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三十八歳。これからなのか?

 ある歳上のBL作家の先輩がかけてくれた言葉がある。

「ばきさんはこれからの人じゃない」

 申し訳ないながら、私はこの言葉が全く腹落ちしなかった。
 これから? 私はもうすっかり「余生」の世界にいるとばかり思っているのに。

 しかし人生百年時代。確かに三十八歳というのはまだまだ折り返しにも満たない年齢だ。まあ折り返しの五十歳を過ぎたあとの健康寿命は実に気になるところであるが、確かに三十八歳というのは「これからの人」なのかも知れない。

 さて。「これからの人」である三十八歳中年期入口の私であるが、やりたいこと、特になし。やれること、特になし。不健康。無職。当然のこと金もなし。ないない尽くしで隣の青い芝を眺めているルサンチマンおばさんである。これが「ミッドライフクライシス」というやつか。ぐぬぬ。

 記事によると、中年期は「人生の正午」にあたるとある。「この昼から夜への転換期となる中年期(40代~50代)は人生の終盤に差し掛かり、これから何かを成すというよりは、『人生をどう終えるか』という視点を持ちやすくなることから、残りの人生のあり方を考えてプレッシャーに感じたり、自分のこととして受け入れがたくなったりするという人が多い」とも。
 私はまだ三十代なので「ミッドライフクライシス」を名乗る(?)には少し早そうだが、「人生をどう終えるか」という終活についてではなく、暇さえあれば「あー、今すぐ世界滅ぼす方法ねえかな」とアホみたいな人生即終了法を考えている。自分一人が終わるのは残された家族や友人の負担があまりに大きいので避けたいが、いっぺんに全部が終わるならその心配はないからだ。暇も極めるとかくもアホになれるのかと我ことながらちょっと感心する。

 とにかく毎日毎日、何をする気も起きないことに焦る。ありあまる時間の中、歪んだ認知で自分と向き合わなければならぬのはなかなかに苦痛だ。概ね寝てたまに起きる日々というのは字面よりもかなり苛烈だったりする。このエッセイも、調子の良い時に一週間かけてちょこちょこ書き進めているものであるが、毎度あまり明るい話にならないのを申し訳なく思う。

 とにかく、持病の影響か何か知らんが今の私には自分が「これからの人」であるのを考えるのが困難だ。学習性無気力でずーんと重たい気持ちになってくる。三十八年生きてきて、成功体験と呼べるものが思い浮かばないのだ。

 就職しても長続きせず職を転々とし、すぐメンタルに不調を来す。強いて言えば作家デビューがそれ(成功体験)にあたるのかも知れないが、その後の経歴を辿れば成功より失敗の方がよほど多い。せめて結婚生活くらいは円滑に歩んでいきたいものだが、私は甲斐性もなければ家事も不得手である。ハウスキープが絶望的に下手くそだ。何をもってすれば残りの人生を「これからの人」などとして活躍できようか。

 しかし実際問題、このままルサンチマンを拗らせながら過ごすには人生はあまりに長すぎる。「これからなのか?」ではなく実際「これから」なのだ。正直しんどいが、何もせずに過ごすことは許されない。少なくとも、いま受給している失業保険が切れるまでには職を見つけなければならぬ。それまでにはどうにか持病の寛解へ目処をつけたいものだ。
 そのために、今日も私は頓服の安定剤を服用し昼間から概ね眠る。(更新は朝の九時だが、この文章を書いているのは十六時過ぎだ。夕方は特にメランコリックが酷い。布団をかぶってやり過ごすに限る)

 起きた。二十時を過ぎている。夕食の支度をしなければ。体が重い。過剰飲酒を繰り返していた時の癖でまずはオールフリー(内臓脂肪に効くと謳われているもの)を一本開ける。それなりに己を騙せる。

 夕食は冷しゃぶにした。帰りの遅い夫の分を取り分けて、残り物の野菜で自分の夕飯を済ませた。オールフリーも三本空けたので炭酸と水分で腹はパンパンである。ノンアルコール飲料ではあるが、プラセボで若干酔っ払ったような気もする。サントリーの企業努力には全くもって頭が下がりっぱなしだ。

 ところでそのサントリー様のお陰で若干気を取り直した私であるが、三十八歳、別に「これからの人」でなくてもよくねえか? と頭を過った。
 何を成そうが成すまいが私の勝手である。健康状態については家族や友人に心配をかけるのでなるべく良好に保ってしかるべきだろうとは思うが、「これから」だろうが「余生」だろうが、活躍しようがダラダラ過ごそうが私の勝手じゃないのかと。
 怖い怖い。危うく政治に踊らされるところであった。何が一億総活躍社会かと。やかましいわと。こちとら遊びでメンヘラやってんじゃねえんだと。まずはダラダラさせてくれ。

 ひとまず人様に迷惑をかけぬ程度に糧を得て、家族や友人に不義理をはたらかないようにだけは気をつけたいが、何かを成したくなったら勝手にするのでとりあえず私は常識や社会通念から距離を置かせていただきダラダラと余生を消費することとする。一億総活躍社会ちゃん、ばいちゃ!

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