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「いいね!」の功罪

 SNSには「いいね!」が付き物だ。異なる表現では「スキ」、「高く評
価」、「参考になった」といった言葉が使われる。「いいね!」は一見ポジ
ティブな反応だし、それによって生じる弊害はないと思われがちだ。しかし、大きな誤解であることに気づかされた。

認められるのは嬉しい

 ランキングが上がるのが嬉しくて、Amazonのレビューへの投稿を、月に
二件程度を目標に続けていた時期があった。
 SNS依存性が大きかった時期であったと思う。ランキングが上がるのは、
会社での不満を抱えた私にとって自己承認欲求を満たす大切なことだった

 当時、Amazonのレビューには「参考になった・ならない」の投票ボタン
があり、投稿したレビューに「参考になった」の数が増えるとベストレビュ
アーランキングの順位が上がり、「参考にならない」の数が増えると順位が
下がるという仕組みになっていた。

信用できない「参考になった」

 有益であったので、その本に対し高評価したという内容のレビューを書い
た。しかし、「参考にならない」の数が異常に膨れ上がったことがあった。
他のレビューを分析してみると、酷評しているレビューに「参考になった」
の数が多く、高評価しているレビューに「参考にならない」の数が多かった
。本や著者を気に入らない人が仕掛けたのではないかと考えた。

 「参考にならない」の数が増えたことで、私のランキングは、がた落ちし
、かなり落胆した。そして、商品や著者の評価を貶めるのにレビューを利用
する間接的方法があることを学んだ。

 また、SNSにおいて「良い」とか「悪い」という評価の数は当てにならな
いと考えるきっかけとなった。

改善された評価用ボタン

 「参考にならない」のボタンがなければ、参考になったと感じた人の評価
のみを受け入れることになるので、上述のような問題は生じないだろうと考
えた。
 後に、Amazonのレビューの評価ボタンは「役に立った」の一つになった
が、これは良い判断だと感じた。なぜなら、「いいね!」あるいは、それに
相当する言葉だけのSNS空間が健全と考えたからだ。

「いいね」で自死した少女

 2019年6月3日付けの朝日新聞の一面に、「SNSいじめ逃げ場なく」という
見出しの記事が載った。これを読んだ時の衝撃は忘れられない。

 自死した彼女のスマートフォンには悪口が残されていた。LINEメッセージ
の悪口には「いいね」が複数押されており、いじめに関与していない人も含
まれているようだった。学校での口頭のいじめもあったようだが、SNSでの
いじめが自死への引き金になった。大体このような内容の記事だった。

 記事を読んで色々なことが頭の中を駆け巡った。悪口メッセージに押され
る「いいね」の数は悪口を増幅させる。
しかも、SNSでは時間や場所を選ば
ずメッセージが飛び込み、メッセージからの逃げ場はない。思ってもみなか
った人が「いいね」を押していることを知った時の驚き。疑心暗鬼が向かう
先が増えれば、それだけ心は摩耗する。

 「いいね」という言葉は一見ポジティブな感じを与えるが、使われ方によ
っては刃にもなりえる。

モノの功罪

 書名は忘れてしまったが、次のようなことが書かれていた。「切るモノ」
は、「メス」になれば人命を救う道具となる。しかし、人に対して振りかざ
せば殺傷武器となる。「切るモノ」は本来、善でも悪でもない。それを使う
人の心次第で、善にも悪にもなる。

 言葉や行為、食べ物、社会活動等々世の中の物事に対し、100%良いとか
悪いとか考えることは視野を狭めると理解してきた。しかし、前述の記事を
読んだとき、自分の理解の浅ささに愕然とした。

当たり前を疑う

 Amazonでのレビューの経験から、SNSは「いいね」ボタンしかない方が健全になると考えるようになった。しかし、後に自死した少女の記事を読んで、そのような考えも不完全であると理解した。

 「いいね」には一見「功」の面しか見えないだろうが、注意してみると、
そこには「罪」の面も見えてくるだろう。

参考

・2019年6月3日付けの朝日新聞朝刊 一面と二十七面

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