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今日は地図の日。地図への興味の引き出し方 梅澤真一先生インタビュー

小学校3年生になると配られる地図帳。
 
子どもの興味を育み、新しい発見をもたらしてくれるものですが、その魅力を伝えられないと感じる保護者の方も多いようです。

本日4月19日は地図の日ということで、地図の楽しさを味わえる『考えると楽しい地図 そのお店は、なぜここに?』の監修された元筑波大附属小学校教諭、現植草学園大学発達教育学部教授の梅澤真一先生に、子どもの地図学習についてお聞きしました。

子どもから「引き出す」会話が大切


――地図に興味をもってもらうには、どのようにしたらいいのでしょうか。

梅澤先生(以下敬称略):
「地図帳を読みなさい」
親がこう言ったところで、子どもは読まないですよね。
ですから、考えることを一緒に楽しむコミュニケーションが大切です。

たとえば、夏休みの帰省などはチャンスです。
「おじいちゃん、おばあちゃんの家は何県だったっけ?」
「どうやって行ったらいいんだろうね?」
「青森県に向かうには何県を通ればいいかな?」
というようなことを子どもに投げかけるといいと思います。

あるいは、GWの旅行を一緒に計画するのもいいですね。
「車で行くから、どの高速道路を通っていこうか」
「新幹線に乗るけど、何駅で乗ろうか?どんな所を走っているのかな」

親がルートを全部決めるのではなく、子どもに考えさせる問いかけをしていくとよいと思います。


――子どもから考えを引き出すイメージでしょうか。

梅澤:
はい。子どもが調べ、考えたことをほめつつ、親と一緒に楽しみながら地図帳を使っていくと、自分で地図を開く時間が増えてくると思います。
その中で「地図って便利なんだな」「地図帳には大人も知らないことが載っているぞ」と気がついてくれるといいですね。

生きた知識にするには、実生活と結びつけること


――自分で調べ発見したことを、旅行先で実際に見ることは効果がありそうですね。

梅澤:
そうですね。実体験とつなげて意味づけしていきたいですね。
祖父母の家を訪れるならば、「産物」や「お祭り」など実体験とからめると知識が定着すると思います。こちらからお土産を持っていくことでも、自分が住んでいる地域の特性に気がつくことができますし。

――考えてみると、お祭りだったら歴史や文化につながりますし、産物は地形や気候に結びつくかもしれません。問いかけの重要さを改めて感じます。

梅澤:
つい答えを言いたくなったり、「テストに出るから覚えなさい」という声かけになったりしがちですが、その場だけで終わってしまうのはもったいないです。「おもしろいな。お父さんお母さんがいなくてもそれをやってみよう」と思うような投げかけをすると、意外と覚えると思います。また好奇心が芽生えたら、「まだ小さいから」と制限するのではなく、いろんな場所にどんどん行ってあげたり、知識を与えたりするというのはいいですね。

子どもの周りには、地図が大切だと感じるチャンスがたくさんある!


――ほかにもおすすめの方法はありますか?

横澤:
たとえばテーマパークや動物園には園内マップがありますね。登山道の入り口には、ルートの看板もあります。つまり、子どもがわくわくする場所には地図があるんです。このような地図は大いに活用できます。


子どもが「パンダとゾウとライオンを見たい!」と言ったら、親がすぐに決めてしまわないで、親子で相談したり、子どもが考えた道順で回ってみたりするだけで、地図の楽しさに触れられると思います。テーマパークで乗り物にたくさん乗りたい子どもにとって、効率のよい回り方を探すことは熱中できる活動でしょう。

――思い返すと、わが子が動物園で一生懸命地図を読もうとする場面をみたことがあります。地図がない場所ではどうでしょうか。

梅澤:
はじめは地図に関係なくてもいいんです。
「バナナを買ったらフィリピン産と書いてあった。フィリピンって、どこだろう」
「2023年のWBCで日本と対戦したメキシコってどんな国だろう」
という場面でも地図帳は活躍します。子どもが「知りたい」というサインを出したときを見逃さず導いてあげると、自然と調べるようになってくると思います。

――これまでのお話を聞くと、地図の活用にとどまらない、子どもを伸ばす大切なポイントが見えてきますね。

梅澤:
情報があふれている今の時代に大切なのは教えることではありません。カーナビや地図アプリが普及する中、子どもの「学びたい、知りたい」という姿勢をどのように育むかが大切です。

「知りたいこと、学びたいこと」は実は身近にあるものです。そのことを子どもに気づかせてあげると、普段の生活の中で「地図があると便利だな」「自分の生活がよくなるものなのだな」と感じてくれると思います。


高校での地理総合の必修化について


――2022年4月から高校に入学する生徒は「地理総合」「歴史総合」「公共」が必修化されました。選択科目であった地理の必修化が話題になっていますが、子どもたちへの影響はいかがでしょうか。

梅澤:
自分たちの生活に生かすという意味の「地理総合」という科目が必修になったことは、地理的な見方・考え方が大事だという認識が広がったことを意味するのではないでしょうか。
「地理総合」にはいくつかのキーワードがありますが、たとえば、防災に対する意識の高まりを見ても、地理が大切であると考える方が増えたのではないかと思います。

――これまでの「地理」と違う部分はあるのでしょうか。

暗記した地名を答えるといった、知識の定着が目的ではなく、生活にどう生かしていくか、結びつけていくかという視点でカリキュラムが作られていますね。

学習指導要領が変わり、社会科に限らず、すべての教科で重点がコンテンツ(※知識)からコンピテンシー(※資質・能力)へ移行しています。
社会科には、歴史的見方・地理的見方・公民的見方があります。地理的見方の中で、位置や空間的な広がりを意識させるという点で地図はぴったりなので、小学生のうちから地図を読むことは大切だと思います。

――大学入試センターが出した「地理総合」のサンプル問題などを見ると、地図をはじめとした資料を読み取る力がいっそう求められていて、先生のお話とつながっていることが感じられます。

梅澤:
学んだことを生活に生かすという視点ですよね。地理が好きで、人口や面積など、いろいろなランキングを1位から30位まで覚えている子もいますが、これからはそれをどう生かすかが大切です。
もちろん、ある程度理解するためには知識が大切なのは言うまでもありません。ただ、今までは知識習得に軸足があり、それを使う場面をなかなか作れませんでした。今後は、授業や指導の中で、知識を生かすということを想定した伝え方をしていけば、子どもは意欲をもって学んでくれるのではないかと思います。

『考えると楽しい地図 そのお店は、なぜここに?』について


――先生のお話を聞いて、本書が図書館での評判がよく、学校の先生方に評価いただいている理由がわかりました。

梅澤:
考えること自体も楽しいし、考えた結果、地図を読み取るだけじゃなくて、自分の生活をよくするための地図の読解の力がつく本ですよね。
地図に関する本で、ここまで踏み込んでいるのはなかなかないですね。地図を読み解いて、「どうやって行ったらいいのか」とか、「なぜそんな地形になっているんだろう」とか、「なぜ鉄道はここのところで曲がっているのか」という切り口で問いが設定されていて、読めば読むほどおもしろい。地図から読み取ることができる歴史的な変遷などを、今と昔の地図を見比べて考察するというコンテンツもありますね。地図の楽しさを体感できる良書です。

横澤真一
『考えると楽しい地図 そのお店は、なぜここに?』監修者
植草学園大学発達教育学部教授。
千葉県公立小学校、千葉大学教育学部附属小学校教諭、筑波大学附属小学校教諭を経て、現職。東京書籍の小学校社会科教科書編集委員も務める。著書に『梅澤真一の「深い学び」をつくる社会科授業5年』(東洋館出版社)などがある他、『にゃんこ大戦争でまなぶ! 47都道府県』(KADOKAWA)など多数を監修。

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(写真提供:pixta)