夜が閉じて,夜が明ける.
朝方の時間が大好きだ.元々人混みが苦手な私にとって,混雑を回避して出掛けられる貴重な時間である.が,それ以上に何か,私自身に訴えかけるものがこの時間にはあるように思う.
思い返すと中学生の頃からそうだった.夏休みには午前4時頃に起きて,まだ薄暗い空を眺めながら,一匹,また一匹と鳴き始めるヒグラシの声を聞いていた.もちろん高校生になっても同じ.少し厚手の上着を持って,まだ車通りの少ない道路をバイクで走る時間が好きだった.
薄明に消えていく星を眺める時間.透明な空を背景に稜線を見る瞬間.スマホから顔を上げる度に変化する大気の色.
辺りには自分ひとり.波の音も,鳥の声も,音がない音も,いつもより明瞭に聞こえてくる.夜が冷やした空気は,少しだけ世界に近づいたような感覚を私に与えてくれる.
菩提樹の下でシッダッタが悟りを開いたのも,明けの明星が輝く時だったと言う.取りも直さずそれは一日の始まりを表し,新たな可能性や希望を感じる人もいる.しかし私にとっては,憂いや儚さをも内包するようなな,感傷的な瞬間.
日の出では少し押しつけがましい.夜と朝の境界を緩やかに溶かし,曖昧な私を許すような,特別な時間なのだ.
2024年5月5日
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