Austrofoma 2019見学記
1.オーストリアへ行くための準備
2019年10月8日~10日にオーストリアの南東部(ハンガリー国境に隣接)にあるブルゲンラント州Esterhazy - Forchtensteinにて、Austrofoma 2019という林業機械展示会が開催されました。Austrofomaはオーストリアで4年に1回開催され、前回は2015年にリンツ近郊の山林で開催されました。この林業機械展示会の特徴は、現実の山林内で林業機械の実演が行われるところにあります。今回、この林業機械展示会と同時期にお隣のハンガリーで開催されるFORMECという国際会議に併せて参加しようと思っていたのですが、同行する筆者のヨメ(フィリピン人)のオーストリアビザ(シェンゲンビザ)を取るだけで精一杯でハンガリーへ行くのは断念しました。日本は今や先進国の中で最も貧しい国の一つですが、パスポートだけは世界最強とも言われるほどで、たいていの国にビザなし渡航をすることができます。一方、フィリピンのパスポートではASEAN諸国を除けば、アメリカやヨーロッパと言った先進国に行くのは非常に困難で、違法労働をするフィリピン人が多いこともあり、そういう国からは全く歓迎されていません。オーストリアビザの申請には航空券やホテルの予約なども必要になり、いわゆる格安航空券ではビザが取れなかったときにはキャンセルや返金ができずに、大金を失うことになります。そこで、キャンセルが可能なANAのマイレージを使って米子空港から東京経由でウィーンまでのフライトを予約するなど、最大限のリスクヘッジをしながらビザ申請の準備を進めました。Austrofomaの事務局から招へい状を送ってもらう必要もあったのですが、いい加減な仕事しかしてくれないので、時差がある中で何度もやりとりをして消耗しました。幸い、オーストリアビザは大阪にあるエージェントで申請することができたので助かりました。ハンガリーのビザを申請する場合は大使館のある東京まで行く必要があり、島根県に住んでいるとそれは時間的にもコスト的にも無理だったと思います。最終的にオーストリアビザは無事に発給されたのですが、もうあの分厚い書類の作成は二度とやりたくないと思っています。
地図-1 Austrofoma 2019の会場
2. Austrofoma 2019への困難な道のり
Austrofoma 2019に参加するための最初の難関は、日本と違って公共交通機関によるアクセスが準備されていないということです。そのため、レンタカーを使う必要が出てくるのですが、マニュアル車が当たり前のヨーロッパで車の運転をするのはもう自信がありません。特に、ウィーンのような路面電車が走っている街で左ハンドルのマニュアル車を運転する自信は全くなく、その点でもハードルが高い旅だったと思います。Austrofoma 2019が開催された場所はウィーンからそんなに遠いところではなく、毎朝早起きをするならウィーンのホテルから自動車で「通勤」もできただろうと思われます。しかし、車の運転に自信がなかったので、Wiener Neustadtという近隣の街のホテルに滞在することにしました。写真-1はウィーン・シュベヒャート国際空港にある格安レンタカー会社のU-Saveで借りた車です。自動車王国ドイツのオペル車なのでちょっと楽しみにしていましたが、実際に乗ってみた印象は、今どき見かけないポンコツ車ということでした。オーストリアでレンタカーを使うときの注意事項としては、高速道路の料金が定額制(サブスク)なので事前に日数分を支払っておく必要があるということ、一部の高速道路は定額制の対象外ということです。今回借りたレンタカーは、U-Saveが割安な年単位の高速道路料金を前払いしているのに、ユーザーに対しては割高な1週間単位の高速道路料金を請求するというシステムになっていました。U-Saveはその差額で追加的な利益をあげているようです。オーストリアにおける高速道路料金の支払い履歴はナンバープレートごとに管理されていて、高速道路上のカメラでナンバー読み取ることで、料金未払いの不正通行車両を見つけているようでした。このレンタカーは本来ガソリン満タンで貸し出されることになっていたのに、タンクのガソリンはほとんどゼロで、ガソリンは近くのガソリンスタンドで入れろと言われました。返却時にゼロで返したらレンタカー会社のちんぴらみたいなスタッフに「なぜ満タンにしていないんだ」と言われ揉めることになりました。U-Saveは二度と利用したくない会社です。
写真-1 オペル(ハンガリーナンバー)のレンタカー
筆者の抱える次なる問題は、糖尿病のため炭水化物を含む一般的な食事はほぼ食べられないというのがあります。そのため、レストランに行っても食べられるものはほとんどありません。幸い、ヨメが同行していたので、スーパーマーケットで買い込んだものをホテルの部屋で軽く調理してもらって食べていました。オーストリアはドイツが近いこともあってソーセージの品質がよく、炭水化物が極めて少ない良質なソーセージを茹でてサラダといっしょに食べると幸せな気分になれました。写真-2は今回の旅行でたびたびお世話になったオーストリアのスーパーマーケットです。オーストリアに限らずヨーロッパはレストランの食事が高いので、スーパーマーケットは重宝します。肉や野菜、ビールやワイン等は日本より安いです。
写真-2 オーストリアでよく見かけるBILLA。他には、SPAR、MERKUR、HOFER、LiDLなどがあります。
Austrofoma 2019の次なる問題は案内が不親切であったことです。どこに会場があるのか、どこに駐車場があるのか、シャトルバスがどこをどのように走っているのか、ほとんど情報がなかったので、とにかく行ってみるしかないという状況でした。現地に着くと地図が書かれた案内板(写真-3)があったのですが、こういう地図は現地を知っている人、現地にすでに行った人には理解できるのですが、そうでない人には理解できないものです。今なら現地に行ったので筆者にも理解できますが、当時はなんのことかさっぱりわかりませんでした。
写真-3 Austrofoma 2019の案内板
写真-3の説明をすると、右上にあるAUSTROFOMA-Dorfと左側にあるRundkursという2会場が現地にあり、前者は主に小道具の展示会場、後者は林業機械の実演会場でした。青い四角に「P」と書かれた駐車場は右側のForchtensteinと左側のHochwolkersdolfの2カ所にありますが、前者は最後までどこにあるのかわかりませんでした。黄色の四角に「H」と書かれたところが会場内を巡回しているシャトルバスの停留所ですが、バスには複数の系統があるようで、途中で乗り換えが必要だったりします。さらに困ったことに、バス停を示すものは何もなく、現場にいる運営スタッフにきいても「わからない」と言われ、人が並んでいるところだろうと見当をつけるしかなかったです。オーストリアには何度か来ていますが、人々の仕事のいい加減さに毎回圧倒されています。
ヨーロッパという地域をマクロな視点でみると、北は豊かで南は貧しい、北は食事がまずくて南は美味しい(メシウマ)、北は仕事がきっちりしていて南はいい加減(飲んだくれ)という傾向があります。ざっくり言って、北はゲルマン系、南はラテン系とも言えますが、オーストリアは言語的にはゲルマン系でも、人や社会の雰囲気はラテン系に近いと感じます。ミュンヘンを州都とするドイツのバイエルン州もこんな感じなので、ヨーロッパにおける中緯度地方の特徴と言えるかもしれません。車の運転でも、オーストリアの一般道を日本並みに60km/hで走っていると後ろから激しく煽られ、高速道路を100km/hで走っているとやはりがんがん煽られます。北欧だと車の運転は譲り合いの精神をもって穏やかに行われるのが普通ですが、それと比べるとオーストリアの車の運転はイタリア並みに荒いです。こんなところもオーストリアはラテン系だなと感じられる理由です。
3. 林業機械の紹介
林業機械化において、ヨーロッパは世界最先端のレベルにあり、しかもオーストリアなどの中欧諸国は日本に近い山岳地形を有するため、架線系集材の展示・実演が充実しており、Austrofoma 2019に参加することで我々が得られるものはとても大きいと言えます。日本の林業が行政丸抱えの補助金産業となっている中で、産業として自立し大きな利益もあげて地域の雇用を生み出し、今や一国の経済を支えているオーストリアの林業に我々は学ぶ必要があります。Austrofoma 2019の全体的な傾向としては、トラクタをベースとする小規模林業(農畜林複合経営)のための林業機械と急傾斜地に乗り入れることで生産性と安全性を最大化する車両系機械に機械開発の二極化が進んでいるように思われました。
写真-4および動画-1はTEUFL Austria Energreen社(オーストリア)のRoboGREEN evoという傾斜地対応のリモコン草刈り機で、その実演が注目を集めていました。日本にも筑水キャニコムの「山もっとジョージ」という機械がありますが、人が乗って操作している理由がよくわかりません。また、日本の下刈り作業は、ほとんど人力(刈り払い機)で行われていますが、車両型機械を導入する余地は大きいです。特に、いわゆる道刈りは簡単に車両型機械が使えるのではなかろうかと思っています。近年、下刈りコストの低減のために、低密度植栽が注目されていますが、ただ単に植栽密度を減らすのではなく、機械化を視野に入れた戦略的な低密度植栽を考えるべきです。機械化作業を優先した列状間伐と同様のコンセプトで、「列状下刈り」を前提とした低密度植栽を試みて欲しいと思っています。
写真-4 リモコン草刈り機RoboGREEN
動画-1 リモコン草刈り機RoboGREENの作業
写真-5は、ハーベスタヘッドを一体化したコンビ型タワーヤーダの王者MM Forsttechnik社(オーストリア)のSYNCROFALKEです。このタイプのコンビ型タワーヤーダは2人で1日に80㎥程度の集材が可能で、搬器が往復する隙間時間に造材を行うため、日本で一般的な高性能林業機械の連携作業(機械を連携させると生産性は低下します)よりも圧倒的に高い生産性を叩き出します。日本ではタワーヤーダの下げ荷集材は難しいと言われますが、SYNCROFALKEは下げ荷集材をむしろ得意としています。MM-SHERPAという搬器を使ったシステムは完成の域に到達しており、ここ数年大きな変化がなかったのですが、ヨーロッパ林業界におけるエコの流れを受けてついに電動化へ踏み出しています。写真-6はMM-SHERPA UE 3tという搬器で緑色の部分に電動モーターを搭載しています。これにより、従来上げ荷集材でも3線(スカイライン・メインライン・ホールバックライン)が標準だったシステムが2線(スカイライン・メインライン)になり、索張りの架設・撤去が効率化・省力化されます。搬器の電動化により、ありがちなプロパガンダとしてのエコの実現ではなく、SYNCROFALKEの最後の弱点が克服されたと言えるかもしれません。
写真-5 下げ荷集材を行っているSYNCROFALKE
写真-6 電動モーターを組み込んだ搬器MM-SHERPA UE 3t
動画-2 MM-SHERPA UE 3tによる上げ荷集材
写真-7はKOLLER FORSTTECHNIK社(オーストリア)の電動式スラックプリング機構を備えた搬器ECKO UPです。MMと同様、緑色がエコを示しているようです。この写真のECKO UPは上げ荷線用で最大荷重1.5t、この他に上げ荷・下げ荷両対応のECKO FLEX(最大荷重2t)、上げ荷・下げ荷両対応のECKO BOOST(最大荷重4t)があります。KOLLERのECKOもMMのSHERPAも、搬器係留時にメインラインを巻き上げる力でバッテリーの充電を行っているようです。
写真-7 電動式スラックプリング機構を備えた搬器ECKO UP
写真-8はKOLLERのプロセッサヘッドP 60です。同社にはハーベスタヘッドのH 65(写真-9)もあります。何年も前からこれらの製品のイラストは公開されていましたが、実物が出てこないので、もう諦めたのかと思っていたらようやく出てきました。それにしても、競争が激しいプロセッサ・ハーベスタヘッドを今さらなぜ作ろうとするのか疑問でした。MMはコンビ型タワーヤーダのSYNCROFALKEにおいて、PALFINGERのクレーンやKONRADのハーベスタヘッドを使っており、そのため自社製品が売れると他社に利益の一部を持っていかれるという構造になっています。KOLLERはプロセッサ・ハーベスタヘッドの内製化によりコンビ型タワーヤーダにおける自社の利益を高めようとしたのではないかと想像しています。また、オーストリアにおいても、車両系機械の傾斜地対応が進んで架線系集材の割合が低下している事情から、将来を見据えて事業の幅を拡大したとも考えられます。
写真-8 プロセッサヘッドP 60
写真-9 ハーベスタヘッドH 65
Austrofoma 2019で意外な発見だったのは、Bereuter Maschinenbau社(オーストリア)のグラップル搬器(写真-10)が展示されていたことでした。どうやって横取りをするのか尋ねたところ、グラップルローダーを使って木寄せをするとのことでした。それでは、このグラップル搬器が使える場所が著しく制約されるだろうと思いました。グラップル搬器は荷掛け・荷外しの効率化のために巨木を集材する北米において使われていましたが、近年は荷掛手の労働安全を指向した方法としてニュージーランドでも利用が広がっているようです。ビデオカメラの動画を無線で簡単に飛ばせるようになったため、集材機のオペレータが誘導員の指示を受けずに単独でグラップルを操作できるようになりました。ただし、横取りは難しいので、グラップルローダーを使うか索張りを張り替えるしかありません。イワフジ工業が作っているグラップル搬器では、エンドレスタイラーのホールバックラインでグラップルを横に引き出して材を掴むようですが、それが本当に可能なのか疑問に思っています。
写真-10 オーストリア製のグラップル搬器
実物の展示はありませんでしたが、KOLLERがGSK 4というグラップル搬器(写真-11)を作ろうとしているようです。グラップル搬器は横取りが課題になるのですが、「Optional with a small winch for sideway pull」と書かれているのを見つけました。確かに、搬器にウインチをつけてエンジンまたはモーターの動力で線下まで木を寄せればグラップルで掴めそうです。簡単なことなのに、今までなぜこの方法が採用されなかったのかと思いました。
写真-11 KOLLERのグラップル搬器のイラスト
写真-12はTST Seilgeräte Tröstl社(オーストリア)のトラクタ牽引型のタワーヤーダTST400です。トラクタの動力だけで、本格的なタワーヤーダ集材が実現します。このタワーヤーダとTST 2500/Iという搬器(写真-13)で実演が行われていました。この搬器は同軸3室ドラム型の3線型ランニングスカイライン式搬器とも似ていますが、仕組みが若干わかりにくいので、TSTはいつも写真-14の模型を使って説明しています。このシステムではスカイラインは550m(直径16mm)、メインラインは1,100m(直径9mm)、ホールバックラインは1,100m(直径7mm)となっています。実演を見ていると、搬器がかなり上下に揺れているのが気になりました。TST400より小型のトラクタベースのタワーヤーダTST JUNIORも展示されていました(写真-15)。
TSTとMMのタワーヤーダの見た目は大きく違いますが、両者は歴史的なルーツが同じなので、メインラインとホールバックラインの操作でスラックプリング機構を実現している点では類似していると思います。TST400の場合、搬器の走行速度は最大10m/秒と高速であり、性能面でも両者は互角に近いと言えます。日本では鳥取県の八頭中央森林組合にトラック搭載型のTST400が導入されています。
写真-12 トラクタを動力としたタワーヤーダ
写真-13 スラックプリング機構を備えたTST 2500/I搬器
写真-14 TST搬器の模型
写真-15 TST JUNIOR
動画-3 TST400による集材作業
写真-16はヨーロッパの架線系集材の現場ではどこへ行っても当たり前のように使われているチョーカー(玉掛けワイヤー)です。搬器側のフックがT字型になっていて、荷掛け・荷外しが効率よく行われていると思います。日本でも海外製タワーヤーダを使っている現場ではこのチョーカーを見かけるようになりました。ヨーロッパは林業関係の小物も充実しており、こういうお宝を発掘したいと思っているところです。
写真-16 ヨーロッパでスタンダードなチョーカー
写真-17はTerminal Wildverbißschutz社(ドイツ)がTS PROTECTORという商品名で販売しているシカの食害対策のプロテクターです。紫外線対応で10~15年の耐久性があります。青とオレンジと黄色があり、オレンジと黄色は目立つので下刈り時の誤伐対策にも有効とされています。青はシカが視認できる色で、シカが寄りつかなくなるとのことです。日本でもニッケンがこれとそっくりの互換製品の販売を始めていますが、本家のものよりも値段がかなり高く、コストの問題は大きいと思いました。苗木の生長にともない、毎年プロテクターの付け替えが必要になるらしく、その手間やコストがどのくらいかかるのかも気になるところです。
写真-17 シカの食害対策のプロテクター
写真-18~20はUNIFOREST社(スロベニア)が出展していたトラクタベースのタワーヤーダシステムCOBRAです。道からちょっと離れたところで実演をしていたので、これを見つけた人は少なかったのではないかと思います。一目見てオーストリアのタワーヤーダを研究し尽くした完成度の高いシステムでした。スロベニアの林業機械メーカーと言えば、林業用のクレーンが有名でタワーヤーダ(MOZ 300)も作っているTAJFUN LIVが有名ですが、このタワーヤーダシステムはそれを凌駕していると思いました。リモコン操作の係留搬器2500HS(写真-20)だけでも日本にあれば、スイングヤーダの生産性も格段に向上するのでは思っています。
写真-18 タワーヤーダT9500-25
写真-19 トラクタに装着されたT9500-25
写真-20 リモコン式搬器2500HS
動画-4 COBRAシステムによる集材作業
写真-21はトラクタをベースマシンとしたグレーダですが、メーカー名をチェックするのを忘れてしまいました。日本の林道・作業道には路面がでこぼこで、フォワーダしか走れないような道が多々あり、こういう機械を使って路面のメンテナンスをするのがよさそうです。同様にして、トラクタに転圧ローラーをつけて、路体の締め固めをしっかりして欲しいとも思っています。日本の作業道は補助金から足が出ない範囲で作られるので、路面処理、締め固め、排水において手を抜きまくることでコストを抑えた道が無計画につくられている状況にあります。そういう作業道は使い捨てで、一度使ったらメンテナンスもされずに長期間放置されてしまいます。こういう補助金は本来、未来の日本林業の恒久的な基盤となる林道に対して払われるべきものです。高性能林業機械もそうなのですが、補助金が悪い方向に作用している典型例です。
写真-21 トラクタベースのグレーダ
写真-22はpewag社(オーストリア)のbluetrackという製品で、ホイール型車両を不整地の乗り入れる際に使われるトラック(チェーン)です。日本では作業道や不整地の走行にはクローラが必要と頭から信じ込んでいる人が多いように思います。ヨーロッパでは、トラック(チェーン)を使うことで不整地におけるホイール型車両の走行能力はクローラ並みに向上するので、クローラは不要という話を聞きます。ヨーロッパの平地~緩傾斜地では大型のハーベスタ・フォワーダによるCTLシステムによる集材作業が一般的ですが、森林の土壌構造や樹木の根系へのダメージを軽減するためにも、このようなトラック(チェーン)の使用が不可欠となっています。
写真-22 pewag社のbluetrack
動画-5 bluetrackの使い方
写真-23と24はecoforst社(オーストリア)のT-WINCHです。近年傾斜地における集材作業へのハーベスタ・フォワーダの導入が進んでいますが、それを支えている技術がこのようなウインチ・アシストシステムになります。ヨーロッパでは危険度の高いチェーンソーによる伐倒作業をなくす動きが加速しており、その流れの中で架線系集材が徐々に縮小しているようです。ただ、このウインチ・アシストシステムも安全面で万全ではなく、大型機械の林地への進入に伴う森林土壌への影響も懸念されています。
写真-23 T-WINCH 10.2
写真-24 油圧ショベルのアームに取り付ける新型のT-WINCH X.2
動画-6 T-WINCHを使った作業風景
写真-25は傾斜地走行が可能なNeuson Forest社(オーストリア)の履帯ハーベスタ243HVT(ハーベスタヘッドはKomatsu Forest傘下のLog Max製品)です。この会社はウインチ・アシストシステムに対して強い対抗心を持っているようで、ウインチ・アシストシステムよりも安全であることを力説していました。とはいえ、この履帯ハーベスタとウインチ・アシストシステムを組み合わせたらより安全になるのではないかと思っています。
写真-25 Neuson Forest社の履帯ハーベスタ243HVT
動画-7 Neuson Forest社の履帯ハーベスタによる作業
今回の旅行でオーストリアの山間部を車で移動していると、写真-26のような景色が至る所で目に入ってきました。平地に畑、山裾に牧草地、その上が林地というのはオーストリアの山間部で見られる典型的な土地利用の形態だと思われます。ヨーロッパの小規模農林家の成功の秘訣は、1台のトラクタを農業における農地の耕耘や農作物の輸送、畜産業における飼料やフェンス資材の運搬、林業における集材・運材・薪割りなどと多目的に利用することで、トータルの機械コストを最小にしていることであると思っています。日本においても、今は縦割りになっている農業・畜産業・林業を、ベースとなる機械の共用を通じて一体的に経営していくことが必要と考えます。
写真-26 オーストリア山間部の典型的な風景
4. おわりに
Austrofoma 2019の会場で日本語があちこちから聞こえてきたことから、たくさんの日本人が来場していたのだろうと思います。林業現場で働く人たちが、林業というのは未来のある有望な産業であることを意識して仕事へのモチベーションが高まるならこれほど素晴らしいことはありません。異文化体験が人間の知的成長にもたらす効果は絶大なので、Austrofomaに参加した誰もが、かけがえのない体験の記憶を持ち帰り、日本での日常的な風景がこれまでとは違った視点で見えるようになったのではないかと思います。
一方で、日本の林業機械開発がヨーロッパから周回遅れであるという現実がありながら、ヨーロッパに追いつく努力を怠っている現状には危機感を持っています。Austrofomaの会場で見られる林業機械と林業技術に、日本で見られないものがあるのはなぜなのでしょうか?その理由として考えられるのは、これまで日本の林業機械開発は常に「日本型」であることを掲げて、ヨーロッパの林業技術を独自に修正して導入しているからと考えます。この状況は国産タワーヤーダ開発の歴史に典型的に見られます。ものづくり大国である日本の機械技術者のレベルは非常に高いので、ヨーロッパの林業機械の写真やビデオを見るだけで、ほとんど同じものが作れてしまうのですが、そっくりそのままコピーするのは彼らのプライドが許さなかったようです。典型例としては、タワーヤーダにエンドレスタイラーという我が国固有の索張りを使うという失敗を重ねています。
エンドレスタイラーは架設撤去に時間・人工を要する索張りで、一度線を張ったら、そこから相当量の材が出てこない限り採算が取れない方法です。一方、タワーヤーダは車両型の移動式集材機なので、道に沿った比較的狭い伐区で次々に張り替えをして、タワーを元柱として使うことで架設撤去の時間・人工を極限まで最小化して集材を行う技術です。狭い伐区でエンドレスタイラーの索張りを張っていたら、架設撤去の時間ばかり要して、生産性は全く上がりません。逆に伐区を広げた場合、タワーヤーダのようなタワー付きの移動式集材機を使う意味がなくなり、集材機で十分ということになってしまいます。タワーヤーダとエンドレスタイラーは全く方向性が違い、これらを融合する理由がありません。
また、かつて日本で開発されたタワーヤーダの多くはオーストリアと同じように300m程度の中距離集材を指向していましたが、エンジン出力が小さく搬器の移動速度はゆっくりとしたものでした。集材距離が長くなると、搬器の移動速度が生産性を決定づけることになります。つまり、搬器の移動速度が遅ければ、搬器の往復に時間を要し、生産性は著しく低下します。せめて、ヨーロッパのような重力で搬器を高速に送る索張りにしていればよかったのに、エンドレスタイラーのみならずランニングスカイライン(注:メインラインとホールバックラインの2線で構成される日本で主流のランニングスカイラインは本来の索張りからスラックプリング機構を省略した簡易的なものですが、このやり方では集材効率があまりに悪いので世界的にはほとんど使われていません。後述の「林業機械学」という教科書では著者により「イサアクセン式」という名称が与えられていますが、「ランニングスカイライン式」と呼ぶことに著者が抵抗を感じていたのではないかと思われます。)のような重力を利用しない方式だったので、やはり生産性は上がっていません。安全性の面でもエンドレスタイラーは荷掛手の首が飛んだり頭が割れたり手足が切れたりしかねない危険な方法で、現代のヨーロッパでは安全性の観点から絶対に受け入れられないだろうと思います。
タワーヤーダでは十分に高いタワーがスムーズな集材作業を確実なものにします。特に、国産タワーヤーダで主流となっていたランニングスカイラインは高いタワー高を要求するのに、国産タワーヤーダのタワーは10mに満たないものがほとんどでした。ランニングスカイラインは中間サポートを使うことが難しいので、低いタワーでは日本の複雑な地形にも対応できません。
ヨーロッパの先進的な林業技術を導入するにあたっては、最初は現地の機械をそのまま導入して、それを国内で徹底的に使い込んだ上で、日本の地形など条件に合わせた修正・改良を考えるべきです。ヨーロッパの林業機械の写真やビデオを見て頭の中で「日本型林業機械」を設計すると、典型的にはタワーヤーダのように、ヨーロッパのものとは似て非なるものができ上がってしまいます。学問の中に文系・理系という高い壁を築いている日本では、機械技術者の多くは外国語が苦手で、ヨーロッパの機械技術者とコミュニケーションを取ったり外国語の文献を読み込んだりしていなかったように見えます。その一方で、そういう人たちは機械技術の分野における職人的な能力は極めて高いので、ヨーロッパと似たような機械(日本型林業機械)をいとも簡単に作ってしまったのでしょうが、それが今日まで失敗を重ねてきた原因だったと思います。近年のICT林業(スマート林業)に見られるように、新しい言葉や技術に次々に目移りしては、過去に開発してきた林業機械に対する総括(反省)が全く行われていないことも問題です。
世界的な架線技術の古典であり名著として知られるSpringerの「Winch and Cable Systems」(Ivar Samset著)を改めて読むと、日本ではスナビング式として知られる(注:ヨーロッパでは索張りに何々式のような名称は通常つけないので、スナビング式と言ってもわかってもらえない可能性が高いです。)集材機を先山に設置して材を搬器に吊して重力で下方に搬送するシステムの技術的延長として必然的に現在のタワーヤーダを使った集材技術が生まれたことがわかります。我が国においてかつて国産タワーヤーダの開発に携わった人たちは、この「技術の延長線」を見ていなかったのだろうと思っています。日本語の文献では、文英堂出版の「林業機械学」(大河原昭二編)がお勧めです。どちらも古い本ですが、内容に古さを感じることもなく、温故知新の言葉の意味をひたすら実感します。こういう本を読んで勉強しておくと、林業機械展示会が100倍楽しくなってくるでしょう。
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