選挙野郎!!第1話 「参議院議員選挙の肆」
…
「ほい、コーヒーです。田辺さん、砂糖とミルクいらないんでしたよね」村野が両手にコーヒーが入ったカップを持ってきた。
「あ、はい、覚えていてくれたんですね」
「当然でんがな」村野が僕の肩をポンと叩いてニッカリと笑った。
「田辺さんってネットが得意なの」稲田がズズゥっとコーヒーをひと啜りながら、また睨んだ。怖い。ん、ネットが得意?何だか変な質問だなと思いながら、「いや、僕はネットもパソコンも得意じゃないです、どちらかというと嫌いな方ですよ。ただ、そういう仕事ができればいいなぁって、いろいろと企業さんのネット通販のお手伝いをしていたりするんです」
「ふぅん…でもSNSのフォロワーは多いんでしょ」
「いえ、いえ、僕は有名人ではないのでフォロワー数は1万5千ちょいだけですよ」
「へぇ、有名人ってどのくらいなのよ」稲田はまたコーヒーをズズッっとひと啜りした。
「そうですね、数十万とか数百万とか…」
「へぇええ、随分と暇な人間が多いんだなぁ」
「んでね、田辺さんにはやってもらいたいことがたくさんあるんだよ…」
「はぁ」
「何でもやれますよ、田辺さんは、ねぇ」村野が揉み手しながら僕を見た。
「あ、いや、できないことの方が多いですよ」謙虚な姿勢を見せたが、本当のことだ。
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また欺された。何がネット選挙だ。ただの雑用担当だ。選挙活動員たちの弁当購入から、電話勧誘、駅頭(車の運転、政治家のスピーチの際の人の動線整理、パイロン立てなどなど)、千葉県各地への看板立て…。これのどこがネット選挙なんだ。ふざけんな。
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