけお金持ちの家庭の子供がパパにおねだりしようとも、こんなに綺麗な『宝石』を手に入れるのは不可能でしょうから」
少年「僕父さんの子供で良かったよ」
父親を誇らしげに見上げる。
3.夢中になる少年
<学校の教室。黒板代わりのモニター・自動清掃機など、童話風の未来絵図>
少年は端の席で頬杖をつき授業そっちのけで『宝石』のことを想う。
教師から叱責が飛ぶ。しかし少年は依然うわの空。
下校中も危険に構わず道路からはみ出る。
<両親のイメージ挿入>
母親「あの子最近大丈夫かしら」困り顔
父親「まぁ男の子にはそんな時もあるだろう」鷹揚な構え
遂にクラスの生徒から「あいつ変だぜ」とバカにされる。
少年は悔しくなって、『宝石』を見せつけて奴らを見返してやろうかと思う。
少年「でも待てよ」
「だってあの標本は僕の大事な物だから。
自分だけの秘密。自分の守るべき物。そういったものがあっても良いじゃないか。
漫画やドラマの中で見た『男の誓い』とか『男の勲章』って、こういうのだったんだな」
そう考えて少年は『宝石』を見せつけるのをやめる。
4.『宝石』を観察する少年
少年は『宝石』をつぶさに眺めて、今日も何か新発見はないかと探る。
以下少年の独り語り
「彼女たちも自前の体皮の上から人工の衣服を身に纏っているんだ」
「そこが他の原始的な生き物とは大きく違う訳だね」
「この子は水兵さんが着るような服」
「こっちの子は、これっぽちしか身に着けてない」
「ひょっとしてこの生物は大気の温度の変化によって衣服を調整しているのだろうか」
<ここで『宝石』の中の少女たちの姿を並べて映し出す。髪の長さや色合い、体型の違いなど容姿は様々だが、皆例外なく可憐な姿をしている。こうして執拗に描写することで、少年の執着心から至る破滅の予感を提示する>
少年は『宝石』の中の少女の頭から足先まで変態チックにつぶさに眺め回す。
その後「今日も新しい発見をしたぞ」と喜んで、ベッドの中で眠りにつきつつも感動の余韻に浸り続ける。
5.幼なじみとの会話
学校の廊下。少年の背後から声がかけられる。
「あなた最近愛想悪いわね」
振り向くとそこには女子生徒。少年は見知った相手という態度。
<小さい頃仲良く遊んでいた様子など挿入>
少年「うん、そうかな」ぶっきらぼうな感じ。
幼馴染は剣呑とした態度だが、しかしどこか少年に気があるよう(ツンデレ風)に語りかける。
幼馴染「別に私とあなたの付き合いだからさ。何も今さら……」
少年は幼馴染の話を適当に聞き流して立ち去る。
少年のモノローグ
「もう、今は一刻も早く家に帰って『宝石』を眺めていたいんだ」
「確かに君もチャーミングだけど」
「それはあくまで僕らの種族での話であって、『宝石』の中の天使たちとはとても比べ物にならないんだ(ごめんね)」
幼馴染「って聞いてるの!」
背中に(漫画的デフォルメされた)きつい視線を受けるのを感じつつも、少年は全く気にならない様子である。
6.予兆
少年は相変わらず『宝石』に夢中である。
今も『宝石』を眺め続けている。そればかりか今は彼女たちに語りかける始末。
「あのね今日は学校でこんな事があってね」
「この街のおすすめの風景と言ったらやはりあそこかなぁ。いつか見せてあげたいな」など
少年に語りに対しても、当然だが少女は無反応。
少年はそれに物足りない様子。
「そりゃ大きさは全然違うけど、僕とそう年の変わらない外見の可愛い妖精達を目の前にしているのにさ」
「こうやってただ眺めているだけだなんて。そんなの我慢できないよ」
「彼女たちとお友達になりたいな。向かい合ってお話をしてみたいな」
「小鳥の様な唇からはどんな甘い声が発せられるのだろう。呼吸をする時の平らな胸やお腹が上下に動く様子を見てみたいな」
「今は閉じられたままの瞼の向こうの瞳はどんな色をしているのかな。覗き込んでみたら、きっと吸い込まれちゃうんだろう」
思いついた願望が膨れ上がっていく有様。
7.準備
休日の昼間。
少年は父親の部屋の本棚から、重厚な科学の本を抜き出す。
少年の部屋の卓上に並んだ実験器具と『宝石』。
<フラスコやアルコールランプなど、一般的な実験用具を出して身近感を持たす>
少年は開かれた本の頁に載っていた図表を参考にして、何らかの薬品を調合する。
「よし準備ができたぞ」
<悪いお姫様を救い出す騎士のイメージ>
「これを垂らせば『宝石』は蒸発して、彼女たちは目覚めるはずなんだ」
『宝石』の表面に数滴垂らされる。
8.破滅
少年の言葉通り『宝石』が蒸発し、中の少女が解放される。
シルエット風の少年とイラスト調の可愛い少女が同じコマに並存する。
目覚めた少女は、自分の現在の状況に見当がつかない様子。当たりをキョロキョロと見回す。
少年「こっちだよ」
少年は優しい声で呼んだつもり。
しかし少女は突然の大きい声にびっくりした様子。恐る恐る頭上の少年の方を向く。
少女「ひ、ひいいいいいぃぃぃぃ」
頭上の少年の姿を見て、大きな悲鳴をあげる。
そのまま濁った灰色の塊になって動かなくなってしまう。
少年「え……そんな」
理由は分からないが、突然の惨状からくる罪悪感と喪失感に、しばし呆然とする。
しかし気を取り直してリベンジとばかりに
少年「い、今のはしょうがない。次こそは」
次の『宝石』を処置する。しかしその少女も悲鳴を上げて変様してしまった。
少年の表情は次第に悲壮に染まっていく。しかし失敗を取り戻そうとする気持ちも強まり、自分を止めることが出来ない。
少女たちの悲鳴が繰り返される。
「いやああああああああぁ」
「うう、うわあああああああああぁ」
全てが終わった後。
少年「う、うう、ううぅぅぅ……」
嗚咽を漏らす少年。
机の上には、無数の少女たちの成れの果てである塊。
自らの体を抱きしめた姿
両手で視線を避けようとする姿
お互いに寄り添う姿で塊になった者たちの姿など
四肢も枯れ木から伸びる捩れた枝の様になり、二度と元の姿に戻ることは無いだろうことがありありと示される。
少年「あ」
視界の隅の方にまだ辛うじて生き残っている1体がいることに気がつく。
賢明に這っているその生命を助けようと、手を差し伸べる。
しかし僅かに触れたその瞬間、少女はビクッと大きく身を震わせて息絶えてしまった。
「ううううううう……」
惨状を前に少年は今度こそ盛大に泣きじゃくる。
9.真実
少年はベットに顔を埋めて泣き続ける。
外はすっかり暗くなり、少年の家も晩御飯の支度が出来ている。
母親「一体どうしたのかしら。今日はずっとああなのよ」心配そうな表情。
父親「僕が行ってくるよ。これはおそらく男同士の問題だろうから」
妻にそう告げると、家の階段を登っていく。
<少年の部屋。未だに片付けられていないまま。ずっと突っ伏しているからか、外が暗くなっているのに明かりをつけていない>
父親「ここは暗いね。明かりを点けるよ」
明かりがつく。部屋の様子が露わになり、父親はその光景を見て「やはり」と事情を察する。
父親「そうか、『宝石』の封を開けてしまったんだね」
父親は少年の傍に寄り添う。優しく肩を抱く。
父親「あの『宝石』の中にいたのは『人間』という地球と呼ばれる星に住む生き物でね。とても繊細でか弱い存在で、我々の姿を見る事すら彼らの精神には耐えられないんだ」(触ることはおろか)
少年「こんなひどい事をするつもりじゃなかったんだ。話をしてみたかったんだ。お友達になりたかっただけなんだよおお」
少年は父親の胸にすがる。耐えきれず嗚咽を漏らす。
父親「だから彼ら人間とはああして『宝石』を通してでしか触れ合う事が出来ないんだ。
決してその先を望んではならない。或いはいつか彼らの精神がこの銀河を司る我々と共に歩めるようになるまで進化する、その時まで」
<ここでシルエットが解除され、少年たち種族の外観の一端が明かされる>
少年「ごめんなさい。ごめんなさい……」
語り「少年は父親の胸の中でただただ謝り続けました。
それは折角の父親のお土産を、無残な物にしてしまった事に対する詫びでしょうか。
悪気はなかったとはいえ、ひどい目にあわせてしまった『宝石』の女の子達に対する精一杯の謝罪なのでしょうか。
それとも愚かだった自分に対する後悔の念が、彼に涙を流させているのでしょうか。
いえ、おそらくはその全てでしょう。
きっと今の彼の中では様々な気持ちが、ぐるぐると渦を巻いている筈です。
父親の持って帰ったお土産は、不幸な結果を招いてしまいました。
けれども少年の父親は、少年がこの経験を通して強く鍛えられる事を望みました。
父親は少年が泣き疲れて寝てしまうまで、その腕で優しく彼の事を抱きしめ続けました」
-幕-
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