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TRICK OR TREAT 〜ハロウィンにまつわるエトセトラ①〜

2002年10月31日の日記。
米国ヴァージニア州の片隅にある日系企業の現地法人で、日本人駐在員である「ぼす」の元、秘書兼通訳兼「やっかいごと よろず引き受け業」的な何でも屋さんとしてお仕事をしていた頃のお話。
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いよいよ今日はHALLOWEENである。
子供達がお菓子をねだりに出掛ける頃のお天気が少々心配ではあるが。

テレビのニュースでも気象状況の話題になるTRICK-OR-TREATERS が雨に濡れないといいですねぇ、なんて言っている。

HALLOWEEN の夜にはグロテスクな仮装や奇抜な格好をして子供達が近所の家の玄関を叩いては、お菓子をもらい歩く訳だが、その時の台詞が

TRICK OR TREAT!
(何かくれなきゃ悪さをするぞ)

そんな子供達を「HAPPY HALLOWEEN!」と迎え入れ、用意しておいたお菓子などの“TREAT”を渡すのだけれど、ケチな家や子供を追い返してしまうような家は生卵をぶつけられるなど“TRICK”をお見舞いされることもあるので要注意。まぁ実際あんまり悪さをされたという話は近頃耳にはしないけれども。

ともあれ、この「TRICK OR TREAT」の合い言葉で
お菓子をもらい歩くことを「TRICK-ORTREATING」といい、もらい歩く子供達のことを「TRICK-OR-TREATERS」と呼ぶ訳だ。もらったお菓子を入れるのは袋タイプの枕カバーが定番である。

ちなみに、文法的な話をすると前者は動名詞、後者は名詞として使われる。

【例】
 She’s gone trick-or-treating. 
 (彼女はお菓子をもらい歩きに出かけたよ)
 We had so many trick-or-treaters last year.
 (去年はお菓子をもらいに来た子達が大勢いた)

そして気になる HALLOWEEN の由来について。
諸説入り乱れてる部分があるので、はっきりしたとこは不明だけれど簡単にまとめてしまえばケルト人
(アイルランド人)の大晦日、10月31日ってのが
日本でいうお盆同様、死者が蘇る日で、それが後年
キリスト教の万聖節と融合して徐々に今の形になったってのが大筋のようだ。

もうちょっと詳しく書くと:

紀元前5世紀頃、CELTIC IRELAND (ケルト民族のアイルランド)では夏の終りを毎年10月31日に祝う習慣があった。この祭日は SAMHAIN(発音はサムウェイン/ソウェン。ケルト語で「END OF SUMMER」の意)と呼ばれ、収穫期の終りを祝うものだったとか。彼等の暦上ではこの10月31日が1年の終りであり、11月1日からが新年である。古代ケルト人は、夏が終わり暗く寒い季節に入れ替わるこの SAMHAIN の日には恐ろしい災いを引き起こす神々が人間の前に現れると信じており、「THE VIGIL OF SAMHAIN (THE LORD OF DARKNESS。闇の王者)」への捧げ物の準備に余念がなかったという。

年月が流れ、やがてこの大晦日にあたる10月31日は、年に1度「この世」と「あの世」がつながる日と信じられるようになった。ちょうど日本のお盆のように、死者の魂が家に戻り、便乗して悪霊や魔女もさまよい歩く日、という訳だ。何でも、2つの世界を隔てている壁が通常に比べてものすごく薄くなるらしく、この日には、魔力も強まるし、死者との交信もでき、また、将来を占うにも持ってこいだと考えられていたらしい。そこで村人達は「あの世」から帰ってくる亡霊や悪霊達に取って喰われたり、憑依されたりしてしまわないように、この日の夜には家中の灯りを消し、冷たい部屋の中で亡者達をやり過ごそうとしたそうだ。一方で、恐ろしげな仮装に身を包んで近所を練り歩き、逆に亡霊を脅して退散させてしまおうという村人達も現れるようになったと言われている。外では聖なるかがり火(BONFIRE)を焚き、火が消えた後に残った動物の骨で未来を占ったりもしたそうだ(bonfire = bone + fire)。このかがり火は悪霊を追い払う力があると信じられ、人々はこの火を持ち帰り、一旦消してあった自宅の炉に再度火を入れる為に使ったという。こうすることで悪霊除けというだけでなく、身内の魂が家を間違えずに戻ってくる為の道標にもなると信じられていたそうだ。日本のお盆に焚く迎え火に、良く似ている。

更に年月が流れ、亡霊に対する迷信がすたれた後も、このお祭りの儀礼的な側面として怪物や亡霊に扮するという習慣はそのまま残ったという訳。また、裕福な地主が小作人に食べ物を分け与えたことが現在の TRICK-OR-TREATING につながっているとか。気前の良い地主には返礼として翌年の幸運を祈る言葉がかけられ、ケチな地主の家には生卵や石が投げつけられたという。その後ローマ人のブリテン島侵略によって古代ローマの「果実の収穫際(果実の女神 POMONA の祭り)」が融合していったと考えられている。

HALLOWEEN という名前は11月1日に祝うキリスト教の万聖節、"ALL HOLLOWS DAY" (or "ALL SAINTS DAY")に由来する。ローマ人の侵略からさらに時代は下ってキリスト教が伝来し、すべての聖人と殉教者を記念するこの万聖節が始まったのは法皇グレゴリー3世の時代(731-741年)とされており、この前夜祭が ALL HALLOWS' EVE、すなわち HALLOWEEN である。新しい文化を受け入れさせるには、伝統行事を廃止せず、伝統行事に新しい意味を与えることで統合してゆく方がスムーズである。かつては5月に祝われていた万聖節を敢えてこの時期にしたのはキリスト教の戦略とも言われているらしい。やがて ALL HOLLOWS' EVE という名が短縮され Hallow E'en となり、現在の HALLOWEEN となったそうだ。

ともあれ、こうして長~い歴史の中で、古代ケルト人の儀式、ローマのお祭り、キリスト教の万聖節前夜祭が混ざり合い、徐々に現在の世俗的行事、HALLOWEEN となっていったようだ。

アメリカに住むようになって、今年で9回目の HALLOWEEN だった訳だが、今更ながらようやく由来を知ることができて何だか嬉しい。

来年からはますます HALLOWEEN が身近に感じられるかも。案外、知ってそうで知らないことって他にもまだまだ沢山ありそうだ。

まったくもって
Everyday is full of learning experiences.
ってことらしい。

明日は、番外編で「JACK」が登場する予定。
お楽しみに。

追: ちなみにアメリカには、アイルランド系移民が中心となってHALLOWEEN の習慣を持ち込み、定着したのが19世紀と言われている。
初期の頃には便乗した少年達のいたずらもひどく、
深刻な問題になったこともあったが、徐々に、仮装してお菓子をねだる子供の行事、という今日の姿に変化していったとか。

追記: この日記を書いた2002年当時、日本ではまだ一般的ではなかったハロウィンも知らないうちにすっかり定着した感がある。遊園地や商業施設のイベント、或いはコスプレしてパーティーを楽しむというのが浸透する中で渋谷の迷惑行為といった悪いイメージもおなじみになってしまった。アメリカでも仮装のネタは「何でもアリ」のコスプレ大会化しているけれど、それでもやっぱり「何で魔女でお化けで死神なのか」「どうしてお菓子をもらいに行くのか」「カボチャ提灯の名前がジャックなのは何でなのか」知らないより知ってる方が面白い。(参考文献が...記録してなくて不明。町の図書館で調べたことと語学学校の先生から聞いた話がベース)


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