モニターサウンドの求めるところ2

レコーディングに向けてモニターヘッドホンをさがして歩いたときに出会えたヘッドホンを紹介していきたいと思う。


とりあえず聞いてみてレビュー

今回はDACをRME ADI-2 Pro FSを使って試聴してみた。以前の記事で買ったSRH-840Aベースにレコーディングに使えるヘッドホンをということで試聴をしてきました。今回は音源もリファレンスをつかったのでかなり細かいレビューができそう。

リファレンス音源について

今回使用した音源はプロセカの”群青賛歌”とDir en greyの”艶かしき安息、躊躇いに微笑み”とyoasobiの”アイドル”を使っています。フォーマットはOpusで聞いていますので重みづけがされているのですが、それを加味したうえでフラットを探してみてます。この辺はそもそもソースとして音質がいいので採用させてもらいました。群青賛歌に関しては私のリファレンスになっているのでかなり厳しい条件で聴いたつもりです。追加でAT4040で録音した女性ボーカルの音源を使っているので比較的フラットなレビューができるかなと思います。

SRH-840A

まずは持っているヘッドホンから聞いていきます。自分の使っているものをもっていかなかったのですが解像度はやはりクラストップだといえそう。分解能もちょうどよくて、しかも密閉型なので場所を選ばずに使える。そして密閉型とは思えないクリアサウンド。普段使いなのであんまり細かいレビューをしても仕方ないので、比較するためのベースとして考えてもらえればいい。

HD490PRO

ゼンハイザーのサウンドは割と中音域重視の艶のあるセッティングなのが特徴なんですが、HD490PROはいい意味で裏切られました。まず入るのはバスドラの音なのですが、どちらかというとラフな立ち上がり。広域はこもってもいないし十分な立ち上がり。F特を見てみるとかなりフラットなのでこれは今までのHDシリーズとは比較することができない。一方でボーカルの艶はあるけど粗の見えにくいサウンドだな。と感じました。

SRH-1540

さて、本命シュアたちのヘッドホンを比較していきたいと思います。まずは密閉型のSRH-1540ですが840Aとは全く性格が異なり、いい意味で密閉型らしいサウンドでした。独特のタイトなサウンドながら125Hz以下の音が頭全体で鳴りきるイメージ。少し音場が狭いなと感じましたがまとまりかたとしてはキャラクターがしっかり出ています。すごいなと思ったのが空気感がしっかりと感じられたこと。Dirの音源ではギターに入る前の緊張感のある空気をしっかり表現できていました。そのそのうえで中低に特化しているというか弦の生々しさも聞こえます。特にベースのピッキングがレスポンス良く聞こえるので低音のしまりのなさは感じさせない。そして今回の構成で試聴したときにシュアのヘッドホンはきつい高音を感じたのでそういった意味では10kHz以上の音が適度でまとまり感はあるこれは好みがわかれるサウンドでした。

SRH-1840

今回の大本命。前回とてもよかったので検討していたものになります。
さて音はというとかなり高音が強めで、耳が痛くなるくらいとげのある広域を出してくれます。10kHz以上がきつかったので長時間聞くには適さない印象です。ただ解像度は今回聞いた中で一番で、分解能が高くて細かい音だけではなくそのニュアンスまで正確に返してくれる。空気感もしっかり表現されていた。しかし、低音が全くといっていいほど鳴らないのでこの点でかなり考えさせられた。立ち上がりがとてもよくて、価格帯的にここまでタイトなサウンドを出してくれるモデルがなかったので、これはキャラ付けというか原音を忠実に再現しているのだろうなと思いました。ただ、ゼンハイザーと比較すると豊かさはそぎ落とされてしまうのでリスニングとして聞くには解像度が高すぎると思います。あと比較すると音場は狭いです。群青賛歌では一歌の息遣いまで感じられたのであとは低域がどうにかなれば最高の一本だといえる。

HD660S2

マスタリング界隈では言わずと知れたヘッドホン。しかしインピーダンスの高さがネックになっているので放送用というのが表現は正しいかもしれない。リスニングでこの価格帯を狙うのであれば間違いなく候補に入ってくる一本である。解像度・表現・音場のどれをとっても完成度は高い。しかしそれはリスニングという用途に限る。録音でももちろんフラットな音を提供してくれる。F特を見る限り15,000Hzあたりでディップがあるのだけれどこれが意外とネックに感じられた。それゆえに多少こもるというのが表現としては正しいのだろうか。RMEではちょっと鳴らし切れていない印象があったので多分ほとんどのインターフェースで鳴らし切れないのではないだろうか。別途アンプが必須だろうなという印象があった。これを現場に持っていくとするのであればちょっと扱いづらさを感じてしまうなと。家でマスタリングするのであれば必要十分というイメージだろう。ドライバのサイズがシュアよりちょっと大きいので表現の豊かさはこれによるんだろうと思う。

各種比較

実際に比較しながら試聴したので細かく書いてみようかと思う。少しは客観性が出るかな?出ないかな?

840A vs 1840

どちらもシャリシャリで解像度高め。いつも聞いているのが840Aだからか低域の物足りなさを感じたなぁと。群青賛歌においてはほとんど差が出なかったのでたいていの場合840Aで十分なんだという評価ができた。録音した音を聴いたときに明らかな差がでた。AT4040が持つ空間特性をしっかりと表現しきるのが1840。場の緊張感を出してくれたり、ラフな声はしっかり安心感のあるサウンドを出してくれるあたりがメリハリのあるいいサウンドだなと感じました。1840の勝ち。

840A vs HD490PRO

もう間違いなくHD490PROを買う。価格差以上の価値がある。圧倒的な表現力。そして豊かな中低域。聞いていて安心感と包まれる感じは不思議。もともとのラフさがあるせいか、ゆっくりと音を聞くことができる。一方で確かに解像度にかけるところもあるので好みがわかれるサウンドといえる。もし、バンドの音楽を録るのであれば840AでオーケストラをとるのであればHD490PROを推したい。

HD490PRO vs HD660S2

さて、ゼンハイザーの比較に入っていこう。HD490PROが全く別のコンセプトで作られていたことに驚かされると思う。HD660S2は確かに最高のリスニングヘッドホンだと思う。一方HD490PROは名前からするとランクは低いのだろうということが邪推できる。実際には価格差は大きくないので味付けの問題なんだということがわかる。HD600シリーズは言わずと知れたリスニングヘッドホンのシリーズでベンチマークともいわれるHD660Sから始まり、HD400シリーズはスタジオのリファレンスとしても使えるフラットな特性であることに留意しておきたい。
では音はどうなのかというと490PROはHD400シリーズの中でも中高域を解決したモデルといえる。またHD400シリーズは500シリーズの後継になるため一桁目でグレードを推しはかることができないのに注意である。音の解像度、音場は確実に660S2に軍配が上がりそう。しかし、レコーディングを考えれば490に軍配が上がる。それは分解能もだけれど、その音の忠実性にある。艶があるけど飾り気がない。実際の音以上に何か乗るわけではないので使い勝手がいい。低音を気にするのであれば低音の分解能もしっかりしているので十分使えると思う。ただ極低域が少しラウドなのでそこだけ目を瞑ればいいヘッドホンといえよう。

HD490PRO vs SRH1840

正直ここでかなり悩んだ。どちらも甲乙つけがたいいいヘッドホンである。リファレンスサウンドを聞いてもどちらにもいいところと悪いところがある。そもそもシュアのヘッドホンは高音がなりすぎていて耳が痛くなるということがあった。HD490PROは低音がラフになりすぎて像がぼやけてしまう。これは多分マスタリングされた音を扱ってしまったら”味付け”でおさまってしまうレベルの違いしか見出すことができないのでどちらもレコーディングでは大いに使えるヘッドホンといえるだろう。
最終的に判断したのはAT4040の音への忠実性だった。AT4xxxシリーズはAT2xxxシリーズと違い表現がはっきりしていて、粗をよく出すことのできるマイクなのでどこまで粗が見えるのかを判断基準にした。いい音を探すのに粗探しをするなんてことになるとは思っていなかった。結局AT4040の音を忠実に再現してくれていたのがSRH1840なので求めているサウンドはここに会ったのだろうということで1840を購入することになった。

結論

さて、今回は応用編ということでレコーディングを軸に比較検討を行ってきたが家に持ち帰ってインターフェースで音がかなり変わること。エージングで音が全然違うことに家でがっかりした。本来近いはずの840Aと全く別のタイトでない低音が鳴ったから…
15時間程度エージングを行ってみたのだけれど、よくはなったけど使えるレベルにないので適宜EQをかけることをお勧めする。ちなみにインターフェース毎に音が変わってしまうのは仕方ないとはいえ、MOTUとRMEにそこまでの差はないはずなので(かなり違うけれど目指す音は同じ)ほぼエージングと断定できる。今回はちょっと高度な比較になったので正直ここまでお金をかける必要があるのかと言ったら全く意味がないので皆さんは聴いてみてリラックスできるヘッドホンを選択してください。

番外編

試聴に行く数日前にMOONDROPの楽園が価格帯最強という話がXで出ていたので実機を聞いてみたので参考までに。
中国製品ということをまず忘れることが大切。この先入観があると基本的にネガティブな評価しか上がらない。実際MOODROP竹を使っているが価格帯最強なのではないだろうかというくらいのクリアサウンドを提供してくれる。しかし楽園は6万円弱。これが吉と出るか凶と出るか。
気になる見た目はシルバーのパンチングでとても豪華なつくり。中に使うプラスチックも透明なものを採用していて、印象はいい。一方でヘッドバンドがすでにくたびれていたので少し印象が悪く感じたり。今回比較したヘッドホンのどれよりも見た目はいい。うん。見た目はね。
音はといえば面的なサウンドが鳴る。ドライバが100mmということで豊かな中低域。ただびっくりするくらいレスポンスが悪かった。価格的にはおおむね2万円前後だったらほしいと思ったけれど、高価格帯を中国に作らせたら結果は難しいんだろうなという知見を得た。
しかし5000円台のイヤホンの出来は素晴らしいので量産するのは得意なのだろう。どうしても量産数の少ない機種は開発費が乏しいのかキャラクター性に劣る結果になった。


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