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毎日連載する小説「青のかなた」 第9回

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 光の手にフォークとスプーンを握らせ、膝の上に取り皿を置く。風花は風花で、何かニワトリの絵が描かれたビールの缶を渡してくる。

「ようこそ、光! カンパーイ!」

 思南と風花が缶を高く掲げるのを見て、「あ、これはもう逃げられないな」と、光はようやく気づいた。

「カ、カンパーイ……」

 ここまで来たら、もう我慢するしかない。当たり障りのない会話をして、適当に切り抜けよう。でも、当たり障りのない会話って一体どんなの?
 光があれこれ考えているうちに、思南が光の取り皿にぽいぽいと料理を置いていく。

「いやあの、私、こんなに食べられないです……」
「光はどんなごはんが好き? 小籠包もコロッケも肉じゃがもあるよ。肉じゃがは昨日の残りだけど味が染みていておいしいよ! エビチリとエビマヨはどっちが好き?」
「えーと、エビチ……」

 思南は光の返事を聞く前に、エビチリもエビマヨも、それからそばにあった何かピンク色のものを皿に載せてきた。スパムだ。スパムをスライスして焼いたものに、薄い卵焼きが添えてある。

「……これ、ポーク卵?」

 光が言うと、「よく知ってるね」と風花が微笑む。思南は知らなかったらしく、「これ、ポークたまごって言うの?」と皿を覗き込んで言った。

「そう。スパムとかランチョンミートとか、いろんな言い方あるけれど、沖縄では『ポーク』って呼ぶよ。焼いたポークに卵焼きを合わせたのを『ポーク卵』って言って、沖縄の定食屋さんには必ずと言っていいほどメニューにあるわけ。郷土料理の一種さ」

 そう話す風花は、さっきまでとは発音が明らかに違っていた。沖縄の方の訛りだ。

「私は沖縄出身だから、たまに出るわけ」

 光は「そうなんだ」と答えたけれど、彼女の名前を聞いたときから気づいていた。「玉城」というのは、沖縄によくある姓だからだ。

「そっか。スパムはアメリカ軍の食べ物だから、沖縄でも食べられてきたんだね。パラオと一緒だねー」

 思南が言う。日本の敗戦後、パラオはアメリカの統治下に置かれることになり、それは一九九四年にパラオが独立するまで続いたそうだ。もともとの島の文化に、日本とアメリカの文化が交じり合っているところは沖縄とよく似ている。

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