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【活動録】第8回カムクワット読書会【今村夏子『とんこつQ&A』】

こんにちは。カムクワット読書会です。
先月いっぱい読書会を行わなかったため、久しぶりに記事を投稿します。

本日は以前に参加してくださったかた、他の読書会でご一緒したことがあるかたと、今村夏子さんの『とんこつQ&A』を中心に話ししました。

読書会がはじまるまで

会場にしようと思っていたのは、横浜駅から少し歩いたところにあるおしゃれなカフェでした。ネット上の評判も良く、内装の雰囲気も良さそうなので楽しみにしていました。

しかし、Googleに書かれていた営業時間の直前に店の前に着いたところ、店内は真っ暗で準備している様子もありませんでした。しばらくすると、参加者のかたも来てくださったのですが、開店する気配が全くなかったため、お店を探すことになりました。

流れ着いたのはいつものお店

そのカフェの近くにあるお店をまわったところ、混みあっていました。そこで、何度もお世話になっているお店に向かうと、そこに入店しようとするもう一人の参加者の後姿がありました。

開催前にバタついてしまい申し訳ない気持ちになりました。

読書会がはじまるまで

入店してから少し雑談。最近、面白かった小説の話しをしました。綿矢りささんの『嫌いなら呼ぶなよ』や恒川光太郎さんの作品に「異世界ファンタジー」があることなどを聞き、まだ読んだことのない面白い作品を知ることができました。特に、面白いと言っている人の話しを聞くのはいいものです。

今村夏子『とんこつQ&A』

帯にある「”普通”の可笑しみから、私たちの真の姿と世界の深淵が顔を出す」とあるように、奇妙な人物たちが登場する4篇を収録した一冊。個人的には村田沙耶香さんの『コンビニ人間』を読んだときに近い感覚を覚えたのですが、その辺の感覚も人それぞれであって……。

表紙が個性的!

「嘘の道」の名無しの姉弟

嘘つきは「消える」という呪いのような言葉が示すように、人々の記憶から抜け落ちてしまった姉弟の弟によって語られる、嘘つき少年と自分たちが経験したの回想。

「この弟って本当に存在するか」という感想を聞き、言われて気づいたことでしたが、この作品に登場する人物たちには名前が与えられているにもかかわらず、姉弟は名無しである。

とある嘘から外界との接触を断った二人が、かつての親友たちの記憶から消えていくさまや、嘘つき少年ということで「いじめられる」少年をめぐるあれこれの薄気味悪さを意識していましたが、まさか最初から二人に名前などあたえられていなかったことに驚きました。

「良夫婦」は何のために?

近所の少年が虐待されていると思い込み、正義のためにおやつを与える妻とその頼りになる夫の話。

その少年をタムと口にしていた妻が、ある瞬間から自分から切り離したようにタムの名前が描写から消える。これは「嘘の道」で自分たちが消えるのとは反対に、嘘を守るために都合の悪いことから目を背けることを意味するのかもしれません。

これを書いていてあらためて思ったのですが、さまざまな外部の問題に正義の目を向ける行動は、内側にある問題から目を背けることになるのではないでしょうか。

生き方がうまい人が残した「冷たい大根の煮物」

可笑しな人物はいないように感じたという話しになった作品。

周囲から貸したものを返さないと認識されている芝山さんは、一人暮らしする主人公の部屋でご飯を作ってくれる。手作りのご飯を食べた経験に乏しい主人公は、それに感動するのだが……。

光熱費がかかり、芝山さんは自分の家族のための料理を作るついでに主人公のご飯を作って帰る。それは、損か得か。

芝山さんは、さまざまなものを借りたまま仕事をやめてしまう。たばこやコーヒー、小金など。

ふと、思い返してみると、部活で「一口ちょうだい」と飲み物をもらっていく人、お弁当のおかずをつまむ人など、さまざまな芝山さんにあふれている。

一方で、芝山さんたちにコツコツと何かを与え続ける人がいて、そんな世界の縮図のような作品に感じました。

「とんこつQ&A」は舞台セット?

ぼっちゃんと大将が家族経営する町中華「とんこつ」の舞台には、亡くなったおかみさんの影がある。

接客に詰ってしまう主人公・今川さんは、電話の前にある「ハイ、とんこつです!」というカンペによって、何かを読めば接客できることに気づく。そこで生まれたのが接客バイブル「とんこつQ&A」である。

とんこつになじむ今川さんは、仕事を効率化するために旧習を変えようとする。しかし、ぼっちゃんと大将はおかみさんのやり方を維持することに腐心する。

そこで、新たなバイト・丘崎さんが登場する。おかみさんと同じ大阪出身の彼女はぼっちゃんに気に入られ、今川さんは居場所がなくなっていく。そこで生まれた大阪版のQ&Aによって、おかみさん化させられる丘崎さん。自分に別の配役を与えた「とんこつQ&A」を創作する今川さん。

洗脳や妄想の影をみながら、とんこつという舞台セットの中で、おかみ役を奪われた今川さんが脚本家として転身する。さまざまな感想の隙間から、そんな読み方も思いつきました。

おわりに

自分では気付けない視点、感想から、新たな読みが生まれる。それが共通の作品を話題にする楽しさだと思います。

かなり自分が話過ぎてしまったことは反省点ですが、とても面白い会になりました。

また、お昼をご一緒することになり、お店探しで放浪してしまったのも申し訳なかったです。でも、ねぎし美味しかったです。はじめてとろろを食べました。

次回について

李屏瑤/李琴峰『向日性植物』及び李琴峰『透明な膜を隔てながら』を課題作品に、渋谷で開催予定です。
参加者を募集中です。ぜひ、お気軽にお問い合わせいただけると嬉しいです。
https://note.com/kumquat_bookclub/n/nc780accd5b68

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