見出し画像

サイレント・コネクション 第11章

都内の広々とした練習場で、横山啓太は熟練の技でドローンを飛ばしている。彼は今やこの国を代表するプロのドローン操縦者であり、大会でも何度も優勝して名を馳せている。

空に舞い上がるドローンは、横山啓太の指先から送られる繊細な操作によって、まるで生き物のように滑らかに動く。ドローンは、高速で旋回しながら空中で華麗なアクロバットを繰り広げる。彼のドローンは、その速さと機敏さ、そして正確な操縦技術で、観る者たちの息を呑むようなパフォーマンスを見せつける。

横山啓太の目は、ドローンの動きに完全に同期しており、まるで自分自身が空を飛んでいるかのような感覚に浸っている。彼は、無限の可能性を秘めた空を舞台に、自分の技術と創造力を駆使し、常に新たな高みを目指して挑戦し続けている。

「素晴らしい技術だね」と隣の貴仁が声をかける。横山啓太は「ひさしぶり」と応じ、さらに「これでももうトップとは言えない」と続ける。初めてPT-RFID技術を用いた頃は、圧倒的な優勝を繰り返した啓太だが、今ではもう誰もが当たり前に使う技術になっている。

貴仁は話題を変え、臺灣民主共和国のことに触れる。オファーを受けることになった理由を啓太に尋ねる。啓太は少し考え込んだ後、真剣な表情で答える。

「正直、最初は戸惑ったんだ。でも、この国の技術力を見て、ここで僕の技術が役立つと感じたんだ。それに、臺灣民主共和国と日本の関係も今後重要になってくるだろうし、僕が橋渡しの役割を果たせるかもしれないと思った。」

「というのは建前で、本当はただまた一緒に仕事をしてみたかったんだ」啓太は笑う。

貴仁は、啓太と臺灣民主共和国入りした後の予定について話し始める。現地では空軍のドローン部隊に対してレクチャーを行うことになっている。また、日本からT-RFID搭載のドローンを1000機譲渡することが決定しており、その取り扱いや運用方法についても指導する予定だ。

さらに、貴仁は半年以上の長期滞在になることを告げる。啓太は少し驚いた様子を見せるが、同時にやる気に満ちた表情でうなずく。

「半年か、長いけど、これだけの時間があれば現地の人たちともっと深く関われるし、しっかりと技術を伝えられるね。」

二人は再度、互いの役割分担を確認する。

「貴仁はPT-RFID技術を用いたシステムの導入と説明を担当し、僕はSTEAドローンを撃墜する操縦技術に関する指導を行う。あっているかい?」啓太が確認する。

「うん、そうだ。お互いが得意な部分で協力し合おう」と貴仁が答える。

啓太は純礼のことを気にかけ、彼女の予定を尋ねる。
「それで、純礼さんはどうするんだ?」と啓太が聞く。

貴仁は少し苦笑しながら、「最初は純礼が日本に残る予定だったんだけど、彼女自身が同行を希望してね。結局、一緒に行くことに決まった」と告げる。

彼女がいないと貴仁はダメだからなと啓太は笑う。

ふと思い立ったように、啓太は臺灣民主共和国の現状に懸念を示し、首をふる。
「台湾の状況は心配だよな。中華連邦の軍事力が増す一方で…」と言葉を続ける。貴仁も同意する。「うん、その通りだ。緊張が高まっているのは間違いないね。」

二人は、臺灣民主共和国と中華連邦の外交関係について話し合う。
臺灣民主共和国は、中華連邦建国の際に独立を達成したが、中華連邦はその独立を未だ認めていない。
そのため、中華連邦は度々「反乱軍によって不当に占拠された反政府勢力」であるという主張を行い、臺灣民主共和国への軍事攻撃の可能性を示唆している。

軍事力としては、中華連邦は臺灣民主共和国の3~4倍の規模とされており、その戦力は近代化が進んでいる。
特にドローンを使った戦力が主力となっており、近年は自立移動型ロボットの開発にも力を入れている。
巡回する二足歩行型のロボットや、四足歩行のロボットの映像が盛んに流れていることからも、その進展が伺える。

啓太は鉄龍(ティエロン・2足歩行型ロボット)や疾風虎(ジーフェンフー・4足歩行ロボット)の名を挙げる。「鉄龍と疾風虎の映像を見たときは、正直驚いたよ。転んでも何度も立ち上がる姿は、まるで生き物みたいだった。」と彼は驚愕の様子を語る。

「天風(テンプウ、日本のドローン航空機)については、それほど強力な兵器を搭載しているわけではない。STEAドローンを打ち落とすことはできても、鉄龍や疾風虎を破壊するほどの火力はない。
むしろこちらの方が厄介ではないか」と啓太は言う。

鉄龍は、2足歩行型のロボットであり、全体的な外見は力強くてコンパクトなデザインが特徴である。身長は約1.5メートルで、太くて頑丈な脚部によってバランスを保ち、優れた機動性を発揮している。その足部は、地形を選ばずに移動できるよう、特殊な素材と柔軟な関節を備えている。
頭部には、先進的なセンサーやカメラが搭載されており、広範囲の視界を確保している。これにより、鉄龍は敵を早期に発見し、適切な対応を取ることができる。
背中には、バッテリー駆動の高出力モーターが搭載されている。これにより、短時間での高速移動や、急激な加速を可能にしている。
腕部は長く、両手には高性能なマニピュレーターが装備されており、さまざまな物をつかんだり、状況に応じた道具を装着できる。また、腕には追加の装備スロットがあり、必要に応じて機能を強化することも可能である。
鉄龍の外装は、暗いグレーの強化プラスチックと金属合金で覆われており、様々な攻撃から身を守ることができる。さらに、その表面はステルス性能を持っていて、レーダーや赤外線による探知を難しくする。

疾風虎は四足歩行型のロボットで、全長は約1.3メートル、肩高は0.8メートルほどである。そのシルエットは、動物のような流線形で、速度と機動性に優れた設計となっている。筋肉のように動く関節と、適応性の高い足部が、あらゆる地形での高速移動を可能にしている。
頭部には、高解像度のカメラや赤外線センサーが搭載されており、夜間や悪天候下でも鮮明な視界を確保することができる。また、先端技術を用いた音響センサーによって、微かな音を拾い上げることができる。
背中には、コンパクトながら高出力のエンジンが搭載されており、長時間の活動や短時間での瞬発力も発揮できる。さらに、背中のスロットにはさまざまなモジュールを装着することが可能で、任務に応じたカスタマイズが容易である。
四本の足は、筋肉質でしなやかな構造が特徴で、地形に合わせて迅速に適応することができる。足先には、高性能のグリップが付いており、滑りにくい地面でも確実に移動できる。
疾風虎の外装は、耐久性の高い金属合金と強化プラスチックで覆われており、軽量かつ高い防御力を兼ね備えている。その表面は、迷彩塗装が施されており、自然環境に溶け込むことができる。また、ステルス性能も持っており、敵のレーダーや赤外線探知に対して高い回避能力を発揮する。

「鉄龍や疾風虎も、堅牢な装甲により、通常の攻撃ではほとんどダメージを与えられない。しかも、高度な自律機能を持ち、迅速かつ緻密な動きができる。建物に隠れる行動もとれる。ドローンによる空中からの攻撃は相性が悪い。」啓太が解説する。

「地上配備型のロボットは、今のところ気にする必要はないのではないか」と貴仁は言った。「橋頭堡ができなければ、地上配備型のロボットの展開は難しいからね。」

啓太はうなずきながらも、若干の懸念を顔に表していた。「確かにその通りだ。ただ、もし戦争になれば、状況は一変するかもしれない。何が起こるかわからないから、油断は禁物だ。」

貴仁も啓太の意見に同意する。「その通りだね。だからこそ、僕たちは最善の準備をしておく必要がある。」

二人はそれぞれの役割を再確認し、今後の対策を練ることにした。これからの任務は、彼らにとっても大きな試練となることは間違いなかったが、それでも彼らは、この国を守るために全力を尽くす覚悟を固めていた。

内閣総理大臣藤田健太郎と官房長官・渡辺光宏は、首相官邸の会議室で、桜井派の斉藤一郎防衛大臣についての会話を交わしていた。

藤田総理は慎重に言葉を選びながら言った。「斉藤大臣の軍拡路線については、多くの懸念がある。国内外の情勢を考慮しても、過剰な軍拡は国際社会からの信頼を失うだけでなく、国民の理解も得られないだろう。」

渡辺官房長官も同意して頷いた。「確かに、私もその通りだと思います。しかし、斉藤大臣は桜井派の重鎮であり、彼の意見には一定の重みがあることも事実です。総理としては、どのように対処されるお考えですか?」

藤田総理は深く考え込んだ後、静かに答えた。「斉藤大臣の意見は、一定の理解を示す必要がある。しかし、それと同時に、我々は国益と国民の声に耳を傾けるべきだ。過剰な軍拡には反対する立場を明確にし、理念を共有できる閣僚たちと連携して、よりバランスの取れた安全保障政策を推進していくつもりだ。」

渡辺官房長官は、総理の答えに同意する。同意はするのだが、その一方で自分たちの力が及ばないような時代の流れに飲み込まれてしまう可能性を懸念していた。

藤田総理と渡辺官房長官は、臺灣民主共和国と中華連邦についての議論に移った。この問題は、日本の安全保障と地域の平和に大きく影響するため、非常に重要なテーマであった。

藤田総理は、渡辺官房長官に向かって言った。「中華連邦と臺灣民主共和国の関係は、われわれにとっても重要な課題だ。中華連邦は、臺灣民主共和国の独立を未だに認めておらず、その軍事的圧力も続いている。この問題に対処するためには、国際社会と連携して、平和的解決を模索しなければならない。」

渡辺官房長官も懸念を共有する。「確かに、中華連邦の軍事力は増大しており、特にドローンや自立移動型ロボットの開発が進んでいることが懸念されます。一方で、臺灣民主共和国は日本と友好的な関係を築いている。我々は彼らと協力して、地域の安定と繁栄に貢献しなければなりません。」

藤田総理も、渡辺官房長官の意見に同意する。「我々は臺灣民主共和国との連携を強化し、中華連邦に対しても対話を通じて平和的解決を求める方針を取る。それは変わりがない。」
歯切れの悪さは、藤田総理も不安を持っているからだ。

藤田総理は、臺灣民主共和国へのドローン供与と技術協力についても触れた。「日本のドローン技術や、PT-RFID技術を用いたシステムは、臺灣民主共和国の安全保障に大きく貢献できると考えている。今回、天風ドローン1000機の供与と、技術協力によるトレーニングが決定されたことは、我々と臺灣民主共和国の連携を強化する良い機会だ。」

渡辺官房長官も同意する。「この技術協力を通じて、我々は臺灣民主共和国の防衛能力を向上させることができるでしょう。また、この協力が日本と臺灣民主共和国の友好関係を一層深め、地域の安定にも繋がることを期待しています。」

とすると、気がかりなのは米軍である。日本と米国は100年以上にわたる同盟関係にあるが、中華連邦建国や臺灣民主共和国独立の際には、「大国同士の衝突を避ける」という立場から、直接戦争には参加せず、後方支援に徹していた。

藤田総理は、米軍の動きについて慎重に検討しなければならないと指摘した。「もし、中華連邦と臺灣民主共和国の間で軍事衝突が起こった場合、米軍はどのように対応するのか。我々は、そのシナリオを考慮に入れておく必要がある。」

渡辺官房長官は、中華連邦と臺灣民主共和国の間で軍事衝突が起こった場合の米軍の動きについて、予測結果を示した。具体的には、以下の4つのシナリオが考えられると説明した。

1.米軍が直接介入し、臺灣民主共和国の防衛にあたる
米軍が直接、臺灣民主共和国を支援し、その防衛にあたるシナリオ。これは、米国が地域の安定や民主主義の維持を重要視し、同盟国である日本と協力して行動する可能性がある。
2.米軍が後方支援に徹し、日本と共に軍事物資や情報を提供する
米軍が、中華連邦との直接対決を避けつつ、臺灣民主共和国に対して軍事物資や情報の提供などの後方支援に徹するシナリオ。日本も同様の支援を行い、連携を深める。
3.米軍が緊急事態に対処するため、地域内に展開するものの、直接戦闘には参加しない
米軍が緊急事態に対処するため、地域内に展開するものの、直接戦闘には参加せず、抑止力を発揮するシナリオ。この場合、米軍は周辺国との連携を重視し、軍事衝突の拡大を防ぐ役割を担う。
4.米軍が国際連合や他の国際機関を通じて、外交的な解決を図る
米軍が軍事行動を行わず、国際連合や他の国際機関を通じて、外交的な解決を試みるシナリオ。この場合、日本も同様に外交努力を行い、中華連邦と臺灣民主共和国間の緊張緩和に向けて働きかける。

同盟国の行動を予測しながら戦略を立てるのもおかしな話だと渡辺は思う。この不確定性は、重大な懸念事項なのではないか。

藤田総理は、中華連邦の保有する核兵器についても言及し、その脅威を強調した。
現在、中華連邦は1000発以上の核兵器を保有する核大国であり、その力は無視できない。米軍との直接対峙が核戦争に発展する可能性がある。

総理は、そのような事態を回避するためにも、日本政府は外交努力を続けるべきだと強調した。
渡辺官房長官も同意し、日本がどのような対応を取るべきかを慎重に検討するとともに、国際社会と協調して中華連邦と臺灣民主共和国間の緊張緩和に努めるべきだと述べた。

ここで、会話は斉藤防衛大臣の話に戻る。
自衛隊は米軍と協調して臺灣民主共和国の周辺で何度も軍事演習を行っている。このことへの懸念である。
米軍は直接介入しない可能性が高いにもかかわらず、軍事演習を行っている。
これでは軍事衝突の際に演習にならない上、軍事的な緊張を高めるだけの結果になっているのではないか。
斉藤防衛大臣は何を考えているのかを問う。

渡辺官房長官は藤田総理の問いに対して、慎重に言葉を選んで回答した。
「斉藤防衛大臣は、おそらく自衛隊の存在感を示すことで、中華連邦に対して威嚇し、同時に臺灣民主共和国に安心感を与えることを目的としているのでしょう。しかし、その結果が逆に緊張を高めることになるという危険性もあるのは事実です。」

藤田総理は深くうなずいた。「私たちの目的は、あくまで平和的解決に向けた外交努力を支援することです。軍事行動がそれに逆行するなら、見直すべきだ。」

渡辺官房長官は同意する。「総理のおっしゃる通りです。私たちの最優先事項は、この地域の平和と安定を維持することです。そうした意味で、斉藤防衛大臣との対話を重ねて、彼の考えを理解し、必要に応じて調整していくことが重要だと思います。」

藤田総理は納得した様子で、「そうだね。斉藤大臣ともっとコミュニケーションを図り、意見を聞いて、適切な判断を下していかなければならない。」と述べた。

斉藤防衛大臣は副大臣・高倉慎造(タカクラシンゾウ)と会話している。
斉藤防衛大臣が所属する桜井派は、伝統的な価値観や文化を重視し、国家主義的な政策を支持している。
彼らは、自衛隊の強化や国防政策の強化を訴え、外交政策では力強い姿勢を示すことを重要視している。

斉藤大臣は高倉副大臣に対して、中華連邦と臺灣民主共和国の間の軍事的緊張について言及する。「高倉君、中華連邦と臺灣民主共和国の緊張が続いている。我々は日本の安全保障の観点から、積極的に関与するべきだと考えている。」

高倉副大臣はうなずき、「斉藤大臣、私も同意見です。我が国の安全保障にとって、中華連邦と臺灣民主共和国の対立は無視できない問題です。このまま何もしないで、事態が悪化すれば、日本も巻き込まれる可能性があります。」

斉藤大臣は力強く言葉を続ける。「だからこそ、我々は自衛隊の強化に力を入れるべきだ。さらに、米軍との連携を深め、共同で臺灣民主共和国周辺での軍事演習を行い、中華連邦に対して我々の決意を示す必要がある。」

高倉副大臣は慎重に言葉を選びながら質問する。「しかし、軍事演習を行うことで、逆に中華連邦との緊張が高まるのではないでしょうか?」

斉藤大臣は即答する。「緊張が高まるかもしれないが、今の状況では、我々の姿勢を明確に示すことが重要だ。力を持ってこそ、平和を守ることができる。我々は、国家の安全を守るために、積極的な行動を取らなければならない。」

斉藤防衛大臣はSTEAドローンについて言及する。「最近、STEAドローンが注目されている。これらのドローンは無差別攻撃の危険性をはらんでいる。しかし、同時に、こういった新しい兵器に対応するために、我々は技術の進歩を怠らないことが重要だ。」

高倉副大臣は続けて、「そうですね。そして、我々が臺灣民主共和国に天風を供与し、技術協力を行うことで、彼らの防衛能力を向上させることができます。同時に、我々も彼らと共同で技術開発を行い、自衛隊の能力も向上させることができるのではないでしょうか。」

斉藤防衛大臣は同意する。「まさにその通りだ。我々は、中華連邦との緊張が高まる中でも、同盟国である臺灣民主共和国を支援する必要がある。また、彼らと協力して、自衛隊の能力をさらに高めることで、我々自身の安全保障も確保できるだろう。」

斉藤防衛大臣は、さらに話を進める。「我々は臺灣民主共和国との関係をさらに強化するため、特使を派遣することを提案しよう。桜井派の議員である八神篤史(ヤガミトクシ)さんはどうだろう。彼は国際政治に精通しており、また、我々の考え方にも理解がある。彼を特使に任命することで、臺灣民主共和国との信頼関係を築くことができるだろう。」

高倉副大臣は、その提案に賛成する。「八神議員は確かに適任ですね。彼が特使として臺灣民主共和国に派遣されれば、我々の意向も正確に伝えることができるでしょう。この提案を実行に移すことで、日本と臺灣民主共和国の関係をさらに強化することができると信じています。」

斉藤防衛大臣は満足げにうなずき、「では、速やかに八神議員に連絡して、特使としての任命を打診しよう。我々は、中華連邦との緊張が高まる中で、同盟国である臺灣民主共和国との関係をしっかりと築いておく必要があるのだ。」と力説した。

高倉副大臣は執務室を出る。やれやれと思う。八神氏は桜井派の中でも強硬派と言われる人物だ。そんな人を特使に派遣すれば、火に油を注ぐことになりかねない。もしかしたら、これが斉藤防衛大臣の狙いかもしれない。彼の権力基盤を強化するために、緊張感を利用しようとしているのかもしれない。

軍事演習にしてもそうだ。米軍の賛成を前提とした軍事演習を行っている。しかし、その演習は本当に米軍の意向に沿っているのだろうか。もし米軍からしごを外されてしまったらどうするのか。そのような事態になれば、日本の安全保障は一気に崩れ去ってしまう。

高倉副大臣は独り言を漏らす。「斉藤防衛大臣の考え方には危険な部分がある。彼の政治的野心のために国の安全が犠牲になることがあってはならない。何とかして彼の動きを抑える方法を見つけなければ…」

心の中でそう決意する高倉副大臣は、これからどのような行動を取るべきか、慎重に考えることにした。これからの動きが、日本の安全保障の行方を左右することになるかもしれないのだ。

臺灣民主共和国への出発の日が来た。八神篤史議員の訪中に合わせての出発だ。純礼、啓太、貴仁の3人は同じ政府専用機に搭乗することとなった。

要人専用の出発ゲートから搭乗する。見送りに来た播本ありさと、ありさの父・播本潤はと純礼、啓太、貴仁と会話する。

「気をつけてね。」ありさは純礼たちに笑顔で言った。「そして、無事に戻ってきてください。」

「ありがとう、ありさ。」純礼は彼女に感謝の言葉を述べる。「心配かけないように頑張るから、待っててね。」

啓太も貴仁もありさに感謝の言葉を述べる。播本潤は深刻な顔で3人に言葉をかける。

「純礼君、啓太君、貴仁君。これから向かう先は非常に厳しい状況だ。危険がいっぱいだろう。しかし、お前たちならきっと大丈夫だ。任務を全うし、日本に帰ってこい。」

純礼は播本潤に頷き、「わかりました、播本さん。必ず帰ってきます。」と誓う。

3人は八神篤史議員とともに政府専用機に搭乗し、臺灣民主共和国へと向かう。ありさと播本潤は見送りの場所で手を振り、機体が空へと消えるまで見守る。そして、純礼たちが無事に帰ってくることを祈りながら、空港を後にした。

臺灣民主共和国に到着した。到着後、迎えの政府専用車を待つ間、音道貴仁は八神篤史にあいさつする。

「八神さん、はじめまして。高田重工業の音道貴仁です。よろしくお願いいたします。」

八神が所属する桜井派は、伝統的な価値観や文化を重視し、国家主義的な政策を支持している。彼らは、自衛隊の強化や国防政策の強化を訴え、外交政策では力強い姿勢を示すことを重要視している。高田重工業には良い印象を持っていないようだ。このため、八神は貴仁に高圧的な態度で応じる。

「音道さんね。桜井派としては、高田重工業が作り出す兵器に対して懸念があるんだよ。特に、あなたたちが提供するPT-RFID技術については、どうして消極的なのか、理由が知りたいね。」

貴仁は不愉快な思いをしつつも、冷静に受け答えする。

「八神さん、PT-RFID技術に関しては、確かに慎重な姿勢を取っています。しかし、それは技術が悪用される可能性を考慮し、適切な対策を講じたいという意図からです。私たちは、技術の利用者が国際法や人道を遵守することを確認した上で、提供を検討しています。」

八神は少し考え込むが、貴仁の説明に納得しない様子であった。

「それでも、我々から見れば、高田重工業は国益を最優先に考えていないように映るんだ。」

貴仁は八神の言葉を受け止め、深くうなずく。

「八神さんのおっしゃる通り、我々高田重工業は国益を重視しています。しかし、それと同時に、国際社会での信頼を築くことも大切だと考えております。技術提供に関しては、国益と国際社会での信頼をバランス良く両立させることが、最終的には我が国の利益になると信じております。」

八神はしばらく無言で貴仁の言葉を聞いていたが、最後には重いため息をついた。

「分かった、音道さん。あなたたちの考えには理解できる部分もある。しかし、忘れないでほしい。時には強硬な姿勢を見せることも、国益にかなうことがあるんだ。」

「ご意見ありがとうございます。その点も十分に考慮して、我々高田重工業は今後も技術提供に関して慎重に判断してまいります。」

八神と貴仁達3人は別々の車に乗り込み、臺灣民主共和国国防省の庁舎へ向かった。貴仁達が乗った車内では、純礼が貴仁に対してねぎらいの言葉を述べた。

「貴仁、さっきの八神さんに対する対応、本当によく我慢できたね。あの状況で冷静に説明できるなんて。」

貴仁は苦笑しながら答えた。

「まあ、こういう場面でも冷静でいなければ、最悪の結果につながることもあるからね。」

その一方で、啓太は八神の態度に怒り心頭の様子であった。

「あの八神篤史、いい加減にしてほしいよ。自分たちの考えを押し付けるだけで、他人の意見に耳を傾けようとしないなんて…。」

純礼も啓太の気持ちに同意する。

「確かに、あの態度は問題があると思うわ。でも、彼らも自分たちなりに国のために考えて行動しているんだと思うの。だから、せめて我慢して対応していかなくちゃね。」

啓太は純礼の言葉にうなずき、貴仁に向かって謝罪の言葉を述べた。

「ごめん、貴仁。ちょっとカッとなってしまって。でも、これからもお互い協力して、無事に任務を終えられるよう頑張ろう。」

貴仁は啓太の言葉に微笑み、力強くうなずいた。

車は国防省の庁舎に到着し、貴仁たちはこれからの任務に備え、緊張感を抱えながら庁舎へと足を踏み入れた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?