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双葉荘 6

六、真実

あれ以来、私と美江の関係はこれといって特に改善されることなく春を迎えた。

2人の間から夫婦らしい営みはすっかり消え去ってしまっていた。かといって、ぎくしゃくとした気まずい生活が続いていた訳ではなく、2人の関係はいたって良好で、同じ空間を共有する親友同士といったところだ。

徐々にではあるが、私のライターとしての仕事も増え続けている。先月には別の出版社から執筆依頼があり、こちらも隔週レギュラーの仕事となりそうだ。

美江は変わらず頼りになる仕事仲間である。記事の内容を相談したり、ライターとして、物事や現象や人物にどうアプローチしたらいいのか、的確な意見を与えてくれる。

私たちの間から消滅してしまったのは、男女の愛情行為だけだ。夫婦としての夜の営みは勿論のこと、抱擁やキス、外出時にも以前のように腕を組んだり、手を繋ぐこともなくなってしまった。

ここ数ヵ月の間、幾度か私の方からアプローチしたことはあった。彼女は別に拒む様子はなかったが、明らかに彼女の中に躊躇が伺える。自然と私にも遠慮が生まれ、そういったことは徐々に姿を消してしまったのだ。

美江は一層のびのびと仕事に没頭している。それはまるで、我々の夫婦生活から彼女が一定の距離を置こうと努めているようにも見えた。私の方はコラムライターとしての仕事が増え始めた分舞台の仕事を少しずつ減らすことにしていた。従って私は一人で家に居る時間が増えている。

『彼』との出会いは、近頃はまさに日常だ。階段の途中でふと出会う…という原則も次第に広がりを見せている。その現象は、家中の様々な場所で起きるようになっていた。当初は、明らかに私と彼が同時に階段ですれ違う時に出会いが生まれていたのだが、次第にそれは私の精神状態によるところが多くなってきたようだ。

何かに集中していたり、物思いに耽っていたり…つまり、心の焦点が一点に集中し、周囲に気配りが及んでいない時にそれは起きる…家の中の何処に居ても起きるのだ。もちろんそこに彼が居なくても、ふと気付くと周囲の内装の様子が、置いてある家具が、ドアや襖の柄が変わっている。

幻影は2分ほども続くこともあれば、数秒で消滅してしまうこともあり、現実さながらにくっきりと見えることもあれば、朧げで輪郭すら不確かなこともある。『彼』の生活環境を次第に知ることができたのもこの時期からのことだ。そこに誰か『彼』以外の人物が居ることもある。いや、『居る』と言えるほど確かなものではない。それはフォーカスも不安定でフィードバックする映像のようにゆらゆらと動作の軌跡を引きずっている。

美江との夫婦生活の変化に言い知れぬ虚無感と孤独を感じていたからなのだろうか、私は幻影の空間や『彼』との触れ合いを楽しみにする様になっていた。一階の台所で…テーブルで…洗面所で…二階の仕事場で…窓辺で…寝室で…毎回見る微かな幻影の記憶を繋ぎ会わせ、夏までの間に『彼』が暮らす空間のほぼ全体像を把握することができた。

『彼』には同居人がいた。それはどうやら女性のようだ。『彼』の容貌や表情はあれ程はっきり認識できるのに、彼女の容姿はいつも茫洋としている。比較的小柄な女性のようだ。身に付けているものはいつも長めのスカート姿で、ふわりとしたルーズなもの。季節の移り変わりの中で厚着だったり薄着だったりする。

家事に勤しむ身のこなしから、『彼』と同じ様に若い年齢であることも察しがつく。二人以外には誰もいないようだ。彼らが暮らす空間は確かにこの『双葉荘』だ。細部に相違点はあるものの間取が全く同じだからだ。

窓にはサッシが使われていない。昔ながらの木枠の窓だ。一階の風呂は今よりも一回り小さい木桶のガス風呂、玄関の設えやドアにもデコラ合板は使用されておらず、ベニヤに塗装といった感じだ。

何よりも今の我々の生活空間より広々としている。台所の備え付け棚がない。そして、圧倒的に家具が少ない。冷蔵庫もなければ洗濯機もない。テレビもなくオーディオセットもレコード棚もベッドもない。

あるのは、一階に小さな食器棚と小さなテーブルセット、二階六畳間には小さな本棚と卓袱台ちゃぶだい、寝室には洋服ダンスと小振りの引きだし棚、これで全てである。どう考えても明らかに我々とは時代が違うのだ…多分、『彼』も私と同じようにこちらの生活を把握しているのかも知れない…


長い梅雨を抜け、猛暑日が続く7月のある日の夕刻だった。二階の作業机で原稿作業に没頭していると、突然あの感覚に襲われた。

『来たな…』執筆していた原稿から目を上げると、開け放たれた脇の窓のサッシが木枠に変わっていた。恐る恐る後を振り返る…畳の上に置かれた卓袱台…その上に何枚かの白いケント紙が置かれ、脇に何本かのペンと鉛筆が差された牛乳瓶とインク壺が置かれている…『彼』は片手にペンを持ち、ランニング姿、頭には手拭いで鉢巻をし、やはり顔を上げて私を見つめ微笑んでいた。ペンを持ったまま『どうも』と口元を動かして軽く手を上げる…

私も鉛筆を持った手を上げてそれに応える…突然『彼』は思い付いたように慌ててケント紙を裏返し、ペンで何かを記し私に見せながら、自分を指で示した。ケント紙にはなぶり書きでこう書かれていた…『倉田誠司です 貴方は?』…

私は慌てて原稿用紙の裏に鉛筆で返事を書き、彼に示した『川村正治です 倉田さん読めますか?』…『彼』はにっこりと笑みをうかべ『はい』と頷いた…この時私と『彼』は初めて言葉を交わしたのだ。

『そこは、双葉荘ですか?』
『はい、そちらもですか?』
『はい、今、何年何月ですか?』
『昭32年7月28日です そちらは?』
『昭58年7月28日です』

やはり…推測していた通りだった…2人は2つの時空を超えてこの同じ『双葉荘』で遭遇しているのだ。

倉田誠司…くらたせいじ…勿論初めて聞く名前だ…倉田は呆然としている…過去と出会うよりも、未来と出会う方が衝撃なのかも知れない。急ぎ私は記した…

『倉田さんはおいくつですか?』
『31才です 川村さんは?』
『同い年です 結婚されてますか?』
『はい あなたは?』
『はい 子供は?』
『いません 二人暮らしです』
『私も同じです 妻は見えますか?』
『少し あなたは?』
『ぼんやりと 今何をしてるんですか?』

倉田が急ぎ返事を書き記そうとペンを走らせている途中で全ては消滅してしまった…


それ以来、私と倉田は根気よく交信を続けた。いつも小さなノートと鉛筆をポケットに入れて、いつどんな時にでも対応できるように心掛けた。倉田も同じだった。次の機会だったか、階段の途中で2人が顔を合わせた時、双方がまるで西部劇の決闘のように、即座にポケットからノートと鉛筆を取り出したので、思わず2人で大笑いしてしまった。

交信は大変困難なものだった。像がはっきりしないこともあるので、ノートに記した文字が毎回読めるとは限らないのだ。交信の時間も数秒で終わってしまうこともある。どちらかの伴侶が近くに居る時にはいくら状況が良好でも交信は行えない。それぞれ妻には内緒にしているからだ。

お互い次の質問、前の答えをしっかり、大きく、濃く、出来る限り短く、分かり易く、準備しておく。チャンスが訪れたら、まず準備したノートのページを開き、しっかりと相手に見せる。そして読めるかどうか、合図を送り合う。もし時間があれば、その場で答え、次の質問も記す。週に数回のチャンスとは言え、これをいくら続けても交換できる情報量は大したものではないのだ。それでも、一体何処の誰なのか分からなかった人物の輪郭が少しずつでも明確になっていくのは楽しかった。勿論倉田にとっても同じだろう。

倉田誠司は名古屋生まれだ。画家を目指して上京し、上野の美術学校で油彩画を学ぶが、太平洋戦争の戦局悪化でどうやら卒業はしていないらしい。戦後も絵を描き続けているが、一向に画家として身を立てられる気配はなく、今は知り合いから時々依頼される広告や雑誌の挿し絵の仕事を細々と続けている。家計は主に妻の稼ぎに助けられているということだ。

もちろん私のことも伝えた。駆け出しの文筆業で出版社に勤める妻の稼ぎに助けられ、何とか生活を維持していることなど、歳も状況も2人が似ていることが分かってくると、お互い妙に親近感が湧いてくる。

困ったのは過去と未来の違いだ。昭和32年は私も知っている。僅かに5歳の子供だが、たしかにその時代を生きていた。その後の知識で、倉田の時代がどんな時代だったのかも概ね知っている。ところが、昭和58年は倉田にとってはとんでもない未来だ。私が住んでいる世界は彼にとっては四半世紀も先の世界なのだ。

倉田はそのことに興味津々だ。我が家に置いてあるカラーテレビ、コンポーネントステレオ、冷凍冷蔵庫、全自動洗濯機、カセットテープ、ウォークマン…その一つ一つについても知りたがったし、この26年の間に日本や世界がどのように発展し、人々の生活がどのように変化していったのかも知りたいようだった。

もちろん詳細を説明する余裕などない。昭和32年の人にとっては、トランジスタでさえ最先端技術なのだ。幸い彼は芸術家だ。浮世のことにはさほどこだわりがないらしく、概要的な短い説明で充分に納得したようだった。

彼が最も興味を示したのは60年代から始まるヒッピー文化やポップアート、コンセプチャルアートなど、現代芸術の分野だ。手持ちの写真集やレコードジャケットを見せながら、これを説明するには少々骨が折れた。


周囲の木々に紅葉が見られる頃になると、私と倉田の間には一種の友情が芽生え始めていた。今、どんなものを書こうとしているのか、どんなものを描こうとしているのか、お互いの行為を理解し、また励まし合うようになっていた。

私は絵画のことは詳しくないが、彼の描いた絵は、力強いタッチで、独特の色彩感に溢れている。描き上げたばかりの風景画、今取り掛かっている描きかけの女性の人物画…どちらも商業絵描きというレベルではないことは明らかだった。

それぞれの生活についても悩みを打ち明け合った。倉田の目下の悩みは金銭的なことだ。新築間もない双葉荘は奥さんが見付けてきてくれた。収入の殆どない二人には贅沢な住まいだ。結婚当初は都内の安アパートを転々としていたが、ただただ生活に追われ、創作活動に費やす時間はなかなか見出せなかった。そんな折、妻の父親が亡くなり僅かながら遺産が入った。彼女は夫にゆっくりと絵を描ける環境を与えたくて、この双葉荘を探してきたのだ。

都心の窮屈でゴミゴミした生活とは打って変わり、心地良い理想的な環境が手に入った。倉田はここで暫くの間創作活動に没頭した。しかし絵の買手は一向に付かず、1年半後には預金が底をつきはじめた。それでも妻と2人何とか仕事を見付け、今に至っている。

毎月目に見えて物価は上がる一方で、間もなく家賃が支払えなくなる状況が近付いている…もし、私が過去で倉田が未来なら、何とか金を掻き集め、届けることが出来るのだが…私にはどうするすべもない…


あれから、美江とは随分話し合った。彼女は私を支え続けたいと言う。それは精神的にも経済的にもあらゆる面でだ。しかし、その役割の重さに彼女自身が耐え兼ねている。耐え兼ねている自分が許せないと言う。

私は美江が好きだ。確かに彼女は頼りになるが、慌て者で大らかで陽気で可愛らしい美江が好きだ。もし美江に1人では抱えきれない負担があるのなら、何とかそれを軽減してあげたい。自分としては本当に正直な気持ちだ。

しかし、そんなことをされたら自分は自己嫌悪で駄目になってしまうと美江は言う。私が何も無理はせず、自分のやりたいことを自分のペースでやり、それが結果的に彼女の負担を軽減すればいいのだが、それほど物事が上手く運ぶ筈もない。話はいつも堂々巡りだ。

「あたしはあなたを、あなたはあたしを愛してるから堂々巡りになるのよ。あなた、他に誰か好きになりなさいよ。そしたらいっそ諦めがつくわ」
「何で諦めなきゃなんないんの?取りあえずはお互い好きなんだから、そこから何とか解決していこうよ」
「お互い好きだから出口がないんじゃないの。あ、そうだ、沙季さんは?あの人いい人だし、可愛らしいし、魅力的じゃない?」
「だって、彼女は人の奥さんじゃないか。そんなに言うんだったら君が他の人を好きになればいいだろ?そしたら俺だって諦めるぜ」
「なんでよ?あたしだって奥さんなのよ。それにあなたが何かを諦めるなんてあたしには堪えられないの」
「あーっ…もう…この話するといっつもこうだな…」
「でも、あなたがあたしのこと好きでいてくれるんだから嬉しいけど…」

そう言った美江の肩越しに突然倉田が顔を出した…我々が取り込み中なのを見て、残念そうな表情を浮かべている。私は『今は駄目だ』と彼に目配せを送った…

「ねえ、あなた何を見てるの?…」そう言って美江が後を振り返った。

倉田は『これはまずい…』とでも言いたげに肩を竦め、そっと忍び足で階段の方に向かいながら消えていった…美江は何かを確信したかのように私を睨み付ける…

「ねえ…あなたにもあの人が見えるんでしょう?違う?」
「え?…あの人って?…」
「とぼけないでよ…あなた、前に言ったじゃない。あたしが描いたあの人のスケッチ見て…あなたにも見えるんでしょ?」
「…君も、よく見るの?…」
「ほら、やっぱりそうだ。やっぱり見えるんじゃないの。あたしが怖がると思って黙ってたんでしょ?そうでしょ?」
「だって…君、幽霊とかそういうの凄い嫌いだから…」
「嫌いよ。嫌いだけど見えちゃうんだもん。仕方ないじゃない。あたしが嫌いだからって、そうやって気をつかわれるの凄く嫌なの。何か守って貰ってるみたいで…」
「いいじゃん。俺だって美江のこと守ってあげたいんだから。たまには花持たせてくれよ」

「そうか…でもさ、怖かったんだよ、本当に…あたしにしか見えないのかと思って…あなた、ここ気に入ってるみたいだし…折角家で原稿の仕事始めたのに…何だかあたしがケチつけるの嫌だなあって…あなたも見えてるんだったら、もっと気が楽だったのに…」
「いや…あれから君にはもうてっきり見えてないのかと思ってたから…ご免…」
「ああ…良かったあ…やっぱりあの人本当に居たんだ…おんなじ人でしょ?あなたが見る人とあたしが見る人…」
「ああ、そうみたいだな…」
「でも、あの人誰なの?…やっぱり、幽霊?…この家に取り憑いてるとか?…」
「いや、そういうことじゃなさそうなんだ。俺たちが見てるのはこの家の過去なんだ」
「過去?…どういうこと?…」

私は、この双葉荘に越してきて、いつ頃から倉田の影を見るようになったのか、彼とのコミュニケーションがどのように進展していったのか、果たして彼は何者で、どんな生活をしているのか、美江に詳しく話して聞かせた…

「倉田誠司…昭和32年…本当にここにいた人だったんだ…幽霊じゃないのね…」美江が私の説明を復唱するように呟く…
「ああ…どうしてなのかは分からないけど、この家、どっかで過去と繋がっちゃってるみたいなんだ…」
「あたしも、あの人が二階でキャンバスに向ってるの見たことあるわ…でも、なんであたしには話しかけたりしないのかしら?あたしの方をはっきり見てることはあるのに…」
「君のことはよく見えないらしいんだよ。俺も彼の奥さんははっきり見えないんだ。顔とか表情とか…はっきり見えるのは彼と部屋の様子だけなんだ」
「そう言えばあたしも、奥さんの顔ははっきり見た事ないわ。いつもちゃんと見えるのはあの人だけ…倉田誠司…26年前には、無名の画家だったってことよね。もしかしたら今はちゃんと画家になってるかも知れないのよね。上野の美術学校ってことは芸大でしょ。名古屋出身…昭和32年に31歳…それだけ分かれば、今その倉田さんがどこで何してるのか調べられるかも知れないわ…あたし、仕事の合間にちょっと調べてみる」

「でも…倉田さん、自分の未来なんて知りたくないんじゃないかなあ…」
「あら、あたしは気になるわ。あの丸眼鏡の冴えない画家さんが今どうなったのか…もし分かっても、彼には黙ってればいいじゃない。今は…57歳…こんな不思議な付き合いがあったんだから、彼だってきっと覚えてるわよ、あなたのこと…あなた、会いたくないの?」
「実は…それは俺も考えた…でもさ、もし自分が倉田さんだったらどうすると思う?彼は俺たちがいつ何処に住んでるのか、知ってるんだぜ」
「そうか…あたしだったら、26年楽しみに待って、会いに行くわ」
「だろ?俺だってそうだ。でも、倉田さんは来ない。俺と倉田さんが会ってからもう1年以上過ぎてるんだぞ。もしかしたら…」
「もう亡くなってる?…」
「ああ、そうかも知れない…」

「何処か遠く…外国とかさ、会いに来られないとこにいるかもよ」
「もしそうなら、手紙くらい書くと思うな。電話番号も教えておいたし…それか…二度と此処には戻りたくないとか、俺たちのことは思い出したくないとか…」
「なんで?」
「そりゃ、俺にも分かんないよ。彼の人生の中でこれから何かが起こるのかも知れない…」

「そうか…そういうこともあるかもね…ねえ、あなた、倉田さんに自分が何処で生まれて何処で育ったか教えた?」
「ああ、教えたよ。目黒の実家の住所も親父の名前も教えた」
「彼、会いに来た?覚えてる?」
「いや…少なくとも覚えてはいない。何たって俺まだ5歳なんだからな…」
「何でだろ?…それ、不自然だよ。だって、彼にはいくらでもチャンスがある筈でしょ?今直ぐじゃなくても、もし彼が57才になる前に死んじゃったんだとしても、あなたが成長するのを待って会いに行く機会はある筈じゃない。何かの形であなたの記憶の中に自分を登場させておくとか…そうじゃなくても、あなたに会いたい筈でしょう?」
「確かに…もし、俺ならそうするな…」
「やっぱり、あたし調べてみるわ…」


編集者という立場なら何らかのことは直ぐに分かるのだろうと、正直期待していたが、美江の『倉田誠司』に関する調査は難航している様だった。季節は既に冬を迎え『双葉荘』での二度目の正月が訪れようとしていた…

美江が調べた限り、戦時中東京芸術大学の前身である東京美術学校に『倉田誠司』という名前の学生は在籍していなかった。当時を知る人の話では、在籍者でない、いわゆる潜りの画家志望者も多数出入りしていたらしいが、『倉田誠司』という人物を知る者は誰もいなかった。国内外で活動する画家、あるいは戦後活動していた画家の中にも『倉田誠司』という名前は見当たらなかった。

少なくとも美術学校の在籍については倉田本人に訊ねてみようと思っていたが、何故かあれ以来、お互いの幻影がはっきり見えることがなくなり、具体的な交信が困難なまま月日だけが流れ続けた。そして、あの日が訪れた…

第七章へつづく…

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