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食べる、生きる

ドイツに来てから、フルーツを手に取ることが増えました。バナナをストックし、定番のりんご、オレンジやマンダリン(みかん)など、スーパーに買い出しに行った時に一番最初に行くコーナーはフルーツ売り場。スーパーの構造上、一番目につくところにフルーツが山盛り置いてあるので、目がそちらに吸い寄せられ、気がつかないうちにフルーツをまず選ぶのが買い物のルーティンになりました。

これまでの修業旅と称したマスタークラス(講習会)を渡り歩いていた時も、キッチンがなくてもできる自炊を心がけていました。黒パンとハム、チーズを買ってきたら立派なご飯。そしてサラダボウルを見つけていれば最高。中でも私がお気に入りだったのはブルーベリーやクランベリーを洗って食べることでした。箱いっぱいに大粒のベリーが入っていて、甘酸っぱくて美味しい。さらにはレストランやカフェに行くより、地元の人に紛れてスーパーでお買い物をしている方がその国や地域のことがよくわかるし、コスパもいい!ということで、いろんなフルーツや野菜を食べていた経験がありました。

ドイツで生活を始めてから、食事には気をつけるようになりました。幼い頃「食べる」ことに対しての興味・関心が薄かったようで、食べる量や〇〇を食べたいという欲求が家族の中で最も低かった私。比べて、妹は美食家であり、自らも率先して食べたいものを作っていくグルメなタイプだったので、余計に私の食事に対する無関心さは際立っていました。同じものを食べていても、飽きるという感覚はなかったし、どちらかというと食事=栄養摂取という概念が強かったので、母から夕食へのリクエストを聞かれても「なんでもいい」と答えてしまう、いわゆるちょっとメンドクサイ人間でした。しかも、放っておくと飲まず食わずで色々やり出してしまうので、周りで見ている人たちはハラハラしていたと思います。

しかしながら1人暮らしが始まると、自分の食事は自分で準備しなくてはならない&体を壊さないように管理すること&自己責任!と、考える事柄が家族と生活していた時に比べ増えました。最初から、「自分は食事をおろそかにする傾向がある」とわかっていたので、比較的食事に割く比重を多くして、ちゃんと正しい量をバランスよく食べるということを意識して生活してきました。週に1回買い物に行って、食材とにらめっこしながら自分が持てる分買い、1週間分の作り置きをまとめて作る。ドイツに来たばかりの頃は炊飯器もなかったので、自分で作り始めたレシピ帳の一番最初は「ミルヒライスを鍋で炊く方法」から。オーブンはあるけれど、電子レンジがなく、作り置きをしてもどうやって温めようか鍋とフライパンを駆使して食事を準備する日々。電子レンジを買った時には「素晴らしい文明の力…!」と1人感動しました。

初めのうちは「食事について考える時間」をスケジュールに組み込んでいたのがいつしか何かをしながらでも、〇〇を食べよう・作ってみよう・もうそろそろあの食材を使い切ろうとぼんやり考えることができるように。そして、スーパーで季節の野菜を取り入れることを学び、ドイツならではの食材を使うことも知り、最近は果物まで頭が回るようになってきました。

ドイツ人はカバンの中に必ずバナナとりんごが入っています。そして、街を歩いているとりんごを丸齧りしながら歩いている人や、学食(メンザ)に行ってもバナナとりんごがカゴにこんもりと盛られていて、毎日飛ぶように売れているのを目にします。定番のバナナとりんごから手に取ってみよう。そこから果物への興味がはじまりました。私は正直りんごの皮剥きがあまり得意ではなく(皮が厚く剥けてしまうから勿体無いって感じる…単に下手なだけ…)、最初のうちは頑張って剥いて食べていたのがいつしか芯の部分だけ切って皮ごと食べるようになったり。丸齧りは顎が外れそうになるので、真似はできないけれど、皮ごと食べるりんごの美味しさを発見。日本のりんごと品種が違うのでしょうか、何かぽりぽりする食感と皮のちょっとした渋みが好きです。煮りんごも好きなので、一時期はひたすらりんごを煮て、シナモンパウダーを振って食べることにハマったりすることも。そこからバナナを食べることを生活に取り入れ、そのまま食べるだけでなく、次第にグルテンフリーの食生活にも興味を持ち、オートミールと合わせて週末にマフィンやパウンドケーキを作ってみたり。だんだんと季節が移り変わり、いちごの季節へ。真っ赤に熟れて大きないちごは購買欲をそそるし、太陽の光をギュッと集めた果物の輝きは春の訪れを感じさせるものということを実感。日本だと日によって大きく値段が変わることはないと思いますが、ドイツのスーパーでは売れ行きとその果物の季節・食べる時期、入荷の具合によって値差があります。そのため1週間前は破格のお値段だったのに、今日見たら急に値上がりしているなど、初めて過ごす季節のスーパー事情は複雑でした。逆に、先週くらいまではこの果物がお安かったけど、今週になったら別の果物が破格の値段で置いてあるのだけど!?ということも起こります。
ドイツに来てから初めて目にする果物も多くあります。中でもお気に入りになったのは、「Aprikosen」と「Plattpfirsich」。日本語にすると、Aprikosenはアプリコットまたは杏、Plattpfirsichは蟠桃(ばんとう)という果物。6月から7月の果物で、どちらも日本ではあまり馴染みのないものです。アプリコットはドライフルーツのイメージが強く、生で食べる感覚がなかったのですが、カリッとした果肉に重くない甘酸っぱさが私の好みでした。(初めは梅だと思ってました。見た目が似ていて…)さらには皮を剥いたりせず、切り込みを入れると種に沿ってパカりと割れてくれるのも、私にとってポイントが高く、何度もリピートして買っています。(1パック500g入りでお値段が下がっている時期は1.50ユーロくらい。1人暮らしだと1つ買うと1週間半くらいで食べ切るくらいです) そして、蟠桃。こちらは桃の一種ですが、平たい形をしていてアプリコットと同じ時期に多くスーパーに並びます。昔、マスタークラス期間中にコロナに罹り、1人のたうちまわった経験があるのですが、その時に事務局の方がお見舞いとして持ってきてくれたことがありました。その当時は全く食べられず、さらにはこれが一体何かわからず他の友人に渡してしまったのですが、何年か越しに答え合わせをしました。笑 桃は皮を剥くのが大変というイメージ、そして値段が高い、ちょっと高級な果物のイメージだったのですが、この蟠桃をドイツで買うと500gで0.95から1.99ユーロ!大体5個くらい入っているので、1日に1つ食べても1週間くらいで食べ切る感覚。さらには皮も問題なく食べることができるので、包丁で切れ込みを入れてぐるりと捻れば種に沿って綺麗に実を割ることができ、そのまま食べられるので小腹が空いてしまったの時のおやつとして食べることが多かったです。 春から夏に季節が移り変わってきた最近。次に挑戦したのはパイナップルでした。トゲトゲがついている丸ごとのパイナップルが1つ1.40ユーロ。これは試してみたい…。スーパーですれ違ったお姉さんが片手にパイナップルを抱えているのをみて、私も食べたいなあと思ったものの、切り方がわからない。パックに綺麗に剥かれているパイナップルを手に取る若い買い物客が多い中、物は試しと買って帰ることに。いつもの買い物袋にプラスして、片手にパイナップルを戦利品として持ち帰ってから、まず最初にしたことは母に電話をかけること。「どうやってパイナップルって食べるの!?」そのメッセージを見た母がすぐに電話をかけるように言ってくれたので、Facetime越しに切り方のレクチャーを。実家で母が夏になると切って冷蔵庫に冷やしておいてくれていたパイナップル。甘くて冷たくて美味しかったなあと昔の記憶を思い出しながら、1人くらしのキッチンで奮闘。黄色く熟れた果実の香りが部屋いっぱいに広がって、タッパーに入ったたくさんのパイナップル。すでに切られている状態のものより安上がりで満足度も高い!とパイナップルが値下がりしている時に2-3回買って、楽しみました。(余談:ウイスキーの中に凍らせたパイナップルを入れるととても美味しいです!氷の代わりになって少し冷えたウイスキーが楽しめるのと、最後ウイスキーを吸ったパイナップルを食べるのも大人の味がして美味しかったです) 街の中心に行くと時折、野菜や果物の出店を出しているおじさんがいます。端数を切り上げたり切り捨てたりして、スーパーマーケットで買うのと変わらなかったりすることもありますが、パイナップルは出血大サービス!と言って1つ1ユーロで売られているところに遭遇。これは買わないと…!ということで、トゲトゲ頭をおじさんの腕力でもぎ取ってもらったパイナップルを持って街の中心から帰宅したこともありました。

野菜や果物を通して季節を感じる。きっと日本でも同じように感じることができるのだと思いますが、今まで意識の対象に入っていなかったのだなあと「自分で」「生活する」ことを始めてから気がついたことでした。 音楽家として、また芸術家として、季節の移り変わりや味覚、嗅覚、視覚、聴覚、触覚に対して繊細に感じ取れる感性を大切にしよう。そう思うことで、いつもの日常の買い物もちょっと角度が変わってくると、生活をしながら感じています。それが次第に自分の食生活が彩り豊かなものへと変わっていくことを信じて。


Aprikosen


オートミールとバナナをベースに作った生地にブルーベリーを入れたマフィン


少し番外編
ホワイトアスパラガスはオランデーズソースではなく、
鰹節と醤油食べるのが一番好きです!

Guten Appetit!

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