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【一日一題 木曜更新】 塩気と怒りの背景は

山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字以内で書き、週に1度木曜日に更新します。ほらいつか岡山在住ライターとして一日一題から依頼が来るかもしれないし……し…? 

大好きな小林カツ代さんがエッセイの中で「家庭料理は、いつでもおいしいレトルトとは違う」と書いていた。カツ代さんが言おうとしていたのは「材料の良し悪しなんてその日によって違う」という意味合いだったはずなので、わたしの受け止め方は少し本筋と外れているのかもしれないけれど。

目分量とカンで料理をする毎日なので、感情の揺らぎは途端にその日の調理に影響する。ことに怒りはわたしの場合、味の塩辛さに直結していて、大抵、最後のひとさじ、最後のひとふりが料理を台無しにする。「何かひとこと言ってやればよかった」なんていう後悔の念は、料理においてもいらん行動に直結するのだなとちょっと感心。

ある日のわたしはたいそう怒っていた。

ある人から、まわりの誰もが認識するくらいのえげつない意地悪をされたのに、こともあろうか、わたしは「あの人も◯◯で大変なんじゃない」と意地悪にもっともらしい背景をつけ、悪人をかばう「フリ」して、器の大きな「フリ」をした。

ネットを開けば出てくるあらゆるものの背景ストーリーに、ここんとこ食傷気味だったはずなのに。そんなことを喜怒哀楽にまで侵食させてどうするのだ。腹が立つし不愉快だと、アンタ何言ってんのと、背景に慮らずにそのまま伝えればよかったなあ。

「フリ」×「フリ」の行動はろくなことがない。
案の定、その行動は数時間後の夕方にわたしに大きな怒りと後悔をもたらし、その日の卵とトマトのスープを台無しにしてしまった。舐めた途端舌が痺れるほど塩辛くなったスープは、実はリカバリーしにくくやっかい。湯をさせば済みそうなものだけど、そうなると塩気と同時にうまみも薄まり間抜けな味になってしまう。

味のぼんやりした卵とトマトのスープ。
このスープ完成までの背景は「怒りに翻弄され塩を振り入れた結果塩辛くなり、慌てて湯を足したところぼやけた味になった」というみっともないもの。

背景ストーリーなんてものは、実は単なる言い訳なのかもしれない。


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