はじまりのFederweißer
昨日(10月3日)はドイツは祝日。ドイツ統一の日で、東西ドイツが一つになったとても歴史的な記念日。
すっかりその祝日のことを忘れていた私は、朝から買い出しに行かねばと近所のスーパーへ歩いて向かっていた。
「今日は静かな朝だなあ。まあ、最近寒いし(10度以下)朝がゆっくりなのかなあ」なんて呑気に歩いてスーパーへ。しかし、電気の付いていないスーパーの店舗といつもならば空いているdm(ドラッグストア)が閉まっている。
はたと気がつき、慌ててGoogle Mapを開くと、”今日は祝日だからお休み”。
そうです、ドイツのスーパーやお店というのは日曜日と祝日は完全にお休み。24時間365日空いている日本とは違い、買い忘れをしても日曜日と祝日はどこもかしこも閉まる。
「やられた。」
そう呟いて、意気揚々と歩いてきた道をトボトボと引き返して家に戻った。
私が日本を出発したのは10月3日。そして、ドイツに住み始めたのは10月4日。
道理で、1年前の10月3日のことは日本の記憶のみで、祝日のことが頭から抜け落ちていたわけだ。
そして、1年前の10月4日。降り立ったドイツ。その日のことは鮮明に覚えている。
日用品がない!とスーパーやいろんなところに奔走したから、その前日が祝日だということは気にしていなかったなと遠い目をする。
そうして、ため息と共に家に戻り、1年前のことを思い出していた。
走り書きのメモを見返していると、「Federweißerを飲んだ」という記録。カメラロールにも表示されていた1枚の写真。
このFederweißerというのは、ワインになる前のワイン。ワインとは呼ばないけれど発酵が進み上熟されていくとワインになる、その前の段階のアルコール飲料。
人によっては「赤ちゃんワイン」と表現する人もいるそう。
少し甘くてジュースのようだけれども、実は度数がワインと同じくらいに高いのでちょっと危険な飲み物。そして、スーパーなどでも売られているけれど、発酵途中ということで栓が完全に締められていないので、栓(というかキャップ)の上には大きく「Nicht Legen!!」(横にしちゃダメ!)との注意書き。
そして、このFederweißerは9月から10月までのほんのわずかな期間しか飲むことができない、短い秋の味覚。
1年前の私はその情報を微かに耳にして、引越し祝いに1人で街へ繰り出して立ち飲み屋さんでFederweißerとZwiebelkuchen(玉ねぎケーキ)を食べに行った。
ああ、そうか。あれは1年前のことなのか。と懐かしく思う気持ちと1年という時間の早さと濃密さをしみじみと噛み締めていた。
美味しいものに目がない妹から「ドイツのスーパーにはFederweißerが売ってるらしいよ」とチャットがあり(つまり、飲んでみたいな〜という妹からの無言の圧だと受け取る)今日、昨日の祝日で閉まっていたスーパーに再び繰り出す。
ワイン売り場やビール売り場、冷えた飲み物売り場を彷徨い、レジのおばさんに聞いてやっと見つけたFederweißerは、野菜の冷蔵ケースに収まっていた。
端っこの方にちまっと並べられて、置かれている今の瞬間も発酵を続けているFederweißer。1L瓶を2本抱えて、早速買って帰った。
横にしないように、ぷつぷつと泡が立ち上る瓶を冷蔵庫に入れた。家で楽しむのだと、栓を開けるのを待ちきれなかった。
1年ぶりの味。
甘いぶどうジュースのようで、軽くしゅわっと弾ける微炭酸。
このFederweißerというものは未完成だ。
「これから頑張るぞ!」と青くて清々しいほどにまっすぐな心で踏み締めた、この場所。
くらりとゆるく回るアルコール、これから苦くも甘くもなれる発展途上な「赤ちゃんワイン」の味は、1年前の今日を強く思い起こす。
多分、Federweißerは私にとって「はじまりの味」だ。ここからまた道を切り拓くとワクワクドキドキしたあの日の高揚。それを呼び覚ましてくれる短い秋の特別なドリンク。
最低気温は一桁台。すっかりコートとストールが手放せなくなり、最近はレッスンの前には手を温めるための電気カイロを持ち歩くようになった秋のドイツ。
これまでの足跡、そして丁寧に蒔き続けてきた種が次の一年に向けて芽吹き始めている。
長い冬がもうそこまで迫ってきているけれど、何かがまた動き始める蠢きの音も聞こえている。
去年の私はきっと何も想像できていなかった「今」だけれども、また1年後の私もまたどうなっているのかは未知数。
グラスに入れたFerderweißerをグッと飲み干せば、また未来に向かってワクワクする子ども心のような純粋な気持ちが戻ってくる。
また来年。また次の秋に出会えるのを楽しみに待っている。
きっとその時には私もまた熟されているから、その時までまた1年の日々を積み重ねて、また新しい「赤ちゃんワイン」を味わう。
Prost!
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