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【取材記事】毎年良いものが生み出せるとは限らない。| 農家 阿部郁

「おいしいものづくりの背景に触れる」をテーマに、福島県・国見町近隣で活躍している人たちから、仕事内容やこだわり、大切にしている価値観について話を伺います。

今回は、2022年12月に開催した「農園の写真展」で取り上げた国見町の農家さんをご紹介します。

やしき園 阿部郁 Abe Kaoru

国見町で桃農家の家庭に生まれた阿部さん。目指すのは、自然のままを守りながら育て、より高品質なフルーツをお届けすること。阿部さんは幼少時代、微力ながら収穫期にお手伝いをしており、進路選択では自ら農業高校を選びます。福島県の農業短期大学校へ進学、卒業後は後を継ぐ覚悟を父に告げ、観光農園で修業をした後に、三代目として果樹栽培の実践を学んでいます。

お話を聞かせていただいた11月中旬はりんごの収穫時期にちょうど差し掛かったとき。阿部さんの持つ広大なりんご畑では、収穫時期になるとおよそ300箱。重さにするとなんと5トン〜6トンものりんごが収穫されると聞いて驚きです。

そんな阿部さんのお話を一緒に聞いてみましょう。

ー阿部さんにとって、農業をしている中で嬉しいときってどんなときですか?

 やっぱり収穫の時期だね。1年間、心を込めてお手入れした成果があらわれるときだからね。ましてやりんごは、木に成っている期間が長い。だからその分、桃に比べて倍手入れしなきゃいけないんだよ。大変だけど良いものができたときはやっぱり嬉しいし、頑張った甲斐があったなと思う。それが僕にとって嬉しいと感じるときかな。もちろん果物はその時期、その旬のもの。天候に左右されやすいのがとても難しいところだね。でもその一方で、やりがいを感じている部分でもある。今年はこうだったから来年はこうしようっていうのが出てくるみたいなね。反省をしっかり次の年に生かしていきたいと思っているよ。

ーでは、もし農家になってなかったら、何になりたかったですか?

 実は、高校生くらいから学校の先生になりたかったなっていうのがあったんだよ。正確にいうと、教師ではなくても「教える」職業についてみたかった。僕は人に伝えることが好きなんだよね。でも今、その幼いころからの夢が少し叶っている気がしているんだ。

ー今は教えることがどういう形で叶っているんですか?

 国見町では桃の木オーナー制度というのがあるんだよね。そこでは、桃を受け取るだけではなく、生育過程を知ったり、農業見学や収穫体験などに参加したりすることができるんだよ。だから直接作った桃を食べてくれる方がいて、農園に来てくれた人とかに伝えることができる。情報発信をしていない農家だったらどうやって桃ができるのかを伝える機会がそもそもない。だからこそオーナー制度を通して年に3、4回程度作業をしながら実際に参加された方へ伝える機会があるのは本当に嬉しいんです。

ー直接話せる機会があることでやりがいにつながっているんですか。

 まさにそうですね。今までは果物が届いたタイミングでしか、コミュニケーションをとる機会がなかったんです。だから顔も見たことがないひとが多い。率直に今までの生活も少し変わりました。畑と自分の家での往復だったけれども、オーナー制度を通して、自分から伝える部分が増えたことも大きな理由です。今日みたいに顔が見える人と接することも増えました。分かってもらいたいから、その分自分が今やっていることを改めて勉強する。そしてより伝わるようになれると、とても嬉しいです。

ー最後に阿部さんが思う「農業の面白さ」って何だと思いますか?

 毎年毎年違うことかな。実際去年は霜で桃もりんごも全然実らなかったけれど、今年はこんなにも豊作になった。だからといって来年も同様に実るかと言えば絶対そうはならない。それが難しいところなんだよね。でも毎年違うのが面白いんだよね。良いものが毎年生み出せるとは限らないからこそ、毎年毎年勉強しないといけないね。

今回は、阿部さんの思いをじっくりと聞かせていただきました。特に「良いものが毎年生み出せるとは限らない。でも毎年違うのが面白い。」とおっしゃっていたことが印象的です。普段当たり前のように口にしているものだからこそ、イベントや記事を通して今あるものの背景を知り、感謝するきっかけになればと思います。





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