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東京万景「自惚れ爺さん、目黒事務所で興奮す」

今日の目黒での打ち合わせのお題は、AI監査システムについてでした。AI監査システム? 何でしょう? 僕はITの素人なので、打ち合わせでは、ただの傍観者に過ぎません。素人が何のために参加しているかというと、僕が素人なりの意見を言うからです。素人の意見は参考になるのです…と思います(笑)。

打ち合わせが終わり、雑談に入ったのですが、Mさんが僕に「ねぇ、君は、今、他にどんな仕事をしているの?」と聞くので、「今は絵を描いています」と答えました。

「絵?」
「はい、僕って基本的に絵は下手なのですが、最近、何だかやる気が出てきて…」
「やる気?」
「はい」
「で、どんな絵なの?」
おお、Mさん、僕の話を聞く気になっている。日頃の『何もしていない』と思われているであろうこと鬱憤を晴らす時が来たな。僕が実は芸術家であることをアッピールしなくちゃ。
「あのですね、100円ショップから5枚組ボール紙を買ってきて、それに線を描くんです」
「線?」
「そう、つけペンにインクをつけて、線をガリガリガリガリって描くんですね」
「それから?」
「Mさん、文具屋の店先…ペン売り場にはお試し書きメモが置いてあるじゃないですか?」
「うん」
「アレを見て、感じるでしょう…こう…」と、Mさんを芸術家のように“オレは芸術家だっ”という雰囲気で睨みつける。
「おお、どうかしたの?」Mさんがひきはじめる。“あ、こりゃヤバイ。芸術家としての威厳を見せなくちゃ”と考えて自分を落ち着かせる。
「アレって美しいでしょ?」
「落書きのような、あの線が?」
「そう、アレは、集団の無意識が成せる…芸術なんですよ」
「ふぇぇ、そうなの? わかったから、ペンで描いたあとはどうするの?」
「今度は筆です」
「ふで?」
「そうです。太い筆を墨に浸けて、それを線の上にベローーーンっジャバジャバっと塗りたくるんです」
「それ、何を描いているの?」
「ああ、人とか風景とかの被写体・モチーフの話しですね? 僕はデッサン力がありません。絵を描く基礎ができていません。だからモノのカタチを掴もうとすると、ダメなんです。しつこいようですが、もともと絵の基礎ができていませんからね。カタチを描こうとするとヘタがバレちゃうから、まあテキトーに描いた後に…」
「テキトーに? へえ~」

鉛筆の削りカスもバラ撒いているから汚いな(゜Д゜)

「20年前のリキテックスや木工ボンドでゴツゴツしたマチエールを造るんですね」机をバンっと叩く。「20年前のリキテックス? マチエール?」「リキテックスってのはアクリル樹脂絵の具です。僕って絵が下手だったんで、20年前に絵を描くのが嫌になってですね…。絵の具なんかを押し入れの奥にしまい込んでしまって…。まあ、20年も経つと絵の具も劣化していますけど、お金がないので、そのまま使ってマチエールを造るんです。マチエールってのは、うーん、滑らかな平面に凹凸を造るんですよ」「凹凸? それってどんな意味があるの?」「自然にできた錆とか経年変化した汚れとか剥離した塗装ってボコボコガサガサしてて美しいじゃないですか?」また机を叩く。

マチエール看板(笑)

「え、錆や汚れが? そうかなぁ…」「美しいんですってばっ!」興奮して机をバンバン叩いちゃう。「わかった。わかった。興奮するんじゃないよ。できたモノはどうするのよ? 売るの?」「ボール紙の上には岩肌のような隆起ができて、これが実に芸術的なのですっ!」また机を叩いてしまう。「興奮するんじゃないって言ってるでしょ? もう、わかったから、できたモノは売るのかって聞いているのよ」Mさんは急にオカマみたいな口調になっちゃう。でも彼はオカマじゃない。「メルカリにでも売りに出しますか?」と笑う。冗談です。

「来年は66歳になりますから、もう死に時ですね。寿命がいつ尽きても不思議ではないんです。だから、焦っちゃうんです。うわ、今まで生きてきて何もしてない。うわ、どうしよう?って焦っていると。もう何かせずにはいられないんですね。だから、絵というかボール紙芸術に目覚めたんですよ」
「ボール紙芸術…安っぽくて、いいねぇ」
「まあ、死ぬまでの趣味です。最低の貧乏年金暮らしでも良いんです。金にしようと思っているんじゃないんですよ。こんなもの誰も買いませんよ。まあ、線を描いたり、絵の具を塗りたくったりしているのが僕の快感なんです。残る人生を充実したものとするための趣味なんですよ」
「なるほどね。僕も2冊本を出すからね」Mさんが笑う。
「Mさんは本を出すんだからいいじゃないですか。僕のは陽の目を見ない、ただの趣味なんですからね」

打ち合わせが終わり、自宅に戻るために目黒駅に向います。今日は本当に天気が良くてキモチが良かったですよ。

今日の目黒駅 権之助坂側

かみさんからLINE連絡「ダ-ヴェントのペンシルケースとスケッチブックが届いたよ」と書いてありました。

ダーヴェントのペンシルケースと小型のスケッチブック



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