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心の折れやすさに気づいて成長した、 ある議員秘書の思い出

【お悩み相談お答えしますvo.3】

私の会社は、議員秘書の人材紹介をしています。これまで、数百人の議員秘書希望の方と面接をしてきました。その中でこんな人がいました。

秘書希望の方との面接時間は通常は15分ほどです。短い時間の中で私が確認するのは、議員秘書としての基本的な素養が備わっているかどうか。

議員秘書といっても、政策や立案だけをするとは限りません。社会人としての通常の仕事のスキルを身につけているか、電話を受けたり、スケジュールの調整をしたり、来客応対ができるかを確認します。そして、車の運転はできるか、パソコンは?SNSはどうだろう。こんなどこの会社でもしそうなありきたりの内容を伺う中から、その人の特徴や、気になるところを確認してゆきます。

もう何年も前のことですが、面接が途中から「相談」になった印象深い面接がありました。

面接に来たのは30代半ばの男性でした。
面接室の扉を開けると、中で待っていたのは、がっしりとした体格の男性でした。その方は、私を見ると椅子から立ち上がり、顔をあげて名刺交換をしました。私の第一印象は「真面目そう」でした。「真面目」なのは議員秘書には大切な要素です。交換した名刺は机の上の名刺入れの上に置かれ、ビジネススキルも身についているようです。

この時点で、第一関門通過。

私は手元に準備していた履歴書と職務経歴書を取り出しました。

彼は、地元の高校を卒業し東京の大学を出、中堅の企業で社会人生活の第一歩を踏み出しています。

でも、あれ?

30代半ばにしては、職業欄が長い。見ると転職歴が5回ほどあります。その転職歴の長い履歴書は一見して「忍耐力のない人」を現しているように見えます。彼は平均すると2年に一度転職している計算。でもなんだか目の前に座っている「真面目そう」な印象とマッチしません。私はこのズレが気になりました。

議員秘書を志望する理由を聞いてみました。すると、彼は人を支える仕事がしたいと言います。自分は裏方が向いている。世の中に貢献する人の下で働きたい、と。良く準備された受け答えでした。

そして、裏方が好きだという理由を聞くと、彼はこう言いました「表舞台は苦手だから」と。その後からです。中学校では野球をやっていたというのも頷けるガッチリとした肩が、話を進めるにつれ、小さくなっていくように見え始めたのです。


高校ではバスケットボールとハンドボールをやった。
そして大学では資格の勉強を始めたのでスポーツはやめた、と。
履歴書の資格欄にあったのは、普通自動車の免許の記載だけ。
「資格試験は?」と聞くと、蚊の鳴くような声で
「司法試験は1年であきらめたので、司法書士になろうとしたのだけど、
上手くいかなくて」と。

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もうほぼ涙声。私は自分が司法試験に3回落ちた話をして、少し元気づけようとしていました。目の前の彼は今にも泣きだしそうだったのです。

その方はご両親にとって最初の子で、ご実家はその地方でも歴史のある家。両親だけでなく、一緒に暮らしている祖父母にも可愛がられて育ったことを彼は話しだしました。

ははーん。

私はちょっとわかった気がしました。
彼はチャレンジしてもゴールまでやり切ることができないタイプの人なのかも。

小さな頃から大切に育てられた人で、こんな風に育つ人がいます。
それは、小さな頃から「転ばぬ先の杖」がいつもあった子。小さなうちは怪我もなく無事に過ごすので、何か不自由があるわけではないのですが、成長して親の手元から離れた集団生活が始まると、その子は生まれて初めて「転ばぬ先の杖」が無い場面を経験します。その子にとっては初体験の「失敗」が毎日たくさん現れます。これまでそんなことを経験したことのない子は、ここからちょっとした失敗が異常に気になってくるのです。


失敗に対する耐性が低い。


こういうタイプの子はとても愛されて育っているので、自分以外のできる人に嫉妬したり、意地悪をしたりなどということはありません。心は丈夫なのです。でも、他の子どもよりもずっと傷つきやすい、というか、常識でははかり切れないほど折れやすいのです。

例えば、鉄棒の逆上がりにしても、最初からできる子はいません。どんな子も、練習してできるようになります。でも、彼は「できない」ということがあるという事実に簡単に傷ついてしまいます。それまでは、誰かがこっそりお尻を持ち上げてくれていたので「できない」ことは無かったのですから仕方がありません。

中学高校時代に立派な体格を活かしたスポーツが続かなかったのは、これが理由でした。身体が大きいのにシュートが決まらない。練習したのに試合ではできない。みんながガッカリしている姿を見るだけでもう耐えられなくなって部活は辞めてしまった。
最初の就職から転職までの経緯も、聞いてみるとやはり原因は同じでした。目標が掲げられると、そこに至るずっと手前の小さな失敗に気持ちを削がれてしまうのです。

真面目な性格ですから、掲げられた目標や、指示された仕事は頑張ってチャレンジします。でも目の前のできごとに気持ちが振り回されてしまい、成果が出るまでチャレンジし続けることができないのです。


ここから、その時間は「面接」ではなく「人生相談」になりました。

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彼は典型的な「折れやすい人」でした。
折れやすい人は、何かにチャレンジしたとき、結果に至るずっと手前の小さな成功や失敗に感情がもっていかれます。小さなことでとても喜んだり、些細な失敗で激しく落ち込んだりします。

逆に、折れにくい人は、淡々としています。途中でちょっとした成果が出ても、大喜びしません。それは望まない成果が出てしまった時も同じです。不必要に落ち込みません。何かあってもなぜ失敗したのかを冷静に素早く分析しようとします。

結果がついてくる人は、望む結果がでるまであっけらかんと失敗を続けます
それは、なんでも続けさえしたら、いつか必ずできるようになるということを信じているからです。だから多少の失敗があっても、落ち着いていられるのです。

上手くいく人の特徴は、
1.目の前の結果に一喜一憂しない。
2.続けさえしたらいつか必ずうまくなると信じることができる。


彼は、私の前で泣きながら話し続けました。
離職する度に悔しかった。失敗する自分が情けなかったこと。その度に両親をガッカリさせてしまった。だからこそ、次は議員秘書にでもなって、両親を喜ばせたいと思ったのだ、と。このあたりでは、もうしゃくり上げて泣いていました。彼はこれまでずっと失敗する自分を責め続けていたのです。


彼が元気になるのはカンタンです。
今はまだ成功への道の途中である、ということを知る事。

人は皆、生まれたときは赤ちゃんです。寝ているだけだったのが、ハイハイができるようになり、立ち上がり、歩くことができるようになります。人によって多少の差はあっても、確実に成長していきます。そして、私たちは大人になった今も、同じように成長し続けているのです。

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「失敗は、成功に向かう道すがらにあるもの」
例え大失敗に見える出来事があったとしても、年を取ったときにはそれが武勇伝になります。世の中の偉いさん達は、昔の自分の冒険物語を語りたがりますよね。どれも過去の失敗ネタです。
だから、失敗は、年を取った時に冒険物語を自慢げに話すためのネタ作りをしているだけともいえるのです。

これを知っているかどうかだけで、失敗の捉え方が変わります。

私は、目の前でうな垂れる彼に「失敗って、成功に向かう途中にいるときにあることよ」と笑いながら伝えました。すると、彼はハッとした顔をしたのです。「え?途中なんですか?失敗が?」

今、目の前に起きていることは、些細な途中経過。
安心して前に進んでOK!


この後、彼はある議員事務所に運転手として採用されました。
そして2年ほど経ったある日、彼はアポなしで私のオフィスを訪ねてきました。久しぶりに見る顔は日に焼けて輝いていました。

その彼は私に名刺を差し出してこう言いました。


「鈴鹿さん、僕、運転手から『秘書』になりました!」


嬉しそうな顔はそれが理由でした。
そして「再来月にパーティーがあります!パー券買ってください!」と。
私は「それが理由で来たのね!」と大笑いしましたが、こんなことが言えるようになったのかと、思わず涙がこみ上げてきました。
嬉しい営業訪問でした。

人は、気がつきさえしたら、いつからでも人生を変えることができます。
今日は、こんな懐かしい人生相談の話でした。

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