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うみはひろいか,おおきいか.
私が見ているか見ていないかに関わらず,海は動き続けている.当たり前のことなのだが,不思議に思わずにはいられない.人生のほぼ全ての時間を海が見えない場所で過ごしてきた私にとって,海は未知の世界だ.
海を前に立つと,死が近いことを全身で感じる.この水に落ちれば,ヒトの力などまるで意味をなさないだろうという予感.この波に飲まれたら,確実に助からないという恐怖.
何がこの大きな波を作り出しているのか.それが海上の風や月の引力によるものと頭では理解していても,自然の力を面前にした時の怯えにも似たあの感覚は独特なものだ.
私たちは海から陸へと上がってきた.競争相手の少ない新天地を求め,数千万年の時間をかけてこの境界を跨いだのだ.そうして陸に適応したこの体にとって,今や海は自由の効かない領域だ.
しかし,古代のカバの一部は陸から海へ戻り,現代の鯨類となったことが明らかになっている.再び数千万年をかけて生息領域を海へと移し,クジラやシャチとなった彼らは,やはり陸で生きることができない.
こうして考えると,海岸は生と死の境界線のようにも思える.海は陸の生物にとっての死の世界で,陸は海の生物にとっての死の世界.互いの領域に干渉し合うことは避けた方が良いと,本能的に理解する.
しかしだからこそ,私は海に何とも言い難い魅力を感じているのかもしれない.靴が濡れるかギリギリの波打ち際で,怖いもの見たさに別の世界を覗き込む.
2024年6月23日
(随時修正・書き足し)
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