温泉の話 3 富山県みくりが池温泉

びっくり風呂

富山県立山町のみくりが池温泉は、年間100万人以上の観光客が訪れる「立山黒部アルペンルート」の室堂平にあり、標高2400mに位置する日本最高所の温泉である。温泉の名前にもある「みくりが池」とは神様の台所の水であったと伝えられる神秘的な池で、水面に映る立山は大変美しい。日本最高所の温泉というと凄い山奥を想像してしまうが、アルペンルートの駅から徒歩で10分ほどの便利な場所にあるので、いつも沢山の観光客で賑わっている人気の温泉である。ちなみに日帰り入浴は800円(当時は500円)。
 そんな「みくりが池温泉」を、私が初めて訪れたのは2002年の10月であった。転職の合間にまとまった時間があったので、久しぶりに時間を気にせずのんびりと山を歩こうと思って北アルプスへ向かったのだった。戦国時代に富山藩主の佐々成政が、徳川家康に助けを求めるために雪の北アルプスを横断した「さらさら越え(ザラ峠越え)」を自分もやってみようと思い、長野県の信濃大町駅から富山県の富山駅まで歩いてみたのである。アルペンルートの乗り物を使えば1日で富山駅に着くことができるのだが、途中関係のない山に登ったり、突然の大雪にたたられたりしたので、私がみくりが池温泉に到着したのは大町駅を出て4日目の昼であった。前日の山小屋(平の小屋という岩魚つり名人の素敵な小屋)の宿泊客は私一人であったのだが、みくりが池温泉には100人近くが宿泊していた。最初は混んでいて嫌だったが、温泉は素晴らしかった。白く濁った熱いお湯が綺麗な湯舟になみなみと注がれ、大きな窓からは大日岳が夕日に染まって見え、とても美しかった。なにより程よい硫黄の匂いと、ポカポカに体が温まる泉質がとても気に入った。
夕食の時間だったので、その時温泉に入っていたのは私だけだった。少しして、脱衣所に人が入ってきた気配を感じた私は、ちょっとしたイタズラを思いついた。(^^♪ 脱衣所の男性が入ってくる直前に、私は静かに白いお湯の中に潜った。体が浮かないように両手両足を湯舟の壁につっぱると、私の体は白いお湯の中に完全に消え去った。頃合を見計らって、私が白いお湯の中から飛び出すと、ちょうど男性は湯舟に入るところだった。可愛そうにその男性は驚きのあまり、湯舟の中で飛び上がり、お尻からお湯の中に落ちた。やりすぎたかと心配したが、笑って許してくれたので、私は夕食の時にビールをおごって仲良しになった。今思えば、怪我をさせていたら大変なところだった。
 楽しい夕食と気持ちのよい温泉で元気になった私は翌日、みくりが池温泉から富山駅までの70kmを一気に歩き通した。朝の7時に歩き始めて、富山駅に着いたのは夜の23時になっていた。疲れきった私は、富山城址公園の中に置いてあるSLの荷台に転がりこんだ。荷台の中で月に照らされる富山城を見ながら戦国時代の感慨にひたるつもりだったのだが、すぐに眠ってしまった。翌朝、公園の中には人の声が沢山して、SLの荷台から出るのが恥ずかしかった。恥ずかしがりながら荷台から出ると、今度は赤ちゃんをつれたお母さんに驚かれてしまった。 今度はわざとじゃなかったのに....
 今でも私はしばしば会社で隠れているのだが、同僚には常に無視されている。

その後 みくりが池温泉でも1シーズン住み込みで働いた。
冬は北海道のスキー場で働き、1年中スキーを楽しんだ、今思えば夢のような時間だった。

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