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リフォーム詐欺を疑わせる訪問者との会話

 少し薄暗くなった時分。リフォームの飛び込み営業があった。詐欺だと確
信したので断ったが、そこまでの顛末の中に参考になることがあるかもしれ
ないので、まとめておこうとおもう。

最初のセリフ

 訪ねて来たのは二十代位の男性。開口一番にこんなことを言った。

「近くで工事しているが、お宅の屋根瓦が数枚ずれているのが見えた」
「親方にそのことを教えて来いと言われた」

ウエッブで「屋根修理 詐欺」で検索すると、屋根修理の詐欺手口をまとめた
サイトがいくつか見つかる。彼が帰った後、関係あるサイトに順に目を通し
ていたら、その中の一つに、まさに同様なセリフが紹介されておりびっくり
した。

不安は煽られた

 「自分は屋根専門の職人」「雨漏りするようになるから、すぐ直した方がいい」と彼は続ける。「専門」とか「職人」という言葉に人は弱い。専門家だから言うことに間違いないとおもってしまいがちだ。
 瓦がずれただけで雨漏りにつながるかという疑問があったが、屋根の構造
をよく知らない素人ゆえ、言っていることを受け取るしなかった。
 屋根は見えづらい場所だ。いつも見ているわけではない。急な訪問で屋根
の異常を「専門家」に指摘されるとやはり不安になってくる。「最近、この
辺では屋根瓦が落ちて事故になることが多いんですよ」とも言っていた。

誘惑の言葉

 「近くで工事しているので、合間にちょっと直してあげます」「釘数本打つだけ」というセリフを会話の中に何度か挟んでいた。誘惑的なセリフだ。「簡単な作業のようだし、親切そうな人だからただでやってもらえるのでは」というよくない考えが少し湧いた。

噛み合わない会話と彼の目的

 ただほど高いものはないという戒めがある。「ただということはないでし
ょうから、作業にいくらかかりますか」と尋ねた。「屋根に上がれば分かる
」と嚙み合わない返事。ちゃんと答えようとしない。何度か同じ質問を繰り
返すと、「瓦のずれ以外に、もし問題があったら最高三十万円でしょう」と
ようやく口を開いた。彼は、ずれの修繕がただとは言っていない。ただとい
うことを匂わせ屋根に上がりたかっているように感じた。詐欺の手口として
、屋根に上がり瓦を壊してお金を請求することもあるようだ。

急かす営業

 「明日なら屋根に上がってもよいですか」と詰め寄ってくる。この辺の工
事が数日後には終わって引き上げるので早い方がよいというのが理由だ。信
用できなかったので、出掛けると嘘をついた。いくつかのことを調べる時間
を作るためである。矢継ぎ早に「それでは明後日では?」ときた。なかなか
帰りそうになかったので、「まあ、いいですよ」と返事。

 そういえば、まだ彼は自分の会社名を告げておらず、名刺を差し出さして
いない。彼の素性をはっきりさせたい。「御社のことを調べてから回答した
いので名刺をください」と言って名刺をもらった。屋根や外装の工事を行う
他県の会社だった。
 「もし明後日都合がつかなくなったら、この名刺の番号に電話しますよ」
と付け加えた。名刺が偽物であれば連絡はつかないし、詐欺の証拠となる。そんなことをおもいながら玄関扉を閉めかけたら、「電話番号を教えてください。明日連絡しますから」ときた。早くお引き取り願うためにしかたなく教えたら、つながることを確認してから帰っていった。判断させる時間をなるべくとらせたくなかったのだろう。

調べてみた

 早速、名刺の会社名、住所でネット検索する。HP(ホームページ)があり、名刺に記載されている屋根工事も扱っていることが紹介されている。
 Googleマップでも会社を確認できた。しかしGoogleストリートビューで見
ると住所に該当する建物があるが会社の看板がない。これは気になった。

 求人情報サイトにもその会社名はあった。求人情報の書き方に品がなさ過
ぎる。例えば、求める人材としては、「今までろくな人生ではなかったので
逆転したいと考えている人」が挙げられている。前職は問わない。入社前に
借金で首が回らなくなったスタッフが在籍しているとも書かれている。一体
どんな会社なのだろう。

 住んでいるところの市役所のサイトからは、「悪質商法被害防止パンフレ
ット」のPDFファイルがダウンロードできた。住宅修理において、だまして契約させ高額な請求をする。悪質な場合、点検のふりをしてわざと壊すこともあるという事例が紹介されている。安易に点検させるのは危険だと再認識した。

 次の日、デジカメで屋根を確認できるすべての方向から写真を撮った。そ
して、PCで屋根瓦一枚一枚確認できる大きさに拡大して確認したが、ずれは
確認できなかった。今のデジカメでは十分鮮明に撮れる。ただ、地上からし
か撮れなかったので、屋根すべてを確認できたわけではない。高所からも撮
影できれば、完全だっただろう。

電話がかかってきた

 本当に電話をかけてくるか半信半疑だった。朝十時頃着信があって、名刺
にある彼の番号だったので電話に出た。明後日の都合を聞くので、懇意のリ
フォーム店に相談したら点検してくれるというのでそちらに任させたと断り
を入れた。本当は半分嘘で、以前リフォームしてもらったり、その他でお世
話になった地元の会社があるのは事実だが、相談までもちかけていなかった
。先述した通り、調べてみると会社も怪しいし、営業方法も信頼できないの
で断りのための理由を作り上げたのだ。

 話を終わらせようと、写真を撮って確認してみたが瓦のずれはなかったこ
とを告げた。すると、「そんなことはない、屋根に上がれば分かる」と引き
下がらない。そこで、「写真を撮りましたか?」「どの方向から瓦のずれを見つけましたか?」と質問してみた。
 写真は撮っていないという。ずれを確認した方向からは、屋根はあまり視
野に入らない。それにここ最近、その方向での工事はないから高所から確認
できたわけではないことが明白になった。嘘をついていると確信した。もっ
ているカメラは性能がよいので、瓦の状態をはっきり確認できたと、はった
りをかませてみたら、気落ちしたようだった。そしてすんなり電話を切るこ
とができた。

最後に


 「不安を煽る」「急かす」ような営業は警戒した方がよいことを再認識し
た経験だった。即断せず、嘘をついてでも、とにかく時間を置いて考えてみ
ることが大切だ。

 ネットで調べたり、自分で写真を撮ったりして訪問者は怪しいと判断した
が、普通は、自分が判断を下す材料をすぐに十分得ることはできないとおも
う。最良なのは、例えば地元の工務店や市役所の消費者相談窓口に問い合わ
せることだと感じた。ネットを過信するのではなく、問い合わせ話し合うこ
とで、自分が出会った場面ではどうすればよいのかという適切な情報に触れ
ることができるとおもうからだ。

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