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レビュー「大豆田とわ子と三人の元夫」第5話

「第5話 4度目のプロポーズ「もう一度結婚するならあなたがいい」
〜三人の元夫たちの憂鬱」

勘がいい、とわ子。
勘がよすぎて、気づいてしまうとわ子。
第5話。切なさが切なさを呼ぶ回だ。

◯海に行くとわ子とかごめ
とわ子「彼(八作)の何も言わないところを好きになって、何も言わないところがつらくなって」「見ちゃったんだよ、ラブシーン。やっぱり相変わらずなんだよね」
かごめ「ま、いろいろあるよね」 

とわ子がかごめだけに見せる表情、感情がある。
宝物の箱を秘密の鍵で開けるみたいに、かごめだけに許された領域なんだろう。
過去のこととはいえ、とわ子の八作への思いは複雑のようだ。
嫌いで分かれたわけではない、むしろ好きだったけれど自分からお別れした経緯がある。
とわ子にしては珍しい、煮えきらない感じの発言。
だが、かごめはとわ子の相談!?をかわして逃げていく。
きっとそうなるであろうことも、とわ子は初めから分かっているのだと思う。

◯かごめ、八作、とわ子 〜コナチャタテの意味〜
かごめ「田中くん(※)て、コナチャタテに似てない?」
とわ子「なに?コナチャタテって」
かごめ「古本の中にいる虫、いるでしょう?」
とわ子「すごい言われ方だね」
八作「ハハッ」
(※)田中くん=八作

ここは重要なシーンで、3人それぞれの背景と感性が表れている。
普通、コナチャタテに似ていると言われて嬉しい人はいない。
むしろ、不快に感じる人の方が多いと思う。
怪訝そうな顔をしているとわ子が自然にみえる。
だが、八作はまんざらでもない。というか、嬉しい。
なぜか。

おそらく、八作は古本好きで読書の虫のような人。
かごめはそれまでに八作が読書に没入している姿を何度か目撃してきたのだろう。
また、かごめ自身も古本好きなのかもしれない。
古本を開いたことがない人は、コナチャタテにも遭遇しないから。
この後の場面で、八作が「遅くまでやっている古本屋」にかごめを誘おうとすることから考えると辻褄が合う。

あくまで推測だけれども、
かごめが自分のことを見てくれているということ
かごめ独特の表現で八作を形容してくれていること
同じ古本好き(かもしれない)という共通点
…などが嬉しいのだ。
さらに、とわ子でさえ気づかないかごめの魅力に自分(八作)は気づいているという特別感、秘匿感がより興味をそそるのだ。

表現一つにしても、
「田中くんて、本の虫だよね」
「田中くんて、読書家だよね」
「田中くんて、古本好きだよね」
と言われるより、
「田中くんて、コナチャタテに似てない?」
と言われる方が、何だか子供っぽくてユーモアと愛着を感じるのではないか。
前者は凡庸で無味乾燥なのに対して、後者は唯一無二の味がある表現、となる。

八作は囲碁が趣味でバーテンダーもやっており、人の心理の深部まで見ているような人物。
表面上の言葉ではなく、かごめの人間性を理解した上で言葉の真意を感じ受け取っている。

言葉は、その人々の関係性と状況で意味が変わる。
罵詈雑言や英語におけるFワードなども、状況によっては「I love you」に変換されるように、ここでは「コナチャタテ」は蔑んだり罵ったりする言葉ではない。
かごめから八作への親しみを込めた気持ちのプレゼントなのである。
だから、「やっほー」という挨拶、首を傾げる仕草と同様、八作とかごめだけが共有できる特殊言語であり空間なのだ。

「みんなができることができない」特性を持つかごめ。
多くの人には「不快」や「欠点」に感じることも、八作にとっては感性をくすぐられ魅力に感じる。
八作のツボをこれでもかとグイグイ刺激する、しかも本人に自覚はない。かごめは常に想像の上を行く存在。
策士にとって、戦略を立てづらい難攻不落の城ほど興奮するものはないだろう。
「みんなができることができない」かごめには、視点を変えれば「みんなができないことができる」。
それがかごめなのだ。

◯八作が好きなのはかごめだったことに気づいたとわ子
過去の点と点が結びつき、八作の思いに気づいたとわ子が切ない。
とわ子「この間の靴下ってさ、そういうこと?」「そっか、そっか、それはサプライズだな、全然勘よくないな私」「分かった、状況は把握した」「持ち帰って整理いたします」

八作は墓場まで持っていくつもりだったのかもしれないが、勘のいいとわ子にバレてしまった。
元夫が好きだったのは、自分ではなく、自分の親友だった。
残酷だ。

でも、とわ子はうろたえる表情を見せない。
とわ子は、言えないし、言わない。
とわ子は、強くて弱い。弱くて強い。



とわ子、元夫たち、かごめ、、、この人々は血縁でもなく、契約といった書面で証明される関係でもない。ないけれど、いや、ないにも関わらず見えない糸で繋がっている関係ほど強くて確かなものはない。




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