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コロナ禍で「チェルノブイリ」、そして官僚制

 このドラマの絶賛の声を聞いて、見なきゃと思ってた。結論からいうと見てよかった。原発の在る日本に居る人は見ておくべきだと思った。日本の原発は安全につくられて、しっかり管理されていると思いたい。けど、少なくとも311以降は手に負えなくなかったことが証明されたわけだから安心はできない。こういうリスクと共にある電源ということはもっと語られるべきと感じた。このチェルノブイリの事故は設計上の不具、そしてマネジメントの問題がかさなって起きてしまった。はっきりいって人災だ。事故が大きすぎる場合、手に負えないから結局誰も責任は取れない。そのことを頭に留めておくしかないと思う。忘れない工夫をするしかない。

 そんな気持ちにさせたのはとんでもなくリアルな描写だった。被曝した人の症状を直視することができないほどだった。恐怖や不安を繊細に再現していた。放射能は傷や隙間から入ってきて細胞を壊していく。画面を通して、見ている僕も何度も鳥肌が立ったし、あまりに辛くて何度となく早送りしたくなった。
 「顔がなくなっていた」という衝撃の台詞があって、まさに誰かわからなくなるほどに皮膚が爛れて、仕舞いには皮膚と呼べるものは無くなっていった。言葉が出ない。
 ある青年消防士は何も知らされずに、単なる消火作業と思って事故の初期消火にあったった。彼がひどい状態で死にゆくとき、彼の妻が寄り添い手にキスをする。彼女は被曝しながらも、そんなことは気にもせずそこに居る。愛と死が隣り合わせで、美しさと惨さがひと塊となっているシーンだった。

 緊急事態宣言下で見たこの番組は、どうしても現状と重ねてしまった。放射能と新型コロナはともに見えない存在なのだった。被害の広がりや症状などに違いはあれど、どちらも見えないものに対して正確に認識する術が必要になる。そこは科学的な手段に頼るしかない。そうやって見えない相手の現状を把握しなければならない。けれど、組織にヒエラルキーがありすぎるとメンツを気にしたり忖度が働いて情報の伝達はうまくいかない。現実を都合よくねじ曲げられることもある。
 そうやって繰り広げられるシーンの連続から、国家や官僚機構について考えずにはいられなかった。国は誰のためにあるだろうか。国民のためとは思えなかった。上部にいる人は富や名誉ばかりを気にしながら実態を見ない。思考と視点が固まっている。そんな組織であれば腐っていくのは当然だろう。現場の事実から目を背けて、上層部のの意見が是とされる。
 そんな国家であっても結局は人の集まりでしかない。そのことがなんとも切ないし、やりきれない。国家という存在は何も解決してはくれない。事故の後に対処の指針を示してくれても、現場で状況を収めるのはヒーローでもなんでもなく、一人ひとりの国民になってしまう。ロボットさえ動作できないほどの高い放射線を浴びながら、後の世代を救ったのはなもなき作業員たちだった。そこで失われる命を誰も責任は取れない

 チェルノブイリの原因は、設計ミスと操作上の判断ミスがかさなったものだった。前者は、コストダウンのための設計にミスがだった。さらに政府は承知していて、その事実を隠蔽していた。後者は、原子炉の実験運転というイレギュラーな状況にもかかわらず、状況を知らされてない技師たちに担当させた。途中で異変に気づいたものの、失敗を恐れた上長が異変を無視して誤った指示を行った。そういった不運の連続があっての事故だから責任は誰にあると言えるのか。これはどうみても仕組みの問題だと思う。ヒエラルキーが明確な組織のデメリットが、最悪なかたちで露呈した。どこの組織でも、どの国でも起きる普遍的な問題だと思う。

 ちょうど官僚型組織について考えていたとき、ラジオでまさにその問題を取り上げていて参考になった。かなりかいつまむと、政治や官僚機構に緊張感を持たせなければいけない。そのためには政権交代の可能性が在る状態であることが求められる。そうでなければ内閣も官僚もズブズブな悪しき関係となり、彼らの都合で施策が打たれてしまう。
 そこに国民の姿はない。緊張感を出すためには、メディアもしっかり報道していく必要があるし、僕らも関心をもち、政治をしっかり見ていくしかない。ごく真っ当な結論になってしまうのだけど、それしかない。

 そういう意味で言えば『貧乏人の経済学』に書かれていた「3I」つまり、イデオロギー(Ideology)、無知(Ignorance)、惰性(Inertia)そのものだ。中心人物が固定化された組織にはイデオロギーがあって、その外部に対しても無知を引き起こしやすく、そんな状態は惰性で続いてしまう。
 変化を起こすため、政治に緊張感をもたせるためにも、オン/オフラインで、声を上げる、声を上げる、声を上げる、これしかないと思う。

#荻上チキ #セッション22 #TBSラジオ #チェルノブイリ #海外ドラマ

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