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政治家に求められる資質

「俺、この国を変えなきゃと思ってるんだ。」
「俺の生まれ育った町が、もうじき無くなるんだよ。国はそれを放っておくのかよ」

利権と負の感情がとぐろを巻くこの政界を変えようと、自分は人生を賭けた志を持っている、と彼は口角泡を飛ばす勢いで語り続けます。

でも「変えなきゃいけない問題があるから、国会で勉強会を開いて問題提起をしたい」というこの手の話は、よく聞くし、ほぼ日常の景色のように目にします。「この手の話」なんて感じの悪い言い方ですが、議員秘書をしたことのある方だったら「だよねー」です。秘書はこのような相談事や陳情を毎日のように受けています。

陳情というのは「何か実現したいけれども上手く進まないことに関して、議員の政治力でもうちょっと後押しをしてほしい」というもの。単刀直入に言うと「こっちに我田引水よろしく頼みますよ!」ってこと。この陳情案件がグレーなお金がらみでなければ、別に法律違反でも何でもありません。国会議員は日本中の全国民の代表ですから、お願いを聞くのは仕事のひとつなのです。


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実現可能性を問わず、陳情はその種類も内容も境目なく毎日やってきます。特に、シーリングといって省庁ごとの予算要求の枠を決める8月ごろは、絶えることはありません。ですので、この季節に議員会館にいる秘書たちの仕事の大半は「陳情受付」です。ドアがノックされるたびに立ち上がり、「はいはい、お待たせしました」と扉を開けます。

✓ 小学校の前の歩道に信号をつけてほしい。

✓ 市の体育館の空調が壊れているから災害時に避難所として使えない。
  市には費用がないのでなんとかしてほしい。

✓ 漁協の人材がいない。
  県外から若手を流入させたいのだけどそこに補助金をつけて欲しい。

✓ 高齢率が60%の村で病院も路線バスも無くなった。
  週に3回でいいから県の方からバスを回してもらえないだろうか。

✓ 女性差別を解消してほしい。
  自分の会社は給与も休暇も男女差別が激しい。
  この意識を会社の社長と役員に理解させたいのだけど、
  議員連盟などがあればそこに出席させたい。

✓ 海外並みに女性の国会議員を増やすクオーター制を目指すNPOの活動をしている。日本の現状を変えるための勉強会を開いてみんなに聞いてほしい。議連を作ってほしい。


陳情や意見表明は、このようなものから、署名の束や個人的なものまで、ありとあらゆるものがやってきます。秘書はそれを受けて、議員に報告し、活動につなげるものについては仕事として取り組んでいきますが、議員の政治思想とあわなかったり、そもそも受けるべきでないものは、その後丁寧にお断りすることもあります。

そんなこともあり、陳情や意見表明の機会を求めるべく、私のところにも問い合わせがくることがあります。

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政治家になりたい風アピール


さて、冒頭の彼の「悩み相談」は、そんな「問い合わせ」のうちの一つでした。元々私が17年ほど前から参加してきた、赤坂の街興しの会の関係で知り合った方で、大手企業のエリートで、エネルギーのあるイケメン。彼の周りにはいつも人が集まり、SNSでの発信にもタレント並みに「イイね!」がつきます。もうこれだけで立候補できそうな風体ではあるのですが、彼には決定的に足りないものがありました。

彼は、やっていることも言っていることも格好が良くて、周囲にはいつも人が集まります。ですからどんなイベントも彼が中心になってくれさえしたら、人は集まるのです。でも、私が気になっていたのは、人が集まったあとのことでした。人が集まると、必ずトラブルが起きます。どんな集団でも3人集まると大なり小なり問題が発生して、それを解決しなければならなくなりません。彼が政治家を目指していることを知っていた私には、その集団で面倒くさいことが起きた時、彼がどんな対応をしてきたのかが気になっていました。彼には癖のようなものがありました。何やら風向きが怪しくなると、ふっとその場から居なくなるのです。それも音もたてずにふわっと消えます。そしてその嵐が治まるまで姿は見えなくなります。で、落ち着いてきたら「ずっとそこに居た」風にふわっとその場に戻っているのです。

私は陰で「うまいなぁ~!」と唸っていました。まるでどこかの政治家のようです。自分に不利だと思った瞬間、その場から消えるのは、先を読む能力がなければできる技ではありません。彼はその技を持っていました。じゃぁ条件は揃っているのかというと、そこは違うのです。

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大事な要素が欠けていました。それは、問題解決をする気は持ち合わせていない、ということです。政治は、あらゆる難題に立ち向かうのが仕事です。例え、99対1の意見であっても、その「1」を切り捨てるのではなく、どうやってその「1」を取り込み、多数決だけではない民主主義の実現に向けて闘い、調整するのか。これが政治家の仕事です。彼には「華」はありました。でも問題解決に立ち向かう気概はほぼゼロでした。たぶん、彼には「政治家として生きる覚悟」が無いのだと思います。少なくとも私にはそう見えました。

彼の発言の底にあるのは「いつか俺を当選させてくれ」でした。私はそれに気が付いていました。どんな場での言葉もどんな相談事も、私に向かってくるときは常にこの「いつか俺を」が底に流れていました。でも彼は政治家に向いていないとしか思いようがありませんでした。問題解決に向かう覚悟がなかったからです。

政治家の覚悟

政治家は難題を突き付けられた時に、それを腹に抱え込んだまま、黒も白も飲み込み、自らを汚してでも解決に持ち込んでいく度量が求められます。時には公職選挙法違反に近い状況になることもあるかもしれません。犯罪は本末転倒。絶対にあってはなりません。だからこそ、そのギリギリを泳ぎ切る能力が、資質に求められているのが政治家という仕事なのだと思うのです。

「街を変えるために議員連盟を作って活動してください」とか言っても何も変わりません。その利権にどう切り込み、自ら手を汚しながらも泥を取り除き、切り開き、膿を出し、問題を解決し、新しい道を作ってゆく。この清濁併せ呑む覚悟があるかどうか、ここが有るか無いかだけは確認しなければならないと思うのです。

今の政治状況を懸念しつつ、未来の政治家にこんなことを期待しながら、今回の彼の暗黙のご相談には、暗黙のうちにお断りを入れました。どなたか、志と覚悟のある方がいらっしゃいましたら、これまでの経歴やキャリアなど全く無用です。お問い合わせください。

今日はこんなお話でした。


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