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漫文駅伝特別編『俺流の弱者の兵法』第4回 松尾アトム前派出所

これまでの連載では野村さんと落合さんの共通点の話が多かったと思う。
今回は相違点について書いてみよう。
有名なのはマスコミ対応である。
取材陣に対してぼやき漫談をサービスする野村さんと一言二言素っ気ない返答する落合さん。
大違いである。
ウエストランドの漫才くらいふたりのセリフ量に差があるだろう。
口を動かす量もやる気のあるホルモンと覇気のねえ豆腐を噛む量くらい変わってくるはずだ。

しかし、これは相違点のようで兵法的にいえば共通点なのである。
ご説明しよう。
私が20代の頃先輩芸人の居島一平さんから
「松尾よ!チラシから戦は始まってんだよ」
と教えていただいた。
居島さんや苦肉祭をきっかけに私を知った人はよくご存知でしょう、あの苦肉祭のチラシを。
ペラ紙たった一枚で眼球2つをジャックする絵。
出演者の欄には本当に出演する芸人に混じって載っている架空の芸人ではあるが一度お会いしてみたいなというような芸名の数々。
(私のお気に入りは長宗我部デパ地下)
「ちょっとこのチラシのインパクト凄いからそのインパクト1回ろ過してくれないか!?」
「わかりました!ではちょっと理科室に行ってきます」
でもそのインパクトろ過した結果、
全く変わらず凄いインパクト!
そんな感じのチラシなのだ。
あと今しがたの↑ろ過の会話をした人達は私も誰だかわかりません。

しかし、
この戦術はその後の私の芸人人生にかなり影響を与えてくれた。
自分のライブのロビーで剪定鋏展を開催したり、
ライブ前にご来場のお客様に3Dメガネを配布してこの後何が起こるんだ?という策を用いてみたり。
所属事務所タイタン入団テストのオーディションの際には、
ネタをやる前に「ここに来る途中の野道に綺麗なお花が咲いてたので太田社長に!」と言っておもいっきり花屋で買った花を社長にプレゼントしてみたり。
即ち、ライブをやったりネタをやるだけがお笑いではないのだ。

これで何が言いたいかわかったでしょう。
野村さんや落合さんの野球もグラウンドで野球をするだけが野球ではないのだ。
マスコミ対応から戦は始まっている。
落合さんの口数少ないマスコミ対応は組織の機密を外に漏らさない立派な戦術。
そもそも落合さんはおしゃべり好きらしいのだ。
だが落合さんは野球に関しては戦に徹している。
有名な逸話で落合監督就任一年目の中日ドラゴンズ開幕投手は過去3年間一軍登板経験なしオープン戦での登板もゼロの川崎憲次郎投手というまさかの起用が行われ球界は騒然とした。
開幕当日までこのことを知っているのは落合監督、落合陣営の名参謀である森繁和コーチ、川崎投手本人だけだったという。
組織内のどこから漏れるかわからない落合監督の情報戦はそこまで徹底していた。
川崎投手本人の話によれば開幕戦前日怖くなって立浪選手と井端選手には話したらしい。
それでもその他のドラゴンズメンバーは当日まで誰も知らない。
敵を欺くにはまず味方から!
いにしえの昔から伝わる兵法である。
髭生やして槍を持ったような人が口にする兵法なのだ。
北島三郎さんが与作を歌う際に口にする兵法でもある……あっ、それは「ヘイヘイホー」か!?

おい!話をファウルぎみに流し打ちしてる場合ではないぜ!
さて、ここからは野村さんのマスコミ戦術の話をしよう。
野村さんのマスコミ戦術で有名な話といえば1995年ヤクルトvsオリックスの日本シリーズ。
決戦前、ヤクルト陣営野村監督は「振り子打法イチローは内角に弱点があるからインコースで勝負する」とマスコミにおおっぴらに喋るパフォーマンスを行った。
野村さんとしては勿論作戦である。
このことがイチロー選手の耳に入りインコースを意識させたうえでの配球を古田捕手に指示していたのだ。
結果的にこの日本シリーズ、イチロー選手の打撃をある程度封じることに成功した。
参考までに追記するとこのマスコミを使った似たような戦術を「ドカベン」で弁慶高校が明訓高校に対して行なっている。
情報を極秘のまま徹底する落合監督と情報をあえて流してそこから戦術を繰り広げる野村監督。
やり方は違ってもマスコミ対応から戦を仕掛けている点では共通している。
いかがでしょうか!?
目からウロコが落ちたのではないでしょうか!?
落ちてない方今一度目にウロコや目ヤニを装着して読み進めていただきたい。

ここからはさらに踏み込ませていただく。
マスコミに情報を流したうえでの野村戦術は現役時代落合さんも実はやっているのだ。
ロッテや中日の頃「私練習嫌いなんですよ」とマスコミに公言してはばからずキャンプの様子を撮影しにきたカメラの前ではのらりくらりと練習をしている。
当時この様子を観た人達はなんで落合はこんな練習で三冠王をとれるんだろう?とか
こんなキャンプでは今年の落合はたぶんダメだぞ!とか
宇野勝選手(元中日ドラゴンズ)はずっと寝起きみたいな顔してるなあ〜!とか思ったにちがいない。
だが、落合さんはみんなが帰ったあと誰もいない室内グラウンドでひとり黙々と猛練習に打ち込んでいたのだ。
またその練習をカメラ撮影しバッティング研究を繰り返した。
そのビデオテープは今だに落合さんの自宅に数千本あるらしい。
まあ、この話はマスコミ戦術というよりかは
練習は人に見せるもんじゃない!という美意識の問題かもしれない。
そうやって考えたあとに私がいる芸人の世界に戻ってみると
僕達はこんなにいっぱいネタを作りました!みたいなことをSNSやYouTubeで発表するバカがいる。
誰も聞いてもねえのに。
誠にもってみっともねえわ!!
そういう奴らは神主打法でけつバットしてやった方がいい。
まあ、でも人のことはどうでもいいか。

そんなことより万年お笑いファーム暮らしの……
って農家芸人でこの言い回しはややこしいか。
まあ、でもこの言い方でいこう。
万年お笑いファーム暮らしの結果も出さずに口開けてテレビを見ているお間抜け野郎の俺にこそ神主打法のけつバットしてくれ!
世の中生きていくのは思った以上に戦だらけだ!
気合い入れなきゃいけないぜ。
痛くない程度に頼むわ! 

今回のお写真は、先日80歳の傘寿を迎えパーキンソン病でもあるため農家を引退した先代(親父)に先代目線でさらに野村克也さんの言葉を借りて贈った書画ショットをどうぞ。

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