しゃべるのが上手な僕は、文章を書かなければならない。
僕はしゃべるのがうまい。
講演みたいな形でしゃべるのもいけるし、1対1で尽きない会話をするのともできる。
文章を書く人は、しゃべるのが下手だと認識している人が多い。
しゃべれない、だから文章を書く、と。
それとは反する。
なぜなら僕はしゃべるのがうまいからだ。
小さい頃、僕は本当にしゃべるのが好きだった。
「口から生まれてきたんじゃない?」
そんな風に親戚に言われて、逆になんでみんなこんなにしゃべりたくならないのかわからなかった。
ただ、ある時から僕は、うまい会話を身につけていった。考えてることや自分だけの発見、そんなものを話すことはなくなった。
慎重に、丁寧に、相手が欲しい言葉を探して、表情を見て、ベストなタイミングで投げかける。うまくいくと相手が喜ぶのがわかる。
うまくいった会話のレパートリーはしっかりと僕の中に蓄積され、よく交わされる話題について、相手が楽しくなるような話をストックしていった。元々は自分の話だけだったのに、ある時から誰かの面白かった話も混じるようになった。
もう自分が本当に経験したのか、誰かの話をしてるのかわからない。
そうして僕は、どんどんしゃべるのがうまくなっていった。
「しゃべる」ということは僕にとって表現でもなんでもない。ただ、相手が欲しがってることを、欲しがってるタイミングで投げかける行為。
もうこの頃にはしゃべるのは好きじゃなくなっていた。
うまく処理できるかどうか、ただそれだけのものになった。
だから僕は文章を書くのかもしれない。
しゃべるのはうまい。
だけど、しゃべるのはきらい。
だから、僕は文章を書かなければならない。
おあとがよろしいようで。
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