見出し画像

サイレント・コネクション 第6章

逮捕

電子研究部のメンバーたちは、瑛介の遺した石の話題で盛り上がっている。

貴仁:「この画像が宇宙から撮影されたとしたら、古代文明が宇宙旅行まで到達していた可能性もあるんだよね。」

啓太:「それとも、宇宙人が地球を訪れて、その記録を残したのかもしれない。」

ありさ:「ねえ、この石には他にどんなデータが入っているのかな?科学技術の情報とか、宇宙人とのコミュニケーション方法とかがあったりして!」

ありさも、瑛介の遺した石に興味を持ち、想像に胸を膨らませていた。しかし、その中で純礼だけが何かを悩んでいるような浮かない顔をしていた。貴仁が気づき、声をかける。

貴仁:「純礼、どうしたの?何か悩んでることある?」

純礼は答えられない。

話題は今後についてに変わる。
石についてこれ以上の解析を進めることは難しい状況にあった。

その理由は、人手が足りなかったことだ。
石にはこれまでに見つけた画像以外にも、膨大な量のデータが保存されていることがわかっていたが、それを解析するためには多くの人手が必要だった。

貴仁:「この石をもっと解析したいけど、現状の人手では厳しいよね。」

啓太:「そうだね、でももっとたくさんの人に協力してもらうとなると、この情報が漏れるリスクも上がってしまう。それに、これが実際に信じられる情報なのかどうかも確定していないから、どこまで広めるべきか難しいところだよね。」

ありさ:「うーん、じゃあどうしたらいいんだろう?」

そのとき、貴仁の端末に着信があった。高田圭司だった。純礼は顔をしかめ、すぐに悪い予感がした。貴仁は通話をスピーカーモードにして、純礼を含めた部員たちにも会話が聞こえるようにした。

高田:「貴仁くん、ちょっと悪いお知らせがあるんだけど…」

貴仁:「何ですか?」

高田:「実は、PT-RFIDのプロジェクトが終了になることになったんだ。こちらの判断だけど、小林純一も同意している。」

高田:「ある事情があって…。詳しいことはここでは話せないんだ。でも、プロジェクトの終了は決定事項だから、これ以上続けることはできないんだ。」

貴仁:「でも、こんなに進んでいるプロジェクトを止めるなんて、もったいないですよ。せっかく良い結果が出そうなのに…」

高田:「ちょっと待って、もう一つ提案があるんだけど。」

貴仁:「提案?」

高田:「そうだ。実は、貴仁くんの持つ石について話があるんだ。」

純礼:「石の話?」

高田:「石を渡してくれるなら、再度プロジェクトが進むように方々にはたらきかけてみるよ。」

貴仁は怒りを感じつつも、冷静に答えた。

貴仁:「それはできません。石は父の遺した大切なものです。渡すわけにはいきません。」

高田:「そうか…。残念だけど、仕方ないね。」

貴仁:「ですから、石を差し出すことはできません。それでもプロジェクトを終了させるのですか?」

高田はため息をついて、答える。

高田:「ああ、それが決定事項だ。」

通話は終了する。

思った通りだ。
こうなることはわかっていた。
貴仁は、どうして高田に石のことが伝わったか考えるだろう。
高田重工業で純礼を見かけたことに思い至る。
そして、気づくだろう。すべてを教えたのが純礼だということに。

通話が終わると、インターホンが鳴る。警察だ。
これも、純礼の想像していた通りだった。

取り調べ

貴仁は警察署で取り調べを受けることになった。DTS法違反という罪状で逮捕された彼は、ありさがT-RFIDタグを持っていなかったことによる罰則を受けることになってしまった。

取り調べ官:「彼女になぜT-RFIDタグを持たせなかったのですか?」

貴仁:「彼女は病院で治療を受けていたんです。そのため、タグを持たせるタイミングがありませんでした。」

取り調べ官:「それにしても、法律には従わなければなりません。」

DTS法違反は厳しい罰則が伴っていた。それにより、彼が受ける罰は5年以下の懲役、または罰金とされていた。違法性は考えていたが、想像以上の重い罪状に戸惑いを隠せない。

取り調べは続いている。
貴仁は不毛な取り調べだと感じていた。
スラム街にあれだけたくさんの人がいるのに、なぜありさの場合だけ逮捕されるのか。警察のやり方に納得がいかなかった。

二日間にわたる取り調べの合間に、貴仁は自分の状況や情報を整理していく。

まず、石の情報がどのようにして高田重工業に伝わったのか。これについては、純礼が関与していたことはほぼ確実だと考えられた。

つまり、大学に入学した当初から、高田圭司が純礼に貴仁の情報をつたえるよう指示をしていたのだろう。その理由は奨学金に関連している可能性が高い。
高田に貴仁の情報を渡すことが、奨学金の支援を受ける条件だったのかもしれない。

高田が石を欲した理由はおそらく、純礼から情報を受け取っていたからだろう。その内容は、何らかの科学技術に関わる情報の可能性が高い。貴仁自身は、石に関する情報が単に自分たちの紹介だと思っていたが、それだけでなく、他にも価値のある情報があると想像する人がいるのも当然だと思う。

しかし、なぜ高田があれほど急いで石を手に入れようとしていたのかは、貴仁にはまだ理解できなかった。高田の言い方はほとんど脅迫に近いもので、その急ぎようには何か理由があるはずだ。

実際、石を高田重工業に預けるという選択肢も、貴仁の頭の中には存在していた。
これから先、石に関する研究や解析にはたくさんの人手が必要だということは、理解していたからだ。

しかし、高田の態度や言動に不信感を抱いている貴仁は、石を渡すことができなかった。その理由の一つは、父親の死の原因が高田重工業にあると考えていることだった。

貴仁が逮捕されたことで、石は証拠品として警察に押収されているだろう。
高田は、警察を利用して石を奪おうとしていたのだろうか。

いや、おそらく逆の可能性が高い。国(もしくは国に所属する誰か)が高田重工業から情報を受け取り、高田に石を奪うように指示していたのではないか。
高田のやり方が上手くいかなかったため、逮捕という手段に出たのだろう。
そう考える方が自然だと、貴仁は思う。
この仮説が正しいとすれば、他にも多くの者が石の持つ価値に関心を持っていることになる。

貴仁は、野口と高橋という刑事についてはどうだろうか。彼らには以前、実家で起きた盗難事件に関連して事情聴取を受けたことがあった。
あの時も彼らは石に興味を示していたように思えた。
よく考えると、たかが盗難事件1つにあれほど熱心に捜査するものだろうか。
貴仁は、もしかしたら野口と高橋も石について何らかの情報を持っているのではないかと考える。彼らが石に関心を持っている理由や、彼らが誰の指示で動いているのかは不明だが。

貴仁は、純礼やありさの安否についてはどうだろうか。彼らも同じように逮捕されたのか、それとも何らかの保護を受けているのか。
現状では彼らのことを調べる余裕はない。
自分自身が国家権力によって狙われている状況下で、ますますピンチに陥っていることを実感する。

自分の今後についてもはより厳しい状況にあるのかもしれない。
このままでは大学を退学になるかもしれないし、潤やありさのような立場に追いやられる可能性もある。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?