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つむぎやAmenity誕生秘話

 10月に入り、秋も深まってきたのか、朝晩だけでなく日中も日陰に入ると肌寒さを感じる季節になってきました。
 一般社団法人バリュー・リノベーションズ・さの(VRS)の事務所は、空き店舗をリノベーションしたのですが、その当時、あまりリノベーションのことを理解せずに工事費があまりかからないようにすることに専念しすぎたため、日本の古民家は断熱効果が全くないことともつゆ知らず、夏は暑く冬は寒いという職場環境が良くない中で仕事をしています•••
 良い子の皆さんは、古民家リノベーションをする場合には断熱のことも頭に入れて工事してくださいねw

 さて、VRSの事業スキームはこんな感じで活動をさせていただいています。

VRSの事業スキーム©︎VRS

 利用者を「なりわいテーブル」などのワークショップで募集と育成をして、遊休不動産を活用につなげていく事業スキームが形になりつつあります。
 事業を立ち上げるまでももちろんのことですが、事業を立ち上げてから軌道に乗せるまでが結構苦労したりします。
 リノベーションまちづくりプロジェクトの基本は、まちの遊休不動産を活用して、リノベーションなどの初期投資を可能な限り抑え、固定費となる家賃も事業が軌道に乗るまでは不安定のため、物件を借りる場合、もちろん手をかけずに活用できる物件が望ましいだけでなく、物件を借りる費用、つまり家賃がどの程度抑えていただけるかが非常に重要なわけです。
 幸い、VRSでお借りしている物件は、不動産オーナーさんが志を持った良い方ばかりなので、軌道に乗るまでの間の配慮をしていただいておりまして、おかげさまで事業が継続できるくらいでやれています(感謝)
 リノベーションまちづくりプロジェクトでは、こうした志のある不動産オーナーさんと繋がれるかが非常に重要なわけで、8月17日にリノベーションまちづくりの聖地、北九州市からかけはし 輝元てるもとさんに不動産オーナーの立場から講演していただいたのもこういう趣旨からでした。

 残念ながら、VRSが活動する大阪・泉佐野市ではまだまだこうした志ある不動産オーナーの方が少ないのが現状です。
 でも、少ないながらも、VRSでは志ある不動産オーナーさんとつながらせていただいており、今回のnoteは、その中のお一人をご紹介させていただきます。

▼突然の来訪者

 昨年(2021年)の4月頃は、「SHARE BASE つむぎや」がオープンしたことや、その直前に前身となる、バリュー・リノベーションズ・さの(非法人)の活動を広く知っていただくために、制作していたPR動画が完成し配信したことがきっかけで、不動産オーナーの方々から「活用の提案をいただきたい」とお問合せをいただきました。

 その中のお一人が、後に「つむぎやAmenity」となる物件のオーナーさんでした。当時は物件の場所が「SHARE BASE つむぎや」から徒歩1分で、しかも駅から徒歩30秒もかからない好立地だったのですが、狭い路地を通った場所で、酒場などが近くにあることで、なかなか借り手もいなかったそうです。
 「物件をお借りしたい人がいればご紹介しましょうか?」と言うと、その方は「活用のご提案をお願いできませんでしょうか」と仰られたので、「少しお時間をいただきますが」と言って、その場を別れしました。

つむぎやAmenityの前の路地

 そこから2週間程度過ぎた頃、行政の方から「女性の社会進出支援」をテーマに事業をしてもらえないかという相談を受けたので条件等聞いているうちに、前に古民家で女性の就業サポートをしている記事を思い出し、あの物件でそういう使い方ができるのではと考え、行政の依頼を受けることにし、オーナーさん向けに企画書を作成しました。

つむぎやAmenity周辺マップ

 なぜ、この場所で「女性の社会進出支援」を行う拠点にしようと考えたのかと言いますと、すでに社会に出て活躍している女性には社会進出のお手伝いをする必要はなく、社会に出ていない女性、または社会に出て働いていても違和感を持っている女性たちをサポートするための拠点であれば、人目につかない場所の方がいいのではと考えたことからです。
 ただ、人目につかないことだけで女性の就業サポートをしていても、最初はなかなか人が訪れないだろうなと考え、併設でカフェ機能もあることで、来るきっかけになると思い、そのことを盛り込んだコンセプトで不動産オーナーさんに提案させていただきました。

不動産オーナーさんに提案した資料(抜粋)©︎VRS

 この提案をさせていただき、不動産オーナーさん(以下「オーナーさん」と言います)は喜んで貸していただけることになりました。家賃も相場の半額以下で、かつ工事の間も家賃はいらないという条件で借りることができる約束までこぎつけました!

▼暗転

 この構想は、VRSがカフェを運営する予定で提案はしておらず、物件を探されていた方とコラボで運営することを当初考えていました。
 入居者はVRSが責任持って管理する条件はつけられましたが、ただ、物件に入っていただく方をオーナーさんが知らないというのもどうなのかなと考え、数回会っていただくことにしました。
 最初は、オーナーさんは喜んでお話を聞いていただいていましたが、回を重ねるごとに出店予定者の意向とオーナーさんの思惑と少しずつズレが生じてきていて、最後となる5月の下旬に、出店予定者の話の進め方が、オーナーさんの気にさわり、この物件をお借りする話自体が頓挫とんざしてしまいました。
 VRSとしても、女性の就業サポートの拠点を失ったわけですから、またいちから進めないといけない状況になり、しかし行政では予算化の手続きは終わっていて、翌年3月までに拠点を見つけ整備しなければならなくなり、あちこち空き物件を探すのですが、いい物件に出会えず硬直状態になりました。

▼一本の電話

 話が頓挫してから2ヶ月が経とうとした8月の初旬、いきなりオーナーさんから電話がかかってきました。

 「この前は悪かったなぁ。あの時は話の進め方が一方的だったので、ついカッとなってしまって、あんたにまで怒ってしまって悪かったなぁ。あれから色々と考えたんやけどな、あんたに怒る筋合いがないと思うんやけど、もし、まだあの話が他で決まってないんやったら、もう一度、考えてもらうことができるか?」

 このような内容のお電話でした。こちらも場所が決まっているわけではないので、「一度、お会いしてお話しませんか」と言ってお会いすることにしました。

 物件を提供していただけることは、喉から手が出るほど嬉しいお話ですが、家賃がこの前の条件より悪くなるのであれば、事業採算が成り立たないので、残念ではあるもののお断りするしかないかなと、自分なりにボーダーラインを持ってオーナーさんとの話し合いに挑みました。
 ところが、オーナーさんからの条件提示は、家賃はそのまま、趣味で陶芸をしており、そのスペースを確保するのに2階のスペースは自分で使いたい、出店者はVRSで責任を持ってくれるのであれば口出しはしない、ただし、前に連れてきた人でない人でお願いしたい、という条件でした。
 この条件であれば許容できる範囲なので、話を進めることにしました。
 ただ、1階も2階も自由に行き来できる状態だったため、リノベーション工事をする際に、分離させていただき、2階専用の入り口も付けさせていただくという条件をVRS側として提示し、その条件を飲んでいただきました。
 そこから何度か協議させていただき、11月末から工事に入ったのですが、それまでにも何度かオーナーさんからお叱りを受けました。
 オーナーさんは曲がったことが大嫌いな方で、叱られるときはとことん怒られましたが、どこか懐かしい叱られ方、親が子に対して愛情を持った叱り方をしてくれたので、腹立たしいという気持ちは一切ありませんでした。

工事完了直後の「つむぎやAmenity」

▼つむぎやAmenityオープン

 工事もコロナ禍の影響も受けながらも、予算額を少しオーバーする程度でなんとか完成を迎え、1月29日(土)午前に内覧会をし、2月1日(火)からプレオープン、2月6日(日)にグランドオープンをしました。
 内覧会とグランドオープンにオーナーさんもお越しいただき、グランドオープンの時には、開店祝いに猫の置物をプレゼントしてくれました。
 他のところではなかなか安定しない置物ですが、この窓だけしっくりと安定しました。

左側のすべり出し窓に猫ちゃんの置物が置かれています

 置物を渡された後、オーナーさんに外に呼び出され、こう耳打ちされました。

「実はなぁ、健康診断で引っかかってしもてなぁ、ちょっとの間、入院することになったんや。すぐに退院できるとは思うんやけどな」

 この言葉を聞き、「早く元気なお顔を見せてくださいね」と言って別れました。
 この日がオーナーさんの顔を見た最後の日でした•••

▼お別れの時

 グランドオープンから2ヶ月経ったある日、オーナーさんからお電話があり、「ちょっとなぁ、思ったよりひどかったみたいで、まだ入院してんねん。体は元気なんやけど、万が一のことがあったらあかんので、元気なうちに家族にも知っといてもらおうと思ってるんやけど、時間とってもらわれへんかな」と言われ、「はい、いいですよ」と言って5月の中旬にお会いする約束をしました。
 約束の日が訪れ、時間が来てもオーナーさんが顔を見せないので心配になり、こちらから電話すると、息も絶え絶えの状態でオーナーさんは電話に出てくれて、「あっ、そうかいな、すぐに連絡するわ」とだけ言って電話を切られました。
 そうして2階にいるからとだけ折り返しの電話があり、2階にお声かけをさせていただき、オーナーさんのご親族にお会いすることができました。
 オーナーさんの状況を聞くと、体調は安定しておらず入退院を繰り返しているとだけ聞かされ、つむぎやAmenityの賃貸条件や今後の連絡先などのやり取りさせていただき、1時間程お話をしてその場で別れました。

 そこから3ヶ月経ったある時に、つむぎやAmenity近くにお住まいのオーナーさんのお兄さんに、つむぎやAmenityをスポットで使いたいという人の対応について協議させていただくため訪れた際に、オーナーさんの訃報を聞きました。
 亡くなって1週間が経った日のことでした•••

 亡くなって間もない時期でもあり、ご親族の方はバタバタしているだろうからということで、落ち着いてからお参りさせていただきました。
 奥様から生前のオーナーさんのお話を伺い、また生前にオーナーさんから伺ってたお話から総合すると、オーナーさんは周りの関係性を非常に大事にされていた方で、家族はもちろん、高校の同級生やオーナーさんの周囲にいる関わっている人全ての笑顔を見たいという一心で、いろんなことを自ら進んで買って出る姿が目に浮かぶようでした。
 また、手先も器用でちょっとした修理などは全て自分でされていたそうで、つむぎやAmenityの物件の屋根に登って、出店者の人たちが怪我をしないようにと、配線をよけてくれたりしてくれました。

リノベーション工事前のつむぎやAmenityの裏庭

 VRSでお借りしている不動産オーナーの方は、本当に良い方ばかりで、まちづくりに取り組めているのも、こうした方々の存在のおかげだと常々感謝をしています。
 つむぎやAmenityのオーナーさんをはじめ、志ある不動産オーナーの方々の意志を引き継ぐためにも、まちづくり事業を続けるだけではなく、そこからの波及効果を出していくことが、VRSの役割だと改めて感じました。
 10月1日に「なりわいテーブル講演会」をしていただいた松村美乃里まつむらみのりさんも講演の中でも仰っていましたが、まちづくりの半分以上は人と関わることなので「めんどくさい」ことなのです。でもその「めんどくさい」ことをしなかったら、まちに出て活躍したいというモチベーションもいでしまうことになります。

なりわいテーブル講演会「まちのこともわたしごと」終了後の参加者との記念撮影

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代が到来したとしても、コミュニティが希薄になってきた今だからこそ、こうした上辺だけでなく心を開いて付き合っていく、アナログな交流が大事なのだと思います。
 めんどくさいことが多いまちづくり事業ですが、志ある不動産オーナーの方がいる限り、またまちで活躍したいと思ってくれる人たちがいる限り、その方々の意志を引き継いで、まちのことも自分ごととして取り組んでいきたいと思います。

つむぎやAmenityのコンセプト©︎VRS

▼お知らせ

 今回はかなり長文になってしまいましたが、お決まりの告知コーナーですw

◎浜街道リノベーション実践塾・最終プレゼンテーション
〔内容〕空き物件の活用プランを2日間のワークショップ「浜街道リノベーション実践塾」で練り上げ、不動産オーナーに向けたプレゼンテーションの模様をオンラインで配信。見事、新規プロジェクトが誕生できるか、オンライン越しに応援してください!
〔開催日〕10月23日(日)17時〜18時30分
〔開催方法〕オンライン(ZOOM)
〔募集人数〕30人
〔参加費〕無料
  ※申込は下記の画像をクリックしてください。

浜街道リノベーション実践塾・最終プレゼンテーション(チラシ)
※画像をクリックしていただくと申込サイトに移動します。

◎ミライ・カガヤク・ワークショップ
〔内容〕お金のためだけに働くという考えから、自分の可能性を広げ、自分らしい働き方を探しだすワークショップ(女性限定です)
〔日時〕11月5日(土)、11月9日(木)、11月18日(金)、12月1日(木)、
    12月10日(土)、12月17日(土) いずれも13:00〜14:30
〔場所〕SHARE BASE つむぎや(泉佐野市栄町5番1号)
〔募集人数〕10人
〔参加料〕5,000円
 ※申込は下記の画像をクリックしてください。

ミライ・カガヤク・ワークショップ(チラシ)
※画像をクリックしていただくと申込サイトに移動します。

 つむぎやAmenityに置かれている猫ちゃんの置物が、出店者や利用者、そしてVRSのメンバーたちをオーナーさんが天国から見守ってくれていると思いますので、また猫ちゃんを見がてら、ぜひつむぎやAmenityにお立ち寄りください。

入り口付近で猫ちゃんが見守ってくれてます



サポートしていただけると、モチベーションをもってnoteに取り組めます!(笑)