エッセー「韓国エンターテイメント界のクオリティの高さを世界に知らしめた記念すべき作品 " シュリ(Shiri) "」
今を遡ること21年前、一本の韓国映画が世界に衝撃を与えた。
1999年に公開された " シュリ(Shiri) " である。
故金大中大統領のもと、世界の先進国を目指し躍進を続けていた韓国は、当時、2つの重要政治施策を展開していた。
一つはADSLを利用した高速インターネット網の構築による「情報ハイウェイ構想」、そしてもう一つは国策としての映画・芸能といったエンターテイメント産業の振興であった。
「シュリ」はその政策から生まれた第一号であり、韓国初のアクション超大作として製作された。
韓国国内での破壊・要人暗殺のため北朝鮮から秘密裏に送り込まれた女性テロリストと、それを阻止するため奔走する韓国防諜局のエリート情報部員との壮絶な戦いを軸に、国家分断という悲劇に翻弄される男女の悲恋を描いたこの作品は、単なるアクション映画の枠を超えた壮大な人間ドラマである。
この映画の製作にあたり、リアルな銃撃シーンを撮影するために、韓国政府は特例措置として実銃(プロップガン)の使用を許可した。その結果、劇中に描かれる銃撃戦は実戦さながらの迫力溢れるものとなった。
プロップガンは、実銃に弾丸から弾頭部を取り除いたブランク弾(空砲)装填して使用する。そのため、発砲音や発射時に発生するブローバック(発射ガスの吹き戻し)などは実銃と同一である。
演じる俳優も、実銃を使用するにはかなりの緊張を強いられるため、自然と表情も真剣なものとなり、その表情が撮影シーンにリアリティを与える。
さらに、韓国は未だ徴兵制を敷く国家であり、この映画に出演している韓国の男優陣の殆どが軍歴経験者であったことも銃撃戦のリアリティを高めることに貢献している。
しかし、「シュリ」は、派手なアクションシーンだけが売り物の映画ではない。そのメインテーマは、南北分断という国家の悲劇が生みだす男女の悲恋である。感動のラストシーンは、涙のカーテンを通してしか観ることができない。
「シュリ」は、後に韓国が世界のエンターテイメント界を席巻する起爆剤であると同時に、韓国エンターテイメントのクオリティの高さを世界に知らしめた記念すべき作品なのである。