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エッセー「怪談」

 その昔、新聞記者の友人に誘われ、新聞と雑誌の編集者の有志で熱海のとある旅館に泊まった時のお話。

 今の草食系の連中とは違い、当時の新聞・雑誌の編集者の宴会と言えばそれはもう鯨飲は当たり前、そして徹夜麻雀も当たり前。

 当然その時も夕方から始まった酒宴の後は麻雀大会と相成った。

 宴もたけなわ、麻雀も盛り上がって来た午前1時頃、開け放した窓の外を芸者さんをおぼしき綺麗な着物を着た女性が横切った。

 麻雀牌をかき混ぜていた一人が目があったらしく「こんばんは!お座敷ですか?」と声をかけたところ、面長色白の女性がにっこり微笑み、軽く会釈すると通り過ぎた。

 その後は、呑む者、麻雀に興じる者、それぞれが盛り上がり、いつしかその女性のことなど記憶から消えていた。

 狂乱の夜が明け、翌朝、二日酔い気味の眠い目をこすりながら起きると、昨晩窓の外を通り過ぎた女性に声をかけた新聞記者が窓の窓際でガタガタと震えていた。

 「どうしたんですか?」と声をかけ、窓際に行ってみて思わず「あっ!!」と声をあげた。

 窓の外は崖、そしてその下は海。とても人が通れる場所ではない。

 でも確かに昨晩、着物を着た面長色白の芸者さんとおぼしき綺麗な女性が通った。しかもそれを部屋にいた殆どの人間が目撃している。

 だがしかし、窓の外は断崖絶壁に近く、とても人は通れる環境ではない。

 その後、宿のフロントから、かつてお座敷に呼ばれた芸者さんが、酔を醒まそうとふらつきながら窓際に行き、その時運悪くふらつき着物を踏んで姿勢を崩し開け放った窓から転落死するという事故があったという事実を知った。

 その部屋こそが我々が泊まった宴会場だったのだ。

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