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旅記 さわやか・ホテル

 このあと予定がないんです、とおねえさんに話すとさわやかというハンバーグ屋さんを勧められました。とてもおいしいと有名なお店だと。

 私もそのとき思い出していました。友人が静岡を訪れるたびに「さわやかを食べて来た」と話してくることを。そのおいしさを目の前で説かれ、いつか食べたいものだと思いを強めていました。いまがそのときなのだ。

 時刻は午後四時。夕飯には早すぎるほど早いですが、曰くこれからどんどん混むから並びたくないなら早いほうがいいと。しからば行かん、いざさわやかへ。

 花鳥園の受付で傘を返却し、見送りを受けながら出発します。ナビに従って十分程度で到着しました。

 幸い大して混み合っていませんが、それでも六組ほどが並んでいました。受付完了。順番が近づけばメッセージで呼んでくれるようです。ブックオフが隣接していたので冷やかすこと30分。呼ばれたので向かいます。

 この間に、例の友人におすすめメニューを聞きました。

「普通にげんこつハンバーグを食べてくれ」
「ソースは自分でかけること。半分はソース、もう半分は塩コショウだけで食べてくれ。あとライス」
「腹に余裕があればパフェやハンバーガーも食べてくれ」

 実はおねえさんにも聞いたけれど、それと全く、食べ方まで全く同じ内容の返事が来ました。笑った。


中がレアで口当たりが繊細。

 本当に正解。みなさん食べに行ってください。

 ハンバーグを食べきってしまった悲しみに暮れつつも本日の宿を決めなければいけない。元々美濃辺りまでは戻ろうと思っていました。明日も一日中運転するのはごめんです。

 色々と探した結果、関市のルートインホテルに決まりました。旅先でホテルを取ったのは初めてです。最悪サービスエリアで車内泊も考えていたので、本当によかった。ただ結果当日の運転時間は七時間を越えました。グロッキーです。

 関市には父の通っていた専門学校があると、後々聞きました。いえ、そういえば何度かそんな話をしていましたが、このときは欠片も思い出すことなく。現在はどこかの大学に吸収されているらしいので、それくらい見てきてもよかったかもしれません。

 けれど翌朝、信号待ちであたりの景色を見回して、低い建物、水路、田んぼ田んぼ田んぼ、その向こうの山並み、冬場の青空、冷えた空気、透明な日差し、誰もいない……ここで生活する人は毎日この景色の中で生活しているんだ、私の知らない景色、何の変哲もない、この土地の人しか知らないこの土地の景色。これは一般的な価値観では些かの希少性もありません。けれど、この場で何十年と暮らしてきた人々の、ある人にとっては大切な景色かもしれない。

 父はなんにもないところだった、と言います。けれど、父自身がそう思っているとしても、その記憶の景色は父にとって代替不可能な唯一の価値があるのだろうと思います。

 昨日と打って変わってよく晴れた日です。今朝ほど布団の中で「うだつの上がる町並み」という場所を見つけました。おとなり美濃市で、小さな歴史的な街並みが保存されているようです。帰りがけに寄る程度ならちょうどいい。そう思って一路、美濃市へと向かいます。